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31.不仲説
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「……っなにこれ。俺と成海くん?」
それは間違いなく、制服を着て通学路を歩く俺と成海くんの写真だった。どこか遠くからこっそりと撮影したからなのか、少し写真はブレていて表情までは見えない。俺達が二人で登校することはほとんどないから、おそらく今朝撮られた写真だろう。
遅刻寸前だというのにも関わらず、だるそうに後ろを歩く成海くんを振り返り、急いでと腕を引っ張っているところだ。
でも、どうしてこんな写真を?
不思議に思いながら視線を下げると、写真の下にはコメントが記されていた。
『日南兄弟の喧嘩シーン』
『言い争ってるの見た。ふたりの仲は偽装で、本当は不仲っぽい』
文章の意味を理解してすぐ、ことの重大さを理解した。咄嗟にSNSの反応を確認すると、どこかで拡散でもされているのか、すでに三桁もいいねがついている。
「なにこれ……誰がこんなこと」
「他に投稿ないし、捨てアカっぽくね。てか、これ明らか盗撮だよな。マジで喧嘩してたん?」
「ううん。今朝は遅刻しそうで、成海くんを急かしてただけだよ」
「そうだよなー……まぁでもこのいいね数見る限り、周りは鵜呑みにしてそうだけど……」
まだ話の続きがしたかったが、担任が入ってきたので一旦中断となった。サトシが前を向いてSHRが始まった後も、悶々と考え込んでしまう。
今までに盗撮まがいのことをされることは少なくなかったが、こんな風に悪意を持った投稿をされたことは初めてだった。
高校に入ってから、どんな小さな噂でも尾ひれがついて一瞬で広まってしまうことを実感した。
たとえば俺と成海くんが義兄弟だということだって、サトシに話しただけなのに、近くで聞いていたクラスメイトによってあっという間に全校生徒に行き渡ってしまったのだ。
今回のいわゆる不仲説だってそうだ。このままだと悪い風に噂が広まりかねない。
「ねえ、これ見た?」
「あー見た見た。ビックリだよね。ほんとなのかなー……」
「でも確かに沙也くんが腕引っ張ってるっぽいし、成海くんも睨んでるように見えるよね……」
「仲が良いっていうの嘘なのかな。ウチら騙されてたりして」
後ろの方の席から聞こえてきた声を拾って、俺は頭を抱えたい気持ちになった。
これは想像以上に情報の伝達が早い。まさかもうクラスメイトにまで届いてしまっているとは。
(どうしよう、とにかくなんとかしないと……)
俺は三年だし、半年も経たずに卒業することになるが、成海くんは違う。俺がいなくなった後もずっとこの学校に通うんだから、なるべく悪いイメージは払拭してあげたい。
「じゃあ続いて文化祭実行委員からの連絡でーす。毎年恒例、文化祭の大目玉『カップルコンテスト』についてですが──参加を希望する人は早めに教えてくださーい」
近くで立ち上がってクラスメイトが話している言葉が耳に入る。一度は聞き流そうとしたが、その単語がやけに胸に引っかかった。
カップルコンテスト。毎年恒例かつその日一番の盛り上がりを見せる、文化祭のステージ企画のひとつだ。二人組で出場して、五分間の持ち時間を使って仲の良さをアピールするという内容のもの。
生徒会のときに俺も運営に携わっていたから企画の内容は心得ている。カップルとは名ばかりで、漫才コンビを組んで出る男子達もいれば、仲の良い女子同士で出る者もいる。
つまりはペアであれば参加は可能。つまり全校生徒が一堂に会する大注目のステージ企画で、成海くんと俺が仲の良さをアピール出来たら、疑惑は完全に晴れるのではないか。
「……これしかない」
全ては成海くんの安泰な高校生活を守るため。そのためにはもう手段なんて選んでいられない。
問題はどうやってあの彼を説得するかということ。
実行委員の彼からコンテストの詳細についてのプリントを受け取った俺は、成海くんの承諾を得るために頭を悩ませることになった。
それは間違いなく、制服を着て通学路を歩く俺と成海くんの写真だった。どこか遠くからこっそりと撮影したからなのか、少し写真はブレていて表情までは見えない。俺達が二人で登校することはほとんどないから、おそらく今朝撮られた写真だろう。
遅刻寸前だというのにも関わらず、だるそうに後ろを歩く成海くんを振り返り、急いでと腕を引っ張っているところだ。
でも、どうしてこんな写真を?
不思議に思いながら視線を下げると、写真の下にはコメントが記されていた。
『日南兄弟の喧嘩シーン』
『言い争ってるの見た。ふたりの仲は偽装で、本当は不仲っぽい』
文章の意味を理解してすぐ、ことの重大さを理解した。咄嗟にSNSの反応を確認すると、どこかで拡散でもされているのか、すでに三桁もいいねがついている。
「なにこれ……誰がこんなこと」
「他に投稿ないし、捨てアカっぽくね。てか、これ明らか盗撮だよな。マジで喧嘩してたん?」
「ううん。今朝は遅刻しそうで、成海くんを急かしてただけだよ」
「そうだよなー……まぁでもこのいいね数見る限り、周りは鵜呑みにしてそうだけど……」
まだ話の続きがしたかったが、担任が入ってきたので一旦中断となった。サトシが前を向いてSHRが始まった後も、悶々と考え込んでしまう。
今までに盗撮まがいのことをされることは少なくなかったが、こんな風に悪意を持った投稿をされたことは初めてだった。
高校に入ってから、どんな小さな噂でも尾ひれがついて一瞬で広まってしまうことを実感した。
たとえば俺と成海くんが義兄弟だということだって、サトシに話しただけなのに、近くで聞いていたクラスメイトによってあっという間に全校生徒に行き渡ってしまったのだ。
今回のいわゆる不仲説だってそうだ。このままだと悪い風に噂が広まりかねない。
「ねえ、これ見た?」
「あー見た見た。ビックリだよね。ほんとなのかなー……」
「でも確かに沙也くんが腕引っ張ってるっぽいし、成海くんも睨んでるように見えるよね……」
「仲が良いっていうの嘘なのかな。ウチら騙されてたりして」
後ろの方の席から聞こえてきた声を拾って、俺は頭を抱えたい気持ちになった。
これは想像以上に情報の伝達が早い。まさかもうクラスメイトにまで届いてしまっているとは。
(どうしよう、とにかくなんとかしないと……)
俺は三年だし、半年も経たずに卒業することになるが、成海くんは違う。俺がいなくなった後もずっとこの学校に通うんだから、なるべく悪いイメージは払拭してあげたい。
「じゃあ続いて文化祭実行委員からの連絡でーす。毎年恒例、文化祭の大目玉『カップルコンテスト』についてですが──参加を希望する人は早めに教えてくださーい」
近くで立ち上がってクラスメイトが話している言葉が耳に入る。一度は聞き流そうとしたが、その単語がやけに胸に引っかかった。
カップルコンテスト。毎年恒例かつその日一番の盛り上がりを見せる、文化祭のステージ企画のひとつだ。二人組で出場して、五分間の持ち時間を使って仲の良さをアピールするという内容のもの。
生徒会のときに俺も運営に携わっていたから企画の内容は心得ている。カップルとは名ばかりで、漫才コンビを組んで出る男子達もいれば、仲の良い女子同士で出る者もいる。
つまりはペアであれば参加は可能。つまり全校生徒が一堂に会する大注目のステージ企画で、成海くんと俺が仲の良さをアピール出来たら、疑惑は完全に晴れるのではないか。
「……これしかない」
全ては成海くんの安泰な高校生活を守るため。そのためにはもう手段なんて選んでいられない。
問題はどうやってあの彼を説得するかということ。
実行委員の彼からコンテストの詳細についてのプリントを受け取った俺は、成海くんの承諾を得るために頭を悩ませることになった。
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