※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

文字の大きさ
110 / 155
第4章 激動の冬編

第101話 真の敵、真の黒幕

しおりを挟む
 ミュリヌス攻略部隊はミュリヌス領境にて待機することに。

 そこから斥候部隊として、王子カリオス自らが、王国最強の騎士で紅血騎士団団長ディードと龍牙騎士団団長代理コウメイ以下数名の騎士を率いて、本隊から離れて敵情把握を行っていた。

「――いつから、ここはヘルベルト連合の領地になったんだ」

 カリオスは苦虫をつぶしたような表情で、自分に付き従う面々にそう零した。

 王族、しかも現状は国王とほぼ同等の立場といってもいいだろうカリオスからすると、好き勝手に他国の軍勢が自国内を闊歩しているのを見るのは、不愉快でたまらないだろう。

 斥候部隊は、今は本隊よりも大分離れてミュリヌス領内の奥深くまで入り込んでいたが、そこかしこでヘルベルト連合の部隊を目にすることとなった。

 今は領内の山岳地帯を、ヘルベルト連合の部隊が歩いている。カリオス達はその部隊から気取られないように、高い位置から進む部隊を見下ろしていた。

「どこもかしこも龍の爪の部隊だらけですね。どうしたことでしょうか、これは」

 相変わらず無表情な最強の騎士は、いまいち危機感が感じられない口調でそう零すが、多分に感情が先走っているカリオスと合わせてバランスが良いのかもしれない。

「ただ事じゃねえな、これは。おい、コウメイどうする?」

「……」

「おい、こらコウメイ。聞いてんのか」

 カリオスの問いに答えず、口をあんぐり開けているコウメイ。身体を揺すられるとようやく気付いたように、彼の方へ顔を向けるが「ああ……」と、いまいち反応に薄い。

 コウメイもコウメイで、「驚きのあまり声が出ない」とその文字のままだった。

「馬鹿な、こんなこと有り得るのか。どうして、こうまで入念に準備が出来ているんだ? おかしいだろ」

 参謀の役割を任せているコウメイが素直に驚きの感想を漏らすと、さすがのカリオスも表情に僅かに不安をにじませる。

 ここまで彼ら斥候部隊が見かけたヘルベルト連合の部隊は、その1つ1つは決して規模が大きいものではない小隊規模だったが、とにかく領内のありとあらゆる場所にいるのだ。

 ある部隊は移動をしていたり、ある部隊は拠点に留まっていたり、それらの目的は不明だが、とにかく部隊数が多い。

 ここまで様々な部隊を散らされていると、正確な敵戦力の把握は難しかった。

「おい、しっかりしてくれよ。何のためにお前をここまで連れてきたと思ってるんだよ」

「す、すみません」

 カリオスもカリオスで苛立っているのが分かる。少し声に険がこもっていたが、コウメイもコウメイで混乱しているのだった。

「――本隊に戻って、一戦やり合うか? 今まで見た程度の部隊なら、どうとでもなるしな」

 リリライトのことがあるから、カリオスはそうしたいのだろう。感情で言っているのは明らかだが、その言葉は事実だった。そして横でうなずくようにしているディードもカリオスに同意見のようだ。

 しかし、コウメイは安易に首を縦に振ることが出来ない。

 ただ冷や汗をかきながら、無言で眼下を通り過ぎる部隊を見送っているだけだ。

「どうした?」

 満足に反応を返さないコウメイに、カリオスの怒りは募っていくばかりだった。それでもまだ、コウメイは自分の考えを、そしてこれからの行動指針を決めかねていた。

 カリオスの言う通り、ミュリヌス領内を闊歩する部隊の1つ1つは小規模だ。今まで見てきたものを全て合わせても大したことはない。ましてや、あれだけバラけて行動しているのなら、率いていた攻略部隊で各個撃破していくのは、決して難しくはない。

「でも、おそらくはまだ確認できていない部隊も多くあると考えると、どれくらいの軍勢が入り込んでいるのか……」

 敵戦力が全く把握できないまま、迂闊に大きな行動を起こすことは危険極まりないとコウメイは考える。

「撤退しろっていうのか」

「いや、それは……」

 不満そうにカリオスが言う「撤退」という選択西にも肯定を示せず、コウメイは進退を決めあぐねてしまう。

「コウメイ。あまり難しく考え過ぎるな」

 カリオスに責められているような雰囲気になってきたからか、ディードはコウメイを気遣うような言葉を口にする。相変わらず無表情ではあるが。

「龍の爪は、実は大規模な戦争はほとんどしたことが無いはずだ。ヘルベルト連合のやり方は、そうなる前に局地的な小規模戦闘で勝利を重ねて、後は経済力と外交で押し切る方法で勢力を大きくしてきた国だ」

「だから、本当に厄介なのは、それを指揮する代表のフェスティアだな。ディードはさらっと言ったが、自分達が勝てる“局利的”な状況を作るのがとにかく上手いし、徹底してそこでしか戦わない。でもって、その勝利で最大の効果を得られるように謀略を張り巡らせる。優しいお姉さんって外見とは違ってとんでもない女だよ」

 ディードの説を補足したのはカリオス。その説明に、コウメイは驚いたように目を見張る。

「フェスティアって人の話はよく耳にするけど、そこまでの人なんですか? 政治だけじゃなくて、部隊指揮までやってのけるんですか?」

「本職は政治家だよ。戦争も政治の手段に過ぎないと考えている優秀な政治家だ。さっき言った通りだが、政治的に必要なことなら何でもやってのける女だ」

 仏頂面ながら、隣国の代表である女性をほめるカリオス。他国の要人をこうまで言うカリオスは、コウメイだけではなくディードですら珍しく感じる程だった。

 どうも、フェスティアという人物は、コウメイの想像以上に厄介な人物らしい。ただ先ほどのカリオスとの会話では、フェスティアはこの件に関わっているとは思えない、という話だったが。

「入り込んでいる龍の爪が反フェスティア勢力なら、その一番厄介なフェスティアはいない。それなら、ただの烏合の衆に過ぎない。小難しく考えるだけ無駄だと思うけどな」

 その通りで、入り込んでいるのが反フェスティア勢力ならば、大した戦力ではないはずだ。しかし、本当にそうなのだろうか。

「――いや、違う。逆に考えた方が、むしろしっくりくるじゃないか」

「何がだ?」

 コウメイの中で、今まで不可解だったことが、パズルのピースが合わさっていくようにぴたりと明確な形を帯びていく。

 何かが閃いたようにコウメイは顔を上げると、ようやく明瞭な口調になる。

「グスタフ程度の人間にこうまで先手を打たれていたことは、どうしても納得出来なかったんですけど……本当に裏で手を引いているのが、そのフェスティアっていうのであれば……」

 カリオスによるフェスティアの評を聞いたコウメイが、そこから推測したことをカリオスとディードに説明する。

 むしろ、そのフェスティア自身が積極的に関わっているのだ。

 きっかけは分からないが、グスタフの「異能」を知ったフェスティアは、側に第2王女がいることに目をつけて、グスタフを利用することを思いついたのでは。グスタフがヘルベルト連合の担当外交官であったなら、グスタフの「異能」を知る機会などいくらでもあっただろう。

 グスタフの「異能」の効果を利用して、自分は裏でそのフォローに徹して、グスタフに思うがままを実現させている。しかし実は、グスタフはフェスティアの良いように操られているだけなのでは。グスタフがフェスティアを…ではなく、フェスティアがグスタフを手玉に取ることなど造作も無いだろうといっていたのは、カリオス自身だ。

 大陸最大国家の大臣と第2王女を意のままに操れるのなら、その政治的メリットは計り知れないだろう。狡猾で優秀な政治家というなら、それくらいならやってのけるだろう。全てにおいて欲望と本能を優先するグスタフは御しやすいだろうし。

グスタフに手を貸すという立場ではなく、フェスティア自身が黒幕で、全ての事態を操作しているのだとしたら――先ほどカリオスと話していた状況とは違ってくる。充分に可能性はあるのでは、と提言するコウメイにカリオスは

「なるほど、有り得ねえ話じゃないな。あの女なら、お前が言う「異能」すらも駆け引きに利用するだろうしな」

 と、感心したようにうなずく。

 しかしその瞳には静かな怒りの色がにじみ出ており、その矛先をフェスティアにも向けているようだった。

 勿論、目下憎むべき相手はグスタフを置いて他はいないが、もしもグスタフの悪行がフェスティアによる手引きだというなら、カリオスは迷いなくヘルベルト連合を攻め落とすだろう。現状では、コウメイの推測の域を出ないことではあるが。

「それで? 本当の黒幕がフェスティアだったとして、どうすればいいと思う?」

 リリライトを助けるために進軍を止めるなど考えられない――そう思っているに違いないはずだが、それでも自ら意見役に任命したコウメイの考えを伺うあたりは、さすがだと思うコウメイ。

 コウメイは顎に手をあてて考える。

「まずは、変わらずルエール部隊との合流を目指しましょう。本当にフェスティアが裏で糸を操る黒幕なのかを確かめる意味でも、現状を知ることが最優先です。幸いにも、この部隊は斥候部隊というには戦力が整い過ぎている」

 カリオスにディード、聖アルマイトを代表する屈指の戦士が2人も揃っているのだ。その他の騎士も、コウメイを除いては歴戦の騎士達だ。

「正しい現状を把握したうえで、正しい判断をする。敵だってまだこちらの状況を正しく把握できていないはずです。それからでも判断は遅くない……どうですか?」

 このコウメイ提案に、カリオスもディードもその他の騎士も含めて、反対する者はいなかった。

(やれやれ、えらいことになってきたな)

 もともとは、黒幕だと思われていたグスタフは成す術がないまま、呆気なく捕らえて解決すると考えていたが、色々と状況が変わってきた。

 楽勝ですぐ終わる――そう考えていながらも、どうしても消えなかったコウメイの不安が、皮肉にも的中したこととなる。

 勿論、もはやコウメイに楽勝ムードは無い。

 身分不相応にも部隊の命運を握るといってもいい参謀役に任じられたコウメイは、ありとあらゆる可能性に考えを巡らせて、ルエール達を、リリライトを、カリオスを助けなければいけない。

 それが出来るのは自分だけだと、今までにない程の使命感を背負うコウメイは――

 大陸で唯一女性ながら一国の代表を務める「女傑」フェスティア=マリーンと、熾烈な戦いが既に始まっていることに、まだ自覚が無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

ヤンデレ社長は別れた妻を一途に愛しすぎている

藍川せりか
恋愛
コスメブランドでマーケティング兼アドバイザートレーナーとして働く茉莉花は三十歳のバツイチOL。離婚して一年、もう恋も結婚もしない! と仕事に没頭する彼女の前に、突然、別れた夫の裕典が新社長として現れた。戸惑う茉莉花をよそに、なぜか色気全開の容赦ないアプローチが始まって!? 分かり合えずに離婚した元旦那とまた恋に落ちるなんて不毛すぎる――そう思うのに、昔とは違う濃密な愛撫に心も体も甘く乱され、眠っていた女としての欲求が彼に向かって溢れ出し……。「もう遠慮しない。俺だけ見て、俺以外考えられないくらい愛させて」すれ違い元夫婦の、やり直し極上ラブ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...