【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

文字の大きさ
59 / 78
番外編⑴芹呼びしたい未紘の話

4

しおりを挟む
 家に帰って先にシャワーを終えると、未紘は自室に二匹のぬいぐるみを運び込んだ。
 背の低い本棚の上に並べたたぬきを、ぼんやりとした顔をして眺めている。
 ドヤ顔のたぬきと、目つきの悪いたぬき。藤城は目つきの悪い方を未紘に似てると言っていたけど、ドヤ顔の方だって藤城に似ていると思う。 

「楽しかったなあ……」

 ムキになる藤城は面白くて可愛かったし、二人で過ごす休日のデートもとっても楽しくて、帰るのが惜しいぐらいだった。

「…………せり」

 ドヤ顔のたぬきを見つめながら呟くと、初めて名前を声に乗せることに成功した。自分で発した言葉はすぐに恥ずかしくなって、かあっと顔が熱くなる。

「なんで本人には言えないんだろうな」

 意識すぎなのだろうか。きっと慣れてしまえばなんてことないはずだ。わかっているけど、そのはじめの一歩を踏み出すのが非常に難しい。
 藤城からしてみれば、もしかしたらなんてことないのかもしれない。未紘が頑張って名前を呼んでも、リアクションがなかったら少し寂しい。

(色々考えすぎだろ、当初の勢いはどこいったよ……)

 考えれば考えるほど難しくなってしまう。ぬいぐるみに顔を埋めながらがくりと項垂れていると、背後でガチャッとドアが開く音がした。

「未紘、ココア飲む?」
「あ、もらうー」
「準備するからリビングおいで」
「あーい」

 たぬきを置いてリビングに向かい、ふかふかのソファーに腰を下ろした。何気なくテレビをつけると、『動物大集合!』と題した番組がやっている。
 しばらくすると揃いのマグカップを二つ持った藤城がやってきて、隣に腰を沈めた。

「ありがと」
「うん」

 藤城の家は広い。ソファーなんて無駄に大きくて長いのに、彼はいつも未紘の隣にぴったり寄り添うように座る。
 最初はドキドキして仕方がなかった距離感も、数ヶ月も経てばいつしか慣れて、すっかり定位置になった。
 
「あのハリネズミ、出会った頃のおまえみたい。ほら、小さいのに周り威嚇してる」
「喧嘩売ってんのか」

 マグカップ片手に、画面に映し出されたハリネズミを観てケタケタと笑っている藤城は、なんだかいつもよりご機嫌だ。
 
「あはは、かわいー。キョトン顔やべーな」

 その横顔を眺めていた未紘は、自分の心の中にモヤモヤとしたものが広がるのを感じた。
 
「……なあ、俺は?」
「え?」

 感情に任せて言葉を発してから、驚いて目を丸くする藤城を見てすぐに後悔した。さっと視線を逸らして、絡みつく視線から逃れる。

「…………やっぱ今のナシ」

 自分は藤城のことでこんなに悩んでいるというのに、彼は他のものに夢中になっているなんて、なんだか癪だ。
 それに何より、藤城が自分以外のものを可愛がるのが、一瞬ものすごくムカついた。

 ただそれだけの幼稚な理由だ。口にするべきではなかった。なかったことにしようとしたのに、がしっと手首を掴まれてしまった。

「……っ、んっ……!?」

 間髪入れずに唇を奪われて、目の前が藤城でいっぱいになる。自分と同じココアの甘さが舌の上に広がった。未紘の唇をたっぷり味わったあとに、唇は離れていく。

「っ、ビックリした、なに急に……」
「未紘のほうが可愛いよ」

 至近距離で真面目な顔をした彼に見つめられながら言われた。反応に困って息を詰めてしまう。

「つーかおまえより可愛いものってないから安心して」
「な、なにそれ……俺、男だよ」
「関係ない。そんなことより──」

 手に持っていたマグカップを流れるような手付きで奪われて、ドリンクホルダーに押し込まれた。あっという間にソファーに押し倒される。

「また妬いちゃったの? おまえって嫉妬深いよなあ」
「~~っ、ちがう……!」

 目の前で藤城がニヤニヤと嬉しそうに口角を吊り上げている。顔を赤くしながら否定するが、ただの照れ隠しにしか見えていないのだろう。
 彼の面倒臭いスイッチを押してしまった気がする。こうなってしまうと、きっとココアが冷めるまで離してもらえない。

「構ってもらえなくて寂しかったの?」
「……せっかく隣にいるのに全然こっち向いてくんないから、ムカついただけ」
「ごめんね。でも大丈夫だよ、俺には未紘以外の生き物ぜんぶ等しく一緒に見えてるから」
「なんだそれ、逆に異常だろこえーよ……」

 この男のたまに飛び出る過激発言には未だに慣れない。
 顔を引き攣らせながらも、負けじと未紘も反撃をすることにした。

「つーか藤城だって俺が花柳さんと喋ってるだけで不機嫌になるくせに、すぐ妬くの俺だけじゃねーだろ」
「は? 俺といるのに他の男の名前出すんじゃねえよ」
「うわ理不尽すぎだろ……」

 藤城の顔が一瞬にして真顔になった。両手をソファーに縫い留められながら、顔を寄せられる。
 
「ココア、まだのんでるから……っ」
「あとでまた淹れ直してあげるから」

 そういう問題じゃない。そう言いたいのに、本気で抵抗できない自分も自分だ。 

「先におまえのこと可愛がらせて?」

 獲物を狩るような目をした藤城を拒める術なんか、持ち合わせていなかった。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...