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第2章
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「おっせーな……」
すっかり恒例となった、毎晩の藤城の部屋への訪問。その日も未紘は帰宅する藤城を待ち構えていた。
〈22時〉
会食があるから夕飯はいらない、と前日の夜に言っていたから、未紘は一人分の夕飯をコンビニで買って、とっくの昔に食べ終わってしまった。
そろそろ日付を超えてしまう。いつもなら送られてきた時間に正確に帰宅するはずの藤城が、いつまで経っても帰ってくる気配がない。
「ふぁあ……」
スマホの画面を眺めていると、大きな欠伸がこぼれた。
最近は深夜にバイトを入れていないせいか、すっかりまともな生活リズムに身体が作り替えられてしまった。
リビングのソファーに寝転がりながら、耐えられなくなって瞼が閉じそうになる。
最近は夜中に頭痛で起きることも多く、眠りが浅い日々が続いていた。
幸いにも今は痛みの波は落ち着いているし、今のうちに寝てしまおう。
自室に戻ろうとのっそりと起き上がったところで、不意にスマホが振動した。確認すると、珍しく藤城からの着信だった。
「なんすか」
スマホを耳にあてるが、藤城からの返事は聞こえない。
それよりも周囲ががやがやとうるさいことが気になった。
男女のものと思われる話し声や笑い声、それからグラスがぶつかる音。大音量で流れる重低音の響くBGM。
思わずスマホを耳から離してしまったが、スピーカーにしてもう一度声を掛けてみる。
「おい、あんた今どこにいんの。なんかクソうるせーけど」
間違って掛けてしまったのだろうか。しかし、どれだけ耳を凝らしても藤城の声は聞こえない。
さすがに不審に思っていると、はっきりとした会話が聞こえてきた。
『ねえどうする……? うちらも行ってみる?』
『こんなチャンス滅多にないよね、藤城さん番持ちだし、シャリオに来るなんて珍しいじゃん』
若い女性の声だ。会話の中で指しているのは、間違いなく藤城のことだろう。
どこかそわそわとしたような空気を感じる。
『あっちでオメガの女の子達が囲んでるよ、先越される前に早く行こ』
『あ、ちょっと待ってよー!』
そんな声と共に、どこかへ走り去るような足音が遠ざかっていった。
どうやらスマホの持ち主である藤城は近くにはいないらしい。とすれば、彼のスマホはどこかに落ちているのだろう。
──そんなことよりも。
(今、オメガの女の子達って言ったよな……?)
未だに周囲の雑音を拾うスマホの通話をスピーカー越しに垂れ流しながら、未紘はうーんと首を捻っていた。
会食とはどんなものだったのか知らないが、どうやらあまり健全な場とは言えないらしい。
おまけに藤城は大の苦手であるオメガに囲まれているそうだ。
以前未紘が少し触れただけであんなに取り乱していたあの男が、見知らぬオメガに囲まれて耐えられるのだろうか。
「……別に俺には関係ねーけど」
少し考えた末に、未紘は再びソファーに仰向けに寝転がった。
藤城とは番だが、世間一般で言う番関係とは著しくかけ離れている。互いに何の情もないし、損得でしか物事を考えていない。
藤城のことなんかちっとも知らないし、少し前までは知ろうとすらしなかった。
──俺はこんな見た目だからか、昔から発情したオメガに絡まれることが異常に多くて
──オメガに触れられると今みたいに発作が起きて、死にかける
見たこともない顔だった。
いつも自信満々なあの男が、あのときは酷く頼りなくみえた。
あんな姿は見たくない。だって藤城はもっと、自信家で横暴で性格悪くて口も悪くて、頑固でナルシストで高飛車で偉そうで……。
「……~~っ、あーっもう!」
がばっと起き上がると、そのままの勢いでスマホを手に取った。
会話の中で聞こえた店名を地図アプリで検索すると、場所はここから電車を乗り継いで十五分ほどの所にあるようだ。
「終電の時間とっくに過ぎてるし……。あとでぜってータク代払わせてやる」
文句を垂れながら足にサンダルを引っ掛けると、未紘は勢いよく玄関を飛び出した。
すっかり恒例となった、毎晩の藤城の部屋への訪問。その日も未紘は帰宅する藤城を待ち構えていた。
〈22時〉
会食があるから夕飯はいらない、と前日の夜に言っていたから、未紘は一人分の夕飯をコンビニで買って、とっくの昔に食べ終わってしまった。
そろそろ日付を超えてしまう。いつもなら送られてきた時間に正確に帰宅するはずの藤城が、いつまで経っても帰ってくる気配がない。
「ふぁあ……」
スマホの画面を眺めていると、大きな欠伸がこぼれた。
最近は深夜にバイトを入れていないせいか、すっかりまともな生活リズムに身体が作り替えられてしまった。
リビングのソファーに寝転がりながら、耐えられなくなって瞼が閉じそうになる。
最近は夜中に頭痛で起きることも多く、眠りが浅い日々が続いていた。
幸いにも今は痛みの波は落ち着いているし、今のうちに寝てしまおう。
自室に戻ろうとのっそりと起き上がったところで、不意にスマホが振動した。確認すると、珍しく藤城からの着信だった。
「なんすか」
スマホを耳にあてるが、藤城からの返事は聞こえない。
それよりも周囲ががやがやとうるさいことが気になった。
男女のものと思われる話し声や笑い声、それからグラスがぶつかる音。大音量で流れる重低音の響くBGM。
思わずスマホを耳から離してしまったが、スピーカーにしてもう一度声を掛けてみる。
「おい、あんた今どこにいんの。なんかクソうるせーけど」
間違って掛けてしまったのだろうか。しかし、どれだけ耳を凝らしても藤城の声は聞こえない。
さすがに不審に思っていると、はっきりとした会話が聞こえてきた。
『ねえどうする……? うちらも行ってみる?』
『こんなチャンス滅多にないよね、藤城さん番持ちだし、シャリオに来るなんて珍しいじゃん』
若い女性の声だ。会話の中で指しているのは、間違いなく藤城のことだろう。
どこかそわそわとしたような空気を感じる。
『あっちでオメガの女の子達が囲んでるよ、先越される前に早く行こ』
『あ、ちょっと待ってよー!』
そんな声と共に、どこかへ走り去るような足音が遠ざかっていった。
どうやらスマホの持ち主である藤城は近くにはいないらしい。とすれば、彼のスマホはどこかに落ちているのだろう。
──そんなことよりも。
(今、オメガの女の子達って言ったよな……?)
未だに周囲の雑音を拾うスマホの通話をスピーカー越しに垂れ流しながら、未紘はうーんと首を捻っていた。
会食とはどんなものだったのか知らないが、どうやらあまり健全な場とは言えないらしい。
おまけに藤城は大の苦手であるオメガに囲まれているそうだ。
以前未紘が少し触れただけであんなに取り乱していたあの男が、見知らぬオメガに囲まれて耐えられるのだろうか。
「……別に俺には関係ねーけど」
少し考えた末に、未紘は再びソファーに仰向けに寝転がった。
藤城とは番だが、世間一般で言う番関係とは著しくかけ離れている。互いに何の情もないし、損得でしか物事を考えていない。
藤城のことなんかちっとも知らないし、少し前までは知ろうとすらしなかった。
──俺はこんな見た目だからか、昔から発情したオメガに絡まれることが異常に多くて
──オメガに触れられると今みたいに発作が起きて、死にかける
見たこともない顔だった。
いつも自信満々なあの男が、あのときは酷く頼りなくみえた。
あんな姿は見たくない。だって藤城はもっと、自信家で横暴で性格悪くて口も悪くて、頑固でナルシストで高飛車で偉そうで……。
「……~~っ、あーっもう!」
がばっと起き上がると、そのままの勢いでスマホを手に取った。
会話の中で聞こえた店名を地図アプリで検索すると、場所はここから電車を乗り継いで十五分ほどの所にあるようだ。
「終電の時間とっくに過ぎてるし……。あとでぜってータク代払わせてやる」
文句を垂れながら足にサンダルを引っ掛けると、未紘は勢いよく玄関を飛び出した。
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