5 / 14
情報
しおりを挟む
「どうかされましたか?」
次の日になっても僕の心は行き場がなく、行ったり来たりの心情を抱え、ずっと塞ぎ込んでいた。
「いえ…、ちょっと考え込んでいてぼうっとしてました。申し訳ありません」
そう、あの一冊目のファイルに目を通してから、僕はずっとこんな調子だ。
あの四人のアルファのうち、誰か一人を選ぶのは僕の義務だ。
だけど誰を選ぼうとも行き付く先は同じ。
ならば一番相性がいいとされる、最初の人と番った方が良いだろうと思っていた。
だがその思いに反し、僕は最初の人の写真を見ただけで嫌悪感がつのり、頭が拒否をする。
相性がいいと言われた人ともこういう状態ならば、きっと残りの人にも同じ反応をするんじゃないかな…。
こんな気持ちになると、いっそ既婚者との結婚も考えてしまうが、それは絶対に避けなければならない事だ。
「明日を控え、気持ちが高ぶっているのでしょう。もし何でしたら今日もお休みにしましょうか?」
僕にとって見合いなど無意味だけど、こんな様子なら来て下さった先生にも迷惑を掛けてしまう。
そう思い、僕はその言葉に甘える事にした。
「その方がよろしいでしょう。代わりにと言っては何ですが、午後に3時間ほどお時間を頂きとうございます。いえ、大した用事では有りません。明日に備えて少々準備したい事が有りまして」
準備したい事?どうせ僕には興味がない。
勝手にすればいいさ……。
顔合わせの段取りの説明。
衣装選び。
試しにと化粧までされた。
それを落とすついでだと全身のマッサージを受け、爪を整えられる。
「明日のコンディションを整えるため、今夜はお早くお休み下さい」
ニコニコしながら、一連の事を見守っていた女性が僕にそう声を掛けた。
普段しなれない事をされ、くたくただった僕は、きっとその言いつけを守れるだろう。
そうは思ったが、やはり明日の事を考えると、一向に眠りは訪れなかった。
やはり明日会う人を思うと、どうしても受け入れる事が出来ない。
にこやかに微笑むあの写真の向こうから、オメガと言う存在を見下し、蔑んでいるように感じる。
自分の子供さえできれば、僕と言う存在などどうでもいい。
きっとそう思っているのだろう。
でもそれは僕が思っているだけであって、本当はそんな人じゃ無いかもしれないだろう?
会って話してみなければ、本当の事など分からないじゃないか。
でも話したところで、その口から出る言葉が本心かどうかも分からない。
結局は僕を人間ではなく、道具だと思っているのかもしれない。
そんな考えは僕の思い込みかもしれないし、本当の山之内さんは、そんな人じゃ無い可能性もある。
付き合って行くうちに、僕の事を本当に愛してくれるかもしれないじゃないか。
”かもしれない”
その言葉は可能性であって、僕の都合のいい願望じゃないか。
そんな事をいつまでも考え、自問自答を繰り返す。
結局眠れなかった僕は、のろのろとベッドから這い出て、他のファイルも目を通す事にした。
『No、2』
大胡田皐月、性別女性、年齢33歳、本籍地………。
「ふ~ん、女性もいるんだ……当たり前か」
写真を見る限りは、山之内さんのような嫌悪感は感じなかった。
嫌味の無い優しそうな顔。
アルファは美形が多いと聞いていたが、大胡田さんは綺麗と言うより可愛いと言う方が似合っているな。
でも何故かピンと来ない。
多分友人として付き合うならば何の抵抗も無いけれど、この人とは絶対に夫婦と言う関係は有り得ないと思う。
三冊目のファイルは男性だった。
何となくこの人には親近感がわいた。
鳳海翔、性別男性、年齢50歳………。
何故かその写真を見ていると、微笑みが漏れる。
多分父さんと近い年齢のせいかもしれないな。
きっとこの人は、僕…いやオメガを軽蔑などしない。
道具ではなく、一人の人間として扱ってくれる気がする。
『No、4』
東雲葵、性別男性、年齢39歳………。
明るい人だなと言うのが第一印象だった。
我儘とは思わないけれど、きっと自分の意志で全てを決め、思う通りに生きていく人じゃないかなと思う。
だけど、きっとこの人にはオメガを必要としない。
必要としないと言うか、自分が好きだと思った人なら、オメガだろうがべーターだろうが、普通の人だろうが関係は無いのだろう。
全てのファイルに目を通し、最後のページを閉じる。
目を瞑りソファの背もたれに体を預けた時、自分が思いのほか緊張し、体に力を入れていたことを自覚した。
「疲れたな……」
今日、いや、昨日か。
早く休むように言われたのに叱られてしまうな…。
まあ実際は、僕を叱る人など誰一人いないけれど。
『結樹様、失礼してもよろしいでしょうか?』
広いペントハウスの、あちこちに仕掛けられたスピーカーが声を発する。
そうか、夜中だろうと僕は見張られているんだよな。
「はい、かまいません」
するとどこからか、たまに僕の世話をしてくれる田口さんが現れた。
「お体に障りますので、そろそろお休みになった方がよろしいかと思いますが、眠れないのであればお薬をお持ちしましょうか?」
お薬、睡眠薬か…。
「いえ、そろそろ眠ろうと思っていましたので、睡眠薬は結構です」
「そうですか、ではミルクでもお持ちしましょう」
それから時間を置かず、飲みやすく温めたミルクが運ばれてきた。
僕が好む、ほんのりとした甘みの有る味。
「ありがとうございます」
「いえ、ではおやすみなさい」
それから田口さんは、僕の飲みほしたカップを下げ、帰って行った。
これからまた、僕を観察するため、モニターの前に座るのだろうが。
次の日になっても僕の心は行き場がなく、行ったり来たりの心情を抱え、ずっと塞ぎ込んでいた。
「いえ…、ちょっと考え込んでいてぼうっとしてました。申し訳ありません」
そう、あの一冊目のファイルに目を通してから、僕はずっとこんな調子だ。
あの四人のアルファのうち、誰か一人を選ぶのは僕の義務だ。
だけど誰を選ぼうとも行き付く先は同じ。
ならば一番相性がいいとされる、最初の人と番った方が良いだろうと思っていた。
だがその思いに反し、僕は最初の人の写真を見ただけで嫌悪感がつのり、頭が拒否をする。
相性がいいと言われた人ともこういう状態ならば、きっと残りの人にも同じ反応をするんじゃないかな…。
こんな気持ちになると、いっそ既婚者との結婚も考えてしまうが、それは絶対に避けなければならない事だ。
「明日を控え、気持ちが高ぶっているのでしょう。もし何でしたら今日もお休みにしましょうか?」
僕にとって見合いなど無意味だけど、こんな様子なら来て下さった先生にも迷惑を掛けてしまう。
そう思い、僕はその言葉に甘える事にした。
「その方がよろしいでしょう。代わりにと言っては何ですが、午後に3時間ほどお時間を頂きとうございます。いえ、大した用事では有りません。明日に備えて少々準備したい事が有りまして」
準備したい事?どうせ僕には興味がない。
勝手にすればいいさ……。
顔合わせの段取りの説明。
衣装選び。
試しにと化粧までされた。
それを落とすついでだと全身のマッサージを受け、爪を整えられる。
「明日のコンディションを整えるため、今夜はお早くお休み下さい」
ニコニコしながら、一連の事を見守っていた女性が僕にそう声を掛けた。
普段しなれない事をされ、くたくただった僕は、きっとその言いつけを守れるだろう。
そうは思ったが、やはり明日の事を考えると、一向に眠りは訪れなかった。
やはり明日会う人を思うと、どうしても受け入れる事が出来ない。
にこやかに微笑むあの写真の向こうから、オメガと言う存在を見下し、蔑んでいるように感じる。
自分の子供さえできれば、僕と言う存在などどうでもいい。
きっとそう思っているのだろう。
でもそれは僕が思っているだけであって、本当はそんな人じゃ無いかもしれないだろう?
会って話してみなければ、本当の事など分からないじゃないか。
でも話したところで、その口から出る言葉が本心かどうかも分からない。
結局は僕を人間ではなく、道具だと思っているのかもしれない。
そんな考えは僕の思い込みかもしれないし、本当の山之内さんは、そんな人じゃ無い可能性もある。
付き合って行くうちに、僕の事を本当に愛してくれるかもしれないじゃないか。
”かもしれない”
その言葉は可能性であって、僕の都合のいい願望じゃないか。
そんな事をいつまでも考え、自問自答を繰り返す。
結局眠れなかった僕は、のろのろとベッドから這い出て、他のファイルも目を通す事にした。
『No、2』
大胡田皐月、性別女性、年齢33歳、本籍地………。
「ふ~ん、女性もいるんだ……当たり前か」
写真を見る限りは、山之内さんのような嫌悪感は感じなかった。
嫌味の無い優しそうな顔。
アルファは美形が多いと聞いていたが、大胡田さんは綺麗と言うより可愛いと言う方が似合っているな。
でも何故かピンと来ない。
多分友人として付き合うならば何の抵抗も無いけれど、この人とは絶対に夫婦と言う関係は有り得ないと思う。
三冊目のファイルは男性だった。
何となくこの人には親近感がわいた。
鳳海翔、性別男性、年齢50歳………。
何故かその写真を見ていると、微笑みが漏れる。
多分父さんと近い年齢のせいかもしれないな。
きっとこの人は、僕…いやオメガを軽蔑などしない。
道具ではなく、一人の人間として扱ってくれる気がする。
『No、4』
東雲葵、性別男性、年齢39歳………。
明るい人だなと言うのが第一印象だった。
我儘とは思わないけれど、きっと自分の意志で全てを決め、思う通りに生きていく人じゃないかなと思う。
だけど、きっとこの人にはオメガを必要としない。
必要としないと言うか、自分が好きだと思った人なら、オメガだろうがべーターだろうが、普通の人だろうが関係は無いのだろう。
全てのファイルに目を通し、最後のページを閉じる。
目を瞑りソファの背もたれに体を預けた時、自分が思いのほか緊張し、体に力を入れていたことを自覚した。
「疲れたな……」
今日、いや、昨日か。
早く休むように言われたのに叱られてしまうな…。
まあ実際は、僕を叱る人など誰一人いないけれど。
『結樹様、失礼してもよろしいでしょうか?』
広いペントハウスの、あちこちに仕掛けられたスピーカーが声を発する。
そうか、夜中だろうと僕は見張られているんだよな。
「はい、かまいません」
するとどこからか、たまに僕の世話をしてくれる田口さんが現れた。
「お体に障りますので、そろそろお休みになった方がよろしいかと思いますが、眠れないのであればお薬をお持ちしましょうか?」
お薬、睡眠薬か…。
「いえ、そろそろ眠ろうと思っていましたので、睡眠薬は結構です」
「そうですか、ではミルクでもお持ちしましょう」
それから時間を置かず、飲みやすく温めたミルクが運ばれてきた。
僕が好む、ほんのりとした甘みの有る味。
「ありがとうございます」
「いえ、ではおやすみなさい」
それから田口さんは、僕の飲みほしたカップを下げ、帰って行った。
これからまた、僕を観察するため、モニターの前に座るのだろうが。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる