※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

文字の大きさ
14 / 155
第1章 入学の春 編

第9話 1年首席と2年首席

しおりを挟む
「最近、なんかボーっとしていることが多くない?」



「ふえっ?」



 とある日、ミュリヌス学園1年Ⅰ組の教室。担当教師が体調不良となり、突然の自習となった教室で、リアラはアンナに唐突に話しかけられて驚きの声を出す。



「ど、どうしたの? いきなり……」



 志高く、真面目な生徒ばかりが集うミュリヌス学園では、自習といえどもハメを外して勉強をサボる生徒はほぼいない。とはいえ、教師がいる時と比べればいくらか緊張感は緩んでおり、ポツポツを私語を交わしながら自習をしている、というのがごく普通の風景だった。



 1年生首席――トップの座に君臨するアンナ=ヴァルガンダルは、リアラの一つ前の席だ。くるりと身体の向きをかえて、教科書をのぞき込んでいたリアラは苦笑しながら答える。



「なんか、最近ミスが多いって話を聞くんだけど。この間の小テスト、ケアレスミスで満点取れなかったでしょう? それに、昨日なんてアミィとの約束忘れて、寮に戻ったってきいたけど?」



 「う」という声を出し、痛いところを突かれたとリアラは思う。最近、学園生活への慣れが悪い方向に出てきたのか、今アンナが並べたようなミスが目立っているの事実だった。それでも先日の月テストでは、席次を5席から4席に上げており、全体的には極めて順調ではあるのだが。



「あ、あはは。ちょうど新しい環境の疲れが出てきちゃったのかなー。最近、すぐ疲れちゃうんだよね」



「何、更年期を迎えたおばさんみたいなことを言っているのさ。きちんと体調を整えて、しっかりやってくれないと、ライバルのボクが困るんだよね」



 一人称を「ボク」とする、独特な同級生は腕を組んで憤慨している。



 彼女は貴族の中でも上の上、リアラのリンデブルグ家よりも上位の家系の令嬢だ。高等教育時代から、騎士専門の特殊教育を受けており、ミュリヌス学園入学前から高名な才女だったのだ。



 だから、そこそこの家系で無名なリアラと学びの場所を共にし、リアラの実力を目の当たりにした途端、一方的にライバル宣言をして何かと突っかかってくるのだった。



 とはいえ、リアラを敵視しているというわけはなく、今の様に心配をしてくれたりと、有効な態度であることは一貫している。裏表ない性格で、言葉そのままに、万全全力のリアラと切磋琢磨し、成長していきたいのだろう。



「ちゃんと眠れているの? 午前中の外国史の授業、うつらうつらしてたけど?」



「う。よく見てるね。後ろの席なのに」



 たらりと汗を流しながら、やや焦り気味にリアラが答える。



「大丈夫だよ。部屋に戻って、寝ちゃった分は自分で復習してるから」



「いやいや、そっちじゃなくて。もし眠れないなら、良い医師を紹介するけど? ヴァルガンダル家付きの医師に、そういった治療に優れている先生がいるんだよ」



「だ、大丈夫だってば。ありがとう、アンナちゃん。気持ちだけもらっておくね」



 なるべく笑顔を保つように努めながらリアラは礼を言うと、アンナはぶすっと不満そうな顔をする。



「ど、どうしたの?」



「そのアンナ“ちゃん”って止めてってば。同級生で、しかもボクらは首席を争うライバルなんだよ。なんか、下に見られている気分になるんだけど」



「そんな、見下してなんて――」



 しかしアンナはそう思っていないようだった。腕を組んだままリアラの言い分を聞こうとしない。



 クリっとした丸い瞳に、ツーテールにまとめた栗色の髪。実技も座学も、いつも本当に楽しそうに取り組み彼女は、まるでリスのように可愛くて、リアラもつい「ちゃん」付けで呼んでしまっていたのだが。



「分かったわ。アンナ、心配してありがとう。これからも、宜しくね」



 ニッコリと笑いながら言うと、リアラはぱあっと顔を輝かせる。



「ふ、ふんっ! やっとそうやって呼んでくれたね。ふ、ふふふ……今はボクが首席だけど、これからも負けないんだからっ! 全力でかかってきなさいっ!」



 なんだか微妙に会話がかみ合っているような、噛み合っていないような。



 リアラは少し笑顔に困った色を混ぜるが、アンナから差し出された手を握り返さないわけにはいかなかった。



 ちょっと不器用だけど、真っ直ぐで友達思い。アンナのその暖かい気持ちは、確かに伝わってきた。



    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「いけないけない。さっきリアラにあんなこと言っておいてボクが忘れ物するなんて」



 次は魔術実技の授業だった。魔術修練場での授業となるが、魔術の触媒――アンナの場合は杖――を教室に忘れたアンナは、それを取りに廊下を駆けていた。



「ちょっと」



 と、不意に声を掛けられる。この急いでいるのに、誰が呼び止めるのか。少しイライラしながら振り向くと、アンナは驚きの表情を浮かべる。



 そこにいたのは2年生首席であるステラ=ストールだった。



「す、ステラ先輩?」



「廊下は走らない――初等部の少女でも心得ていることだと思いますわよ?」



 注意はしているが、責めている色は入っていない。優雅に笑いながら、諭すように言う。



「う、ごめんなさい。急いでいて、つい」



 ミュリヌス学園――現在、その頂点に君臨する上級生を申し訳なさそうに見上げる。



 代々高名な騎士を輩出しているヴァルガンダル家。ステラのストール家もまた、そのヴァルガンダル家と肩を並べる程の名門である。



 両家は仲が悪いというわけではないが、アンナは家督を継いでいるというプライドも高く、このステラ=ストールもいずれは超えていかなければならないと、ライバル視していた。


 アンナ=ヴァルガンダルとは、そういった性格なのである。



 そんなライバルに、正論で諭されて、柄にもなくシュンとしてしまう。



「うふふ。いいですのよ。何か急ぎの用があったんでしょうけど、人とぶつかるかもしれませんから、気を付けるようにしませんとね。将来有望なアンナさんに何かあれば、この国の大きな損失ですわ」



 そう上級生に言われると、喜ぶ下級生がほとんどだろう。しかしアンナは、それを不機嫌に受け取った。学年の差はあれど、見下されるのは大嫌いだった。2年生首席とはいえ、そうそう実力の差はないはずである。



 白薔薇騎士団へ入団する前――まだステラが在学中の間に、なんとしても超えてみせると息込んでいる相手に、見下されるようにそう言われることは不快であった。



「――気を付けます」


 しかしここでステラに食ってかかる程子供ではないし、貴族としての礼儀もわきまえている。要は、いずれ実力で示せばいいのだ。そう遠くない内に。そう考えれば、この悔しさも自分の実力を伸ばす活力に出来る。その点、とことんアンナはストイックであった。


「それでは、気を付けてね」



 なんとなくアンナの感情の色を読み取ったのだろうか、ステラはその場を去ろうとする。その背中を見て、アンナは不意に思い出す。



 確かステラ=ストールは、リアラのルームメイトだったはずだ。



「あの、ステラ先輩っ!」



 まさか呼び止められるとは思わなかったのだろう。ステラは意表を突かれた顔をして振り向く。



「どうしたのかしら?」



 柔和な笑顔を浮かべるステラ。



 アンナは、不意に今日まで2年生は遠征合宿に行っていたのを思い出した。



 リアラが何か疲れた様子を見せ始めたのもそれくらいじゃなかっただろうか。そう考えると、何かしらステラが関係しているのだろうか。



 入学してから、生活環境が変わってから不安なところをサポートしてくれた、優しい先輩の不在がストレスで、それで疲労してしまったのだろうか。うん、それなら自然だ。納得がいく。



「あの、リアラのことなんですけれども」



 リアラの名を出すと、ステラがぴくっと反応した気がする。



「最近、疲れているみたいで……寮でゆっくり休めていないのかな? 先輩も合宿帰りで疲れているとは思うんですけど、ちょっと気遣ってやってくれませんか?」



 これでいい。慕っている先輩が戻ってきて、早く本調子に戻って欲しい。それでこそ、お互いを高め合えるライバルなのだ。次の月テストではリアラとの模擬戦も控えている。それまでには万全の状態にしてもらわないと。



 そんなアンナの申し出に、ステラは見ている者がぎょっとするような、深い妖艶な笑みを浮かべていた。



「そう、あの娘がね。ありがとうございます、アンナさん。とてもいいことを聞きましたわ。うふふ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

ヤンデレ社長は別れた妻を一途に愛しすぎている

藍川せりか
恋愛
コスメブランドでマーケティング兼アドバイザートレーナーとして働く茉莉花は三十歳のバツイチOL。離婚して一年、もう恋も結婚もしない! と仕事に没頭する彼女の前に、突然、別れた夫の裕典が新社長として現れた。戸惑う茉莉花をよそに、なぜか色気全開の容赦ないアプローチが始まって!? 分かり合えずに離婚した元旦那とまた恋に落ちるなんて不毛すぎる――そう思うのに、昔とは違う濃密な愛撫に心も体も甘く乱され、眠っていた女としての欲求が彼に向かって溢れ出し……。「もう遠慮しない。俺だけ見て、俺以外考えられないくらい愛させて」すれ違い元夫婦の、やり直し極上ラブ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...