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第3章 欲望と謀略の秋 編
第67話 3章エピローグ4(王都ユールディアSIDE 後編)
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おそらくは、「極秘任務」最大の要点であろうことを口にしたルエール。
一国の大臣となれば王族に次ぐ地位であり、その大臣が国家に対して反逆を企てているなどということは、良くも悪くも平凡な平民であるリューイには衝撃的だった。
リューイがその言葉を咀嚼するだけでもまだ時間がかかりそうだったが、ルエールはお構いなしに続ける。
「今の時点で疑惑があるのは奴隷取引だが、それだけに収まる話ではない可能性がある。そのため、私が精鋭を引き連れてミュリヌス学園へ赴くこととなった。同行してほしい」
奴隷取引の禁止――それは、今現在実質的な最高権力者である第1王子カリオスが国中に大号令をかけて取り組んでいることだ。
それに対する背信のみならず、それ以上とはどういうことなのだろうか。
リューイが目を見開いて戸惑っている様子を見せると、ルエールが片手を上げてコウメイに続きを促す。
「グスタフが背信して奴隷取引を行っているとなると、裏には必ずヘルベルト連合が関わっているはずだ。だとすると、これはもう個人レベルの私利私欲を満たす話じゃない。奴は金や女といった私腹を肥やす以上のことを企んでいる……と、俺は考えている」
そこまでコウメイが言えば、あとはリューイでも簡単に想像できることだった。
「クーデター?」
ヘルベルト連合国と手を結び、聖アルマイト王国を乗っ取ろうというのか。
「は、ははは……んなアホな。そんなバカな話があるわけないじゃないすか」
乾いた笑いを浮かべるのは先輩騎士だ。これが普通の反応だろう。
仮にグスタフがヘルベルト連合を完全に従えているとしても、聖アルマイト王国との戦力差は歴然としている。ヘルベルト連合国が全国力をもって聖アルマイト王国に攻め入ったとしても、戦争というレベルにすらならないだろう。
しかし幹部3人は、ピクリとも笑わない。
「確かにヘルベルト連合が戦争を仕掛けてくるだけの話なら、ただそれだけの話だ。だけど、奴は裏で用意周到な計画を進めている。どのようにして何をやっているのかが全く掴めておらず、俺達はそれを脅威だと判断した」
コウメイがこちらを見据えて説明してくる。その真っ直ぐな瞳を、リューイもまた視線をそらさずに見返しながら問いかける。
「何があったんですか?」
未知という理由だけで、この龍牙騎士団の3人の幹部がここまで戦々恐々とするはずがない。何かそれを裏付ける出来事があったのだ。それと併せて「ミュリヌス学園に恋人がいるなら参加するべき」という先ほどの言葉が、不安となってリューイの胸中を苛む。
そのリューイの問いに、それまですらすらと喋っていたコウメイが意外にも口ごもる。ミリアムにすら歯に衣着せぬ物言いをしていたコウメイが、どのようにして言えばいいのか迷っているようだった。
「――ミュリヌス学園の生徒である騎士団長のご息女が、俺を暗殺しようとしてきた。使者として行った時にね。証拠はないが、黒幕はグスタフである可能性が高い」
そのコウメイの言葉に息を飲むリューイ。胸に何かがつまるような感覚がして息苦しくなり、咄嗟に言葉を返せなかった。
「あ、操るって……一体どうやって……!」
「それは……ま、まあ色々あるんだよ」
どこか白々しい感じで言葉を濁すコウメイに、相手が上役とはいえ、リューイは苛立ちを抑えることが出来ない。
そんなことを聞いてしまえば、リューイは気が気ではなくなるのは当然だ。
ミュリヌス学園の生徒であるルエールの娘――アンナがグスタフに操られたということは、リアラもその危険の真っただ中にいるということだ。現在進行形で。
これでようやく、リューイは自分が参加した方が良いという意味が理解できた。
「とにかく、だ。詳細はなんにしろ、その娘が俺を襲ってきたのは事実だ。しかも、戦闘能力が馬鹿みたいに強化されていた。俺を護衛してくれた白薔薇騎士団長のシンパ卿が、まるで歯に立たなかったくらいだ」
「シ、シンパ様が……?」
龍牙騎士団長ルエール、紅血騎士団長ディード、白薔薇騎士団長シンパ。
聖アルマイト王国を象徴する各騎士団の騎士団長は王国3騎士と称されており、その実力はそのままトップ3といわれている。その一角が、よもや騎士養成機関の学生に負けるなどと、まるで信じられない。例えるならリューイがルエールに勝利するようなものだ。
「さっきも言ったように、グスタフがどんなことをしているのかは一切分からない。ただ、さっきのヘルベルト連合の件も考えると、このグスタフの『未知』は脅威だ。もしも白薔薇騎士団とミュリヌス学園をまるごと乗っ取られた場合、もう何が起こるか分からない」
「そんな……そんなことって……」
リューイは拳を握りしめて、身体を震わせる。
怒りとも悲しみとも、自分でもなんとも分からない感情が体中を駆け巡っていた。
夏休みにリンデブルグ家で会った時のリアラを思い浮かべる。
あの時のリアラはいつも通り普通のリアラだったように思う。真面目で明るくてリューイのことばかり想ってくれていて、とても魅力的な恋人。恥ずかしそうに愛の言葉を口にする彼女がとても愛おしかった。あの時点では、とても操られているとは思えない。
しかし、コウメイの言う通り、リアラがもしグスタフに操られるような事態になってしまえばと思うと、リューイはどうしようもない不安を怒りに身体を震わす。
「そんなに心配しなくていいわ。コウメイ殿の言い方は少し意地悪よ」
神妙な顔つきをしているリューイに、そう声をかけてきたのはミリアムだった。
「全て可能性の話よ。しかも大げさに言っている。騎士団長のご息女がコウメイ殿を襲ってきたというのは事実みたいだけど、それにグスタフ卿が関わっている証拠は何もないの」
「で、でも……大丈夫だっていう保証もないでしょう」
そんなミリアムの言葉に、抗弁するリューイ。大切な愛する人間が、とんでもなく危険な状態にあると聞かされれば、そんな反応も無理ないことだった。
「それじゃあ君を安心させるために言おうか。仮にグスタフ卿が黒幕だったとするわね。そうだとしたら、確かに私達が知りようのない恐るべき異能を持っているのも間違いなさそう。なるほど、確かに騎士団長のご息女1人ならば虜にも出来るかもしれない。でも、ミュリヌス学園の生徒の誰もが……というと、果たしてどうかな。手間もかかるだろうし、何よりもグスタフ卿の企みが表に出るリスクが高まると考えると、いささか現実的ではないと思わない?」
「で、でもっ! 例え今は操られていなくたって、いつ操られてもおかしくないってことでしょう?」
「そうね。だから、そうなる前に私達が現地に赴いて未然に防ぐ。君に頼みたいのは、その任務への参加だよ。リューイ=イルスガンド君」
その言葉でハッとするリューイ。
そうだ。今自分がしなければいけないことは、ここで不安になって幹部達と口喧嘩することじゃない。リアラが危険だというのなら、それから守って助け出すことだ。
だとすれば、声を掛けられたのは僥倖だ。
「改めて説明しよう。今回君に参加してもらいたい任務は、ミュリヌス地方へ赴き、大臣グスタフの陰謀についての証拠を掴み、これ以上の被害を防ぐことだ。時期は諸々の準備期間を考えて、年明け頃になると思う」
最後のまとめと言わんばかりに、ルエールがリューイを見据えながら言う。
「ミリアムの言う通り、証拠がない現状では堂々と騎士団を動かすことは出来ない。またカリオス殿下の不在ということもあり、私と腕に覚えがある騎士を数人連れて現地に赴く。場合によっては、そのままグスタフを拘束する可能性まである」
ルエールの説明に、補足するようにミリアムが付け足す。
「何度も言う通り、現状では可能性に過ぎないことは忘れないで。一方的にグスタフ卿を悪者扱いして、結果濡れ衣を着せただけになった場合、相手が大臣なだけに国民に与える影響は甚大よ。そのため、この件は誰にも知られることなく、秘密裏に行わなければならないの。友人はもとより、親兄弟、恋人――誰であってもね」
それを聞いたリューイは、不意に思い出す。
間もなく年が終わる。ミュリヌス学園の冬休みに合わせて、またリューイはリンデブルグ家に世話になる予定だ。当然、リアラとも顔を合わせる。
「――その、自分は冬休みにリアラと会う約束になっているんですが」
こんなことを聞いてしまえば、一体自分はどんな顔でリアラと会えばいいのだろうか。今のミリアムの言葉に従うのであれば、この話はリアラには打ち明けられない。冬休みが終われば、危険な場所だとわかっているのに、ミュリヌス学園に戻ろうとするリアラに何も言えずに見送らないといけないのだ。
そんなリューイの苦悩を察するコウメイは、しかし無慈悲に言う。
「彼女さんに口外禁止なのは勿論だけど、グスタフに疑いがかかっていることを感づかれることもダメだよ。万が一既に操られている状態であれば、そのことが奴に筒抜けになってしまう。そうすれば何かしら手を打たれてしまうからね」
「逆にグスタフ卿が関係無いとしたら、ありもしないグスタフ卿に対する疑惑が無用に広がることとなるわ。会うこと自体を禁止はしないけど、いつもと同じように素知らぬ顔で接してもらうことになるわね。どういう形であれ、今グスタフ卿を刺激するのはよくないから」
後半の説明はミリアムだった。2人揃って、リューイの苦悩など無関係のように、畳みかけるように言ってくる。
「むしろ、彼女さんをよく観察して、今までと違う様子が無いかどうかを――」
「コウメイ」
更にコウメイが続けようとすると、ルエールが間に入って諫めるような声を出す。
「いえ、いいんです。俺は龍牙騎士団の騎士です。その使命は果たします」
それまで複雑な感情に身を震わせていたリューイだったが、ここで腹を括る。
ここで一介の騎士である自分1人で悩んだり怒ったりしても仕方ない。どうやら事態は既に大事に発展しているようだ。
己1人でどうにかしようとするのではなく、周りの人間を信じてみよう。知らないところで知らないうちに恋人が傷つく方が、よっぽど最悪ではないか。幸いにもこうやって声がかかったのは本当に僥倖だった。
「大丈夫です。俺はリアラのことを誰よりも知っているつもりですが、あいつは心も体も強い奴です。グスタフ様が本当の悪人だったとしても、そんな奴に操られるはずがない。俺はリアラを信じていますから」
強張っていた頬を緩めて、リューイが力強くその言葉を言うと、目の前の幹部3人は感心したように目を大きく開けていた。
「全て承知しました。その任務、参加させて下さい。本当にリアラのいるところがそんな危険な状態だというなら、できれば俺の手で助けたいです」
愛するリアラへの想いを込めたそのリューイの言葉は力強い。話を聞いたばかりの時のような、悩みや不安を吹っ切ったリューイは、その瞳を真っ直ぐ3人へと向けていた。
「――ということだそうだ。どうだ2人とも?」
そのルエールの言葉には、わずかに笑みのようなものを含んでいるように感じた。
ルエールの問いかけに、まずはミリアムが瞳を閉じてふっと笑う。
「私は良いと思いますよ。経験不足からの未熟さはあるでしょうが、想いの力は参加者の中では随一です。想いは人を強くする。任務中の成長に充分期待できると思います」
続いてコウメイ。
「俺も適任だと思いますね。国のためとか平和のためとか、そんな中身のない綺麗事なんかよりも、よっぽど大事で明確な動機がある。この任務で最も重要な『信頼』は文句なしですね」
コウメイの言葉はにどこかしら毒々しいものも感じるが、リューイに対する評は上々のようだ。
その2人の言葉を聞いてから、ルエールはすっと席から立ちあがる。
「覚悟はしておくように。状況によってはグスタフの手勢と正面からの戦闘になる可能性もある。そうなった場合は間違いなく厳しい戦いになる。命がけの任務、という認識でいてくれ」
静かな口調でありながら真にせまるその言葉は、リューイに相応の覚悟と決意を強いていた。
リューイはごくりと唾を飲み込み、目の前の龍牙騎士団長――王国3騎士を統べるとまで言われているルエール=ヴァルガンダルから視線をそらさずにうなずく。
そのリューイの決意を受け取ったルエールも、またうなずき返す。
「よろしい。ではリューイ=イルスガンド、今日から君はバーグミング隊を離れて『ミュリヌス地方調査任務』部隊へ転属となる。先ほど言った通り、その内容は極秘。任務開始は年明けになる見通しだ。だから、年末はゆっくり休んで任務に備えてくれ。追って詳細は伝えるようにする」
「御意」
リューイは右手を胸にかざしながら、上体を折り曲げる。
「えーと、あの……いいすか」
すると、取り残されたような顔で、呆けた顔で先輩騎士が手を挙げる。
誰もが目を見張るようにして彼を見る中、コウメイが「どうぞ」と促すと。
「俺は何で呼ばれたんでしょうか? 話からすると、これってリューイだけですよね?」
心なしかガタガタ震えているようだ。存外の大事に、なんだかよく分からないうちに巻き込まれてしまい、本人も混乱しているのだろう。
「あー……ええと、なんかバーグミングさんが、リューイ君を呼ぶならセットで、て言うもんだから。あ、話を聞いた以上は君も参加だから。よろしく♪」
「ええ……」
あまりにも軽い調子のコウメイに、先輩騎士は思い切りゲンナリした声を出すのだった。
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リューイ達が騎士団長室を去った後、残った幹部3人は顔を合わせて今後のことを話していた。
「人員の方は大体こんなところか」
「そうですね。多すぎてもいけないし、だからといってあの豚野郎がどれだけの戦力を整えているかも分からない。戦力と人数のバランスを考えて、この辺りが妥当だと思います」
少し疲労が見えるルエールは、そのコウメイの言葉を聞いてこめかみをもむようにする。
「コウメイ殿。やはり私は貴方のその口の利き方は甚だ不快ですね。グスタフ卿が、尊敬に値しない人物ということは私も同意しますが、だからといってその言葉使いは度が過ぎていると思います」
面と向かって注意してくるミリアムに、コウメイはうんざりしたような顔をする。
「あのねぇ、ミリアムさん。貴女は聞いた話でしかないから、そんな悠長なこと言えるんですよ。あの腐ったド外道にいちいち敬語なぞ――」
「いい加減にしないか、2人とも!」
また言い合いを始めそうになった両者を、ルエールにしてはめずらしく大声を出してぴしゃりと収める。
現時点で、最も直接的な被害を受けているのは、大事な一人娘を凌辱されたルエールといえるだろう。本当は証拠などなくとも、今すぐにグスタフの下へ言って首を刎ねてやりたいくらいに思っているに違いない。
そんな上司の想いを察せずに、確かに無神経であったと2人とも反省する。
「ミリアム。お前のことは頼りにしている。お前の考えや気持ちも汲んでいるつもりだが、やはり諸々の事情を踏まえると、グスタフが全ての黒幕だという前提でいてくれ。違っていたとしていたら、我々の間で笑い話にすればいいだけの話だ」
「――御意」
ルエールの懇願にも近い命令。その言葉には察するに有り余る様々な感情が込められていた。ミリアムは尊敬するルエールのその言葉に、深々と腰を折って敬礼をした。
「コウメイも留守を頼むぞ。カリオス殿下が戻られたら、すぐに事情をお伝えするんだ。場合によっては、軍勢を率いてきてもらわないといけない事態になるかもしれん」
「分かっています。グスタフに好き勝手させる隙は与えません。迅速速攻で片をつけちゃいましょう」
そうやってルエールと話すコウメイが唯一懸念しているのが、ミュリヌス地方への出立が年が明けてからということだった。
もう1か月も無いが、それでも少し期間が空くことになる。この期間に手遅れにならなければいいが…と、密かに思う。
出立の時期まで期間が空くのは、どうしようもないことだ。聖アルマイト王国が抱えている問題は、グスタフのことだけではない。要職に就いているルエールも、それらを解決するために日々多忙の身である。
少なくとも“娘を大変な目に合わせたのがグスタフっぽいので明日からとっちめに行ってくる”とは、簡単には出来ない身だ。諸々の準備や調整を考えれば、年明け頃という時期でも短いくらいだ。
その間に、ミュリヌス地方へ探りを入れる案も話し合われたが、結局それは却下された。コウメイが生きて王都ユールディアに戻ってアンナの異常事態を持ち帰れたのは、こちらがグスタフに対して持っている唯一のアドバンテージだ。下手にちょっかいを出すことでこのアドバンテージを失うくらいなら、何もしない方が良い。
こちらがグスタフを疑っていることを知られないまま、不意を突く形でルエールがグスタフの下へ赴いて陰謀を暴くこと。仮にグスタフが実力行使――ヘルベルト連合の手勢をもって武力蜂起をしたとしても、こちらもカリオスに話を通しておいて直ちに軍を動かせるようにしておけば問題無く対応できる。
これがコウメイの言う迅速速攻の策。グスタフに一切の準備を与える時間や余裕を与えないことを肝要としているのだが、唯一の懸念が出立までの空白の時間だった。この期間に関しては、言ってしまえば放置状態となる。
「――ま、大丈夫か」
あまり不安ばかり募らせても仕方ない。今出来る最善の対応が出来ているはずだ。あとは状況に合わせて対応していくしかない。今の自分の役目は、戻ってきたカリオスへ迅速に事の次第を報告することだ。
それに、グスタフ本人は、その狡猾さは認めざるを得ないが、決して優秀ではないとコウメイは評価している。
アンナをあそこまで意のままに操り、能力強化をさせている能力――ルエールが言うには呪術とのことだが――は確かに脅威ではあるが、行動の根幹は自分の欲望を優先しているだけだ。いくら恐るべき異能を持っていて悪だくみに秀でていようと、自分の欲望を満たすことしか考えていない人間の考えなど底が浅いと相場は決まっている。
気づくのが遅れていれば大事に至っていたかもしれないが、この段階で気づけたことで、迅速に対応出来ている。
自分の考えは間違っていないはず。グスタフに対する評価も的を射ているはずだ。
だから何の問題もない。そのはずだ。
しかし、いつまでも不安がコウメイの胸から晴れていかない。
それは得体の知れない嫌な予感、というよりはもう少し何か具体的な何かがありそうな気がするのだが、でもそれが何なのかが分からないでいる。
(うーん、自分でも何言ってんのかよく分からんけど、要するにあの豚親父を初めて見た時から、ずっと引っかかてることがあるってことだ)
その「引っかかっていること」とはコウメイが認めたくないことだった。しかし時間が経つにつれて、根拠などないのに確信だけが強くなってくる。
それを考えると、本当に吐き気がするくらいの不快感に包まれるのだが、どうやらその通りかもしれない。
(俺は……グスタフを知っている? 以前にどこかで会ったことがある、のか? ひょっとして前世での知り合いで運命の再会的な感じなのか?)
――あんなキモ親父が運命の相手だなんて、笑えない冗談を通り越して自殺ものなんだが。
不安、恐怖、怒り、不快――そういった重苦しい感情を誤魔化すために、胸中でもあえておどけるようにして考えるコウメイ。
しかし芽生えたネガティブな感情は、しっかりとコウメイの心に根を張り決して消えない。いくらおどけてみせようと、たった一つのシンプルで不気味な疑問が、ただ浮かび続ける。
(あの男、一体何者なんだ)
こうして、聖アルマイト王国の1年がまた終わっていく。
そして、激動の翌年を迎えるのだった。
一国の大臣となれば王族に次ぐ地位であり、その大臣が国家に対して反逆を企てているなどということは、良くも悪くも平凡な平民であるリューイには衝撃的だった。
リューイがその言葉を咀嚼するだけでもまだ時間がかかりそうだったが、ルエールはお構いなしに続ける。
「今の時点で疑惑があるのは奴隷取引だが、それだけに収まる話ではない可能性がある。そのため、私が精鋭を引き連れてミュリヌス学園へ赴くこととなった。同行してほしい」
奴隷取引の禁止――それは、今現在実質的な最高権力者である第1王子カリオスが国中に大号令をかけて取り組んでいることだ。
それに対する背信のみならず、それ以上とはどういうことなのだろうか。
リューイが目を見開いて戸惑っている様子を見せると、ルエールが片手を上げてコウメイに続きを促す。
「グスタフが背信して奴隷取引を行っているとなると、裏には必ずヘルベルト連合が関わっているはずだ。だとすると、これはもう個人レベルの私利私欲を満たす話じゃない。奴は金や女といった私腹を肥やす以上のことを企んでいる……と、俺は考えている」
そこまでコウメイが言えば、あとはリューイでも簡単に想像できることだった。
「クーデター?」
ヘルベルト連合国と手を結び、聖アルマイト王国を乗っ取ろうというのか。
「は、ははは……んなアホな。そんなバカな話があるわけないじゃないすか」
乾いた笑いを浮かべるのは先輩騎士だ。これが普通の反応だろう。
仮にグスタフがヘルベルト連合を完全に従えているとしても、聖アルマイト王国との戦力差は歴然としている。ヘルベルト連合国が全国力をもって聖アルマイト王国に攻め入ったとしても、戦争というレベルにすらならないだろう。
しかし幹部3人は、ピクリとも笑わない。
「確かにヘルベルト連合が戦争を仕掛けてくるだけの話なら、ただそれだけの話だ。だけど、奴は裏で用意周到な計画を進めている。どのようにして何をやっているのかが全く掴めておらず、俺達はそれを脅威だと判断した」
コウメイがこちらを見据えて説明してくる。その真っ直ぐな瞳を、リューイもまた視線をそらさずに見返しながら問いかける。
「何があったんですか?」
未知という理由だけで、この龍牙騎士団の3人の幹部がここまで戦々恐々とするはずがない。何かそれを裏付ける出来事があったのだ。それと併せて「ミュリヌス学園に恋人がいるなら参加するべき」という先ほどの言葉が、不安となってリューイの胸中を苛む。
そのリューイの問いに、それまですらすらと喋っていたコウメイが意外にも口ごもる。ミリアムにすら歯に衣着せぬ物言いをしていたコウメイが、どのようにして言えばいいのか迷っているようだった。
「――ミュリヌス学園の生徒である騎士団長のご息女が、俺を暗殺しようとしてきた。使者として行った時にね。証拠はないが、黒幕はグスタフである可能性が高い」
そのコウメイの言葉に息を飲むリューイ。胸に何かがつまるような感覚がして息苦しくなり、咄嗟に言葉を返せなかった。
「あ、操るって……一体どうやって……!」
「それは……ま、まあ色々あるんだよ」
どこか白々しい感じで言葉を濁すコウメイに、相手が上役とはいえ、リューイは苛立ちを抑えることが出来ない。
そんなことを聞いてしまえば、リューイは気が気ではなくなるのは当然だ。
ミュリヌス学園の生徒であるルエールの娘――アンナがグスタフに操られたということは、リアラもその危険の真っただ中にいるということだ。現在進行形で。
これでようやく、リューイは自分が参加した方が良いという意味が理解できた。
「とにかく、だ。詳細はなんにしろ、その娘が俺を襲ってきたのは事実だ。しかも、戦闘能力が馬鹿みたいに強化されていた。俺を護衛してくれた白薔薇騎士団長のシンパ卿が、まるで歯に立たなかったくらいだ」
「シ、シンパ様が……?」
龍牙騎士団長ルエール、紅血騎士団長ディード、白薔薇騎士団長シンパ。
聖アルマイト王国を象徴する各騎士団の騎士団長は王国3騎士と称されており、その実力はそのままトップ3といわれている。その一角が、よもや騎士養成機関の学生に負けるなどと、まるで信じられない。例えるならリューイがルエールに勝利するようなものだ。
「さっきも言ったように、グスタフがどんなことをしているのかは一切分からない。ただ、さっきのヘルベルト連合の件も考えると、このグスタフの『未知』は脅威だ。もしも白薔薇騎士団とミュリヌス学園をまるごと乗っ取られた場合、もう何が起こるか分からない」
「そんな……そんなことって……」
リューイは拳を握りしめて、身体を震わせる。
怒りとも悲しみとも、自分でもなんとも分からない感情が体中を駆け巡っていた。
夏休みにリンデブルグ家で会った時のリアラを思い浮かべる。
あの時のリアラはいつも通り普通のリアラだったように思う。真面目で明るくてリューイのことばかり想ってくれていて、とても魅力的な恋人。恥ずかしそうに愛の言葉を口にする彼女がとても愛おしかった。あの時点では、とても操られているとは思えない。
しかし、コウメイの言う通り、リアラがもしグスタフに操られるような事態になってしまえばと思うと、リューイはどうしようもない不安を怒りに身体を震わす。
「そんなに心配しなくていいわ。コウメイ殿の言い方は少し意地悪よ」
神妙な顔つきをしているリューイに、そう声をかけてきたのはミリアムだった。
「全て可能性の話よ。しかも大げさに言っている。騎士団長のご息女がコウメイ殿を襲ってきたというのは事実みたいだけど、それにグスタフ卿が関わっている証拠は何もないの」
「で、でも……大丈夫だっていう保証もないでしょう」
そんなミリアムの言葉に、抗弁するリューイ。大切な愛する人間が、とんでもなく危険な状態にあると聞かされれば、そんな反応も無理ないことだった。
「それじゃあ君を安心させるために言おうか。仮にグスタフ卿が黒幕だったとするわね。そうだとしたら、確かに私達が知りようのない恐るべき異能を持っているのも間違いなさそう。なるほど、確かに騎士団長のご息女1人ならば虜にも出来るかもしれない。でも、ミュリヌス学園の生徒の誰もが……というと、果たしてどうかな。手間もかかるだろうし、何よりもグスタフ卿の企みが表に出るリスクが高まると考えると、いささか現実的ではないと思わない?」
「で、でもっ! 例え今は操られていなくたって、いつ操られてもおかしくないってことでしょう?」
「そうね。だから、そうなる前に私達が現地に赴いて未然に防ぐ。君に頼みたいのは、その任務への参加だよ。リューイ=イルスガンド君」
その言葉でハッとするリューイ。
そうだ。今自分がしなければいけないことは、ここで不安になって幹部達と口喧嘩することじゃない。リアラが危険だというのなら、それから守って助け出すことだ。
だとすれば、声を掛けられたのは僥倖だ。
「改めて説明しよう。今回君に参加してもらいたい任務は、ミュリヌス地方へ赴き、大臣グスタフの陰謀についての証拠を掴み、これ以上の被害を防ぐことだ。時期は諸々の準備期間を考えて、年明け頃になると思う」
最後のまとめと言わんばかりに、ルエールがリューイを見据えながら言う。
「ミリアムの言う通り、証拠がない現状では堂々と騎士団を動かすことは出来ない。またカリオス殿下の不在ということもあり、私と腕に覚えがある騎士を数人連れて現地に赴く。場合によっては、そのままグスタフを拘束する可能性まである」
ルエールの説明に、補足するようにミリアムが付け足す。
「何度も言う通り、現状では可能性に過ぎないことは忘れないで。一方的にグスタフ卿を悪者扱いして、結果濡れ衣を着せただけになった場合、相手が大臣なだけに国民に与える影響は甚大よ。そのため、この件は誰にも知られることなく、秘密裏に行わなければならないの。友人はもとより、親兄弟、恋人――誰であってもね」
それを聞いたリューイは、不意に思い出す。
間もなく年が終わる。ミュリヌス学園の冬休みに合わせて、またリューイはリンデブルグ家に世話になる予定だ。当然、リアラとも顔を合わせる。
「――その、自分は冬休みにリアラと会う約束になっているんですが」
こんなことを聞いてしまえば、一体自分はどんな顔でリアラと会えばいいのだろうか。今のミリアムの言葉に従うのであれば、この話はリアラには打ち明けられない。冬休みが終われば、危険な場所だとわかっているのに、ミュリヌス学園に戻ろうとするリアラに何も言えずに見送らないといけないのだ。
そんなリューイの苦悩を察するコウメイは、しかし無慈悲に言う。
「彼女さんに口外禁止なのは勿論だけど、グスタフに疑いがかかっていることを感づかれることもダメだよ。万が一既に操られている状態であれば、そのことが奴に筒抜けになってしまう。そうすれば何かしら手を打たれてしまうからね」
「逆にグスタフ卿が関係無いとしたら、ありもしないグスタフ卿に対する疑惑が無用に広がることとなるわ。会うこと自体を禁止はしないけど、いつもと同じように素知らぬ顔で接してもらうことになるわね。どういう形であれ、今グスタフ卿を刺激するのはよくないから」
後半の説明はミリアムだった。2人揃って、リューイの苦悩など無関係のように、畳みかけるように言ってくる。
「むしろ、彼女さんをよく観察して、今までと違う様子が無いかどうかを――」
「コウメイ」
更にコウメイが続けようとすると、ルエールが間に入って諫めるような声を出す。
「いえ、いいんです。俺は龍牙騎士団の騎士です。その使命は果たします」
それまで複雑な感情に身を震わせていたリューイだったが、ここで腹を括る。
ここで一介の騎士である自分1人で悩んだり怒ったりしても仕方ない。どうやら事態は既に大事に発展しているようだ。
己1人でどうにかしようとするのではなく、周りの人間を信じてみよう。知らないところで知らないうちに恋人が傷つく方が、よっぽど最悪ではないか。幸いにもこうやって声がかかったのは本当に僥倖だった。
「大丈夫です。俺はリアラのことを誰よりも知っているつもりですが、あいつは心も体も強い奴です。グスタフ様が本当の悪人だったとしても、そんな奴に操られるはずがない。俺はリアラを信じていますから」
強張っていた頬を緩めて、リューイが力強くその言葉を言うと、目の前の幹部3人は感心したように目を大きく開けていた。
「全て承知しました。その任務、参加させて下さい。本当にリアラのいるところがそんな危険な状態だというなら、できれば俺の手で助けたいです」
愛するリアラへの想いを込めたそのリューイの言葉は力強い。話を聞いたばかりの時のような、悩みや不安を吹っ切ったリューイは、その瞳を真っ直ぐ3人へと向けていた。
「――ということだそうだ。どうだ2人とも?」
そのルエールの言葉には、わずかに笑みのようなものを含んでいるように感じた。
ルエールの問いかけに、まずはミリアムが瞳を閉じてふっと笑う。
「私は良いと思いますよ。経験不足からの未熟さはあるでしょうが、想いの力は参加者の中では随一です。想いは人を強くする。任務中の成長に充分期待できると思います」
続いてコウメイ。
「俺も適任だと思いますね。国のためとか平和のためとか、そんな中身のない綺麗事なんかよりも、よっぽど大事で明確な動機がある。この任務で最も重要な『信頼』は文句なしですね」
コウメイの言葉はにどこかしら毒々しいものも感じるが、リューイに対する評は上々のようだ。
その2人の言葉を聞いてから、ルエールはすっと席から立ちあがる。
「覚悟はしておくように。状況によってはグスタフの手勢と正面からの戦闘になる可能性もある。そうなった場合は間違いなく厳しい戦いになる。命がけの任務、という認識でいてくれ」
静かな口調でありながら真にせまるその言葉は、リューイに相応の覚悟と決意を強いていた。
リューイはごくりと唾を飲み込み、目の前の龍牙騎士団長――王国3騎士を統べるとまで言われているルエール=ヴァルガンダルから視線をそらさずにうなずく。
そのリューイの決意を受け取ったルエールも、またうなずき返す。
「よろしい。ではリューイ=イルスガンド、今日から君はバーグミング隊を離れて『ミュリヌス地方調査任務』部隊へ転属となる。先ほど言った通り、その内容は極秘。任務開始は年明けになる見通しだ。だから、年末はゆっくり休んで任務に備えてくれ。追って詳細は伝えるようにする」
「御意」
リューイは右手を胸にかざしながら、上体を折り曲げる。
「えーと、あの……いいすか」
すると、取り残されたような顔で、呆けた顔で先輩騎士が手を挙げる。
誰もが目を見張るようにして彼を見る中、コウメイが「どうぞ」と促すと。
「俺は何で呼ばれたんでしょうか? 話からすると、これってリューイだけですよね?」
心なしかガタガタ震えているようだ。存外の大事に、なんだかよく分からないうちに巻き込まれてしまい、本人も混乱しているのだろう。
「あー……ええと、なんかバーグミングさんが、リューイ君を呼ぶならセットで、て言うもんだから。あ、話を聞いた以上は君も参加だから。よろしく♪」
「ええ……」
あまりにも軽い調子のコウメイに、先輩騎士は思い切りゲンナリした声を出すのだった。
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リューイ達が騎士団長室を去った後、残った幹部3人は顔を合わせて今後のことを話していた。
「人員の方は大体こんなところか」
「そうですね。多すぎてもいけないし、だからといってあの豚野郎がどれだけの戦力を整えているかも分からない。戦力と人数のバランスを考えて、この辺りが妥当だと思います」
少し疲労が見えるルエールは、そのコウメイの言葉を聞いてこめかみをもむようにする。
「コウメイ殿。やはり私は貴方のその口の利き方は甚だ不快ですね。グスタフ卿が、尊敬に値しない人物ということは私も同意しますが、だからといってその言葉使いは度が過ぎていると思います」
面と向かって注意してくるミリアムに、コウメイはうんざりしたような顔をする。
「あのねぇ、ミリアムさん。貴女は聞いた話でしかないから、そんな悠長なこと言えるんですよ。あの腐ったド外道にいちいち敬語なぞ――」
「いい加減にしないか、2人とも!」
また言い合いを始めそうになった両者を、ルエールにしてはめずらしく大声を出してぴしゃりと収める。
現時点で、最も直接的な被害を受けているのは、大事な一人娘を凌辱されたルエールといえるだろう。本当は証拠などなくとも、今すぐにグスタフの下へ言って首を刎ねてやりたいくらいに思っているに違いない。
そんな上司の想いを察せずに、確かに無神経であったと2人とも反省する。
「ミリアム。お前のことは頼りにしている。お前の考えや気持ちも汲んでいるつもりだが、やはり諸々の事情を踏まえると、グスタフが全ての黒幕だという前提でいてくれ。違っていたとしていたら、我々の間で笑い話にすればいいだけの話だ」
「――御意」
ルエールの懇願にも近い命令。その言葉には察するに有り余る様々な感情が込められていた。ミリアムは尊敬するルエールのその言葉に、深々と腰を折って敬礼をした。
「コウメイも留守を頼むぞ。カリオス殿下が戻られたら、すぐに事情をお伝えするんだ。場合によっては、軍勢を率いてきてもらわないといけない事態になるかもしれん」
「分かっています。グスタフに好き勝手させる隙は与えません。迅速速攻で片をつけちゃいましょう」
そうやってルエールと話すコウメイが唯一懸念しているのが、ミュリヌス地方への出立が年が明けてからということだった。
もう1か月も無いが、それでも少し期間が空くことになる。この期間に手遅れにならなければいいが…と、密かに思う。
出立の時期まで期間が空くのは、どうしようもないことだ。聖アルマイト王国が抱えている問題は、グスタフのことだけではない。要職に就いているルエールも、それらを解決するために日々多忙の身である。
少なくとも“娘を大変な目に合わせたのがグスタフっぽいので明日からとっちめに行ってくる”とは、簡単には出来ない身だ。諸々の準備や調整を考えれば、年明け頃という時期でも短いくらいだ。
その間に、ミュリヌス地方へ探りを入れる案も話し合われたが、結局それは却下された。コウメイが生きて王都ユールディアに戻ってアンナの異常事態を持ち帰れたのは、こちらがグスタフに対して持っている唯一のアドバンテージだ。下手にちょっかいを出すことでこのアドバンテージを失うくらいなら、何もしない方が良い。
こちらがグスタフを疑っていることを知られないまま、不意を突く形でルエールがグスタフの下へ赴いて陰謀を暴くこと。仮にグスタフが実力行使――ヘルベルト連合の手勢をもって武力蜂起をしたとしても、こちらもカリオスに話を通しておいて直ちに軍を動かせるようにしておけば問題無く対応できる。
これがコウメイの言う迅速速攻の策。グスタフに一切の準備を与える時間や余裕を与えないことを肝要としているのだが、唯一の懸念が出立までの空白の時間だった。この期間に関しては、言ってしまえば放置状態となる。
「――ま、大丈夫か」
あまり不安ばかり募らせても仕方ない。今出来る最善の対応が出来ているはずだ。あとは状況に合わせて対応していくしかない。今の自分の役目は、戻ってきたカリオスへ迅速に事の次第を報告することだ。
それに、グスタフ本人は、その狡猾さは認めざるを得ないが、決して優秀ではないとコウメイは評価している。
アンナをあそこまで意のままに操り、能力強化をさせている能力――ルエールが言うには呪術とのことだが――は確かに脅威ではあるが、行動の根幹は自分の欲望を優先しているだけだ。いくら恐るべき異能を持っていて悪だくみに秀でていようと、自分の欲望を満たすことしか考えていない人間の考えなど底が浅いと相場は決まっている。
気づくのが遅れていれば大事に至っていたかもしれないが、この段階で気づけたことで、迅速に対応出来ている。
自分の考えは間違っていないはず。グスタフに対する評価も的を射ているはずだ。
だから何の問題もない。そのはずだ。
しかし、いつまでも不安がコウメイの胸から晴れていかない。
それは得体の知れない嫌な予感、というよりはもう少し何か具体的な何かがありそうな気がするのだが、でもそれが何なのかが分からないでいる。
(うーん、自分でも何言ってんのかよく分からんけど、要するにあの豚親父を初めて見た時から、ずっと引っかかてることがあるってことだ)
その「引っかかっていること」とはコウメイが認めたくないことだった。しかし時間が経つにつれて、根拠などないのに確信だけが強くなってくる。
それを考えると、本当に吐き気がするくらいの不快感に包まれるのだが、どうやらその通りかもしれない。
(俺は……グスタフを知っている? 以前にどこかで会ったことがある、のか? ひょっとして前世での知り合いで運命の再会的な感じなのか?)
――あんなキモ親父が運命の相手だなんて、笑えない冗談を通り越して自殺ものなんだが。
不安、恐怖、怒り、不快――そういった重苦しい感情を誤魔化すために、胸中でもあえておどけるようにして考えるコウメイ。
しかし芽生えたネガティブな感情は、しっかりとコウメイの心に根を張り決して消えない。いくらおどけてみせようと、たった一つのシンプルで不気味な疑問が、ただ浮かび続ける。
(あの男、一体何者なんだ)
こうして、聖アルマイト王国の1年がまた終わっていく。
そして、激動の翌年を迎えるのだった。
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