【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第1章

3

〈20時〉

 たった一言だけ入っていたメッセージに気付いて、了解、と返信をしておく。講義を終えてキャンパスを出た未紘は、その足でスーパーへと向かった。
 毎日どこかのタイミングで送られてくる時間の記されたメッセージ。それは彼の帰宅時間を指していて、その時間に食事を用意しておけという意味だ。

「お疲れ」

 食事の準備を終えたタイミングで、ちょうど藤城が帰宅したらしい。振り向くとスーツ姿の彼がダイニングの入口に立って、テーブルの上に並べられた料理を物色していた。

「コロッケ?」
「蟹クリーム。ちょっと爆発した」
「おまえの料理スキル年々上がってない?」
「毎日作ってんだから当然だろ」

 言葉を交わしながら、キーフックに掛けられた鍵を一つ取り外す。

「バイト行ってくる」
「おー」

 欠伸をしながら返事をしてくる藤城がこちらを振り向くことはない。

 興味がないのだ。

 交わす言葉は最低限、目が合うことなんて滅多にない。
 気怠げにネクタイを緩めるその横顔を一瞥した後に、扉を閉めた。



 藤城と番になってからもうすぐ二年が経つ。しかしその関係はお世辞にも番らしいとは言い難い。出会った頃からずっと、関係性は平行線のままだ。

 彼のことは相変わらず、名前以外にほとんど何にも知らない。
 聞いたこともないし、向こうも特に話す気はないのだろう。自分より年上だろうということと、スーツを着るような仕事をしているということしか本当にわからない。

 彼に拾われたあの土砂降りの夜のことは、今でも鮮明に思い出せる。

『俺はさ、オメガがこの世で一番嫌いなの』

 初対面のオメガ相手に番契約を持ち掛けてきた直後、藤城はやけに威圧感のある笑顔でそう言い切った。

『所構わず発情して、見境もなくアルファに縋ることしかできない劣等種。下劣極まりなくて虫唾が走る』
『……オメガの前でそれ言うかよ。性格わりー』
『でもおまえも一緒だろ? おまえもオメガが嫌いだし、自分がオメガであることが許せない。違う?』

 言い当てられて、未紘はぐっと言葉を詰まらせた。
 そんなリアクションを見て正解だと悟ったのか、藤城がクスクスと笑いながら続ける。

『だったら手を組もうよ。番になれば俺は他のオメガに対する虫除けができるし、おまえは今みたいに急に発情したって俺以外に匂いを感じ取られることもない。襲われる心配は二度となくなる』
『……でも、おまえにはフェロモンが効くんだろ』
『勘違いすんなよ。俺はおまえなんかキョーミないしオメガを抱くなんて死んでもゴメンだ』
『なんだよそれ……』

 会話の中でとある疑問が頭に浮かんだ。番になればオメガは、番のアルファ以外に性的興奮を抱くことがなくなると聞いたことがある。
 一度番ってしまえば基本的には死ぬまで番は解消できない。ここから導き出されることは、つまり──。

『つまりおまえはこの先一生オメガとしての欲を満たせなくなるリスクもあるわけだけど──どうする?』

 藤城はまるで未紘を試すように、挑発的に微笑んだ。
 もしかしたら自分は今、この先の人生を懸けたとんでもない提案を持ちかけられているのではないか。
 どこかでそんな風に気付いてはいたが、どこかハイになっているあの状態では、正常な判断ができるはずもなかった。

『……そんなのどうだっていい。俺はオメガらしくアルファに媚びる気なんか毛頭ない』
『そうこなくっちゃ。じゃあ契約成立ってことでいい?』
『さっさと噛めよ』

 あんなに色気もクソもない状況で項を噛まれることになろうとは、夢にも思わなかった。
 ただ項に歯を立てられただけで、こんなに呆気なく番関係が成立するということにも驚いた。
 なんにせよ、こうして出会ったその日に、藤城芹と未紘は正式に番となった。


 それから藤城との間で交わした条件は三つ。
 他人に番関係を疑われないために、一緒に生活すること。発情期がきたら藤城が数日家を空けるために、速やかに知らせること。
 それから、互いに必要以上に干渉しないこと。

 現状、家賃や水光熱費などの諸々を払ってもらっているため、せめてもの恩返しで食事の準備や掃除などの家事は未紘が受け持っている。
 そして生活の全てを頼りっぱなしというのは性に合わないため、深夜帯のアルバイトで稼いで生活費の足しにしていた。

 共に過ごし始めて二年半の間に、藤城に抱かれたことも、触れられたことも一度もない。
 一見冷え切った関係のように見えるかもしれないが、未紘にとってはそれが心地良かった。
 他のアルファに襲われる心配もなくなって快適な暮らしまでさせてもらっているのだから、後悔はしていない。

 ──そんな均衡が崩れ去ったのは、番関係を結んでから二年と八ヶ月が経った頃だった。



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