※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

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第4章 激動の冬編

挿話 舞台裏(後編)

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 フェスティアが、側近のアストリアを伴ってグスタフの前に現れたのは、フェアがオーエンを連れて戻ってきてから2日後だった。フェアの言う通り、龍の爪部隊を連れてきたフェスティアは、リリライト邸の執務室にてリリライト、グスタフに謁見していた。

「全く優秀な参謀がいて、助かったぞい」

「お褒めいただき光栄です、グスタフ卿」

 フェスティアが恭しく頭を下げる傍らで、彼女の側近アストリアは、見るからに不満そうな表情をしながら、渋々とフェスティアに倣う。グスタフは目ざとく、そのアストリアの様子を見逃していなかった。

「早速ですが、よろしいですか?」

「む。なんじゃ……」

 実はグスタフは、先日捕えたばかりのリアラが思うように「異能」にかからずに苛立っていた。龍牙騎士相手にオーエンだけでは頼りなく、リアラを護衛として操るという計画は上手く進んでおらず、グスタフは内心焦っているのだった。

 だから、優秀な働きぶりを見せるフェスティアを賞賛こそすれ、不快感を隠そうともせずに、ぶっきらぼうに答える。

「先んじてこちらに向かっているという龍牙騎士は、もう間もなくこちらに到着する見込みと聞いております。龍牙騎士相手となると、オーエンでは役者が違うかと存じますが……」

「--その護衛を寄越したのは、お前じゃろうが。どういうつもりじゃ?」

「今、私が動かせる手駒の中では最も適任の男でしたのでやむを得ず、です。他には『黒風』のジャギボーンも連れて来ておりますが……実力ではオーエンを上回る男ですが、護衛任務となると……」

「ええい、知ってもおらん男の名など聞いても、面白くもなんともない。要点だけをかいつまんで話さんか。それとも、お前はワシが龍牙騎士に殺されてもいいというんかぁ?」

「ふ、まさか……」

 グスタフの「異能」にかかった女性達は、皆グスタフに媚びへつらうようになるのだが、フェスティアだけは少し様子が違っていた。しかしグスタフは、そのことに何も感じていないようだ。

 フェスティアが微笑を浮かべながら、落ち着いた態度をそのままに続ける。

「オーエンは好きに使っていただいた構いません……が、こちらにはグスタフ卿が準備出来る以上の護衛を用意出来ません。どうか、卿ご自身を守る戦士は、ご自身で準備していただきたいと思います。よもや、グスタフ卿の御力をもって出来ない……ということはないでしょう?」

 まるで挑発をするような物言い。それに激昂したのはグスタフではなくリリライトだった。

「貴女、旦那様の肉便器兼愛人の分際で何を恐れ多いことを言っているんですか! 旦那様に謝りなさいっ! さもなければ、二度と旦那様のオチンポ様を……!」

 いきりたつリリライトを制するのはグスタフ。す…と手を上げてリリライトの動きを制すると、いつもの下卑た笑みを浮かべる。

 そんな狂ったリリライトの言葉を聞いたフェスティアもまた、暗く冷たい笑みを浮かべた。

「ぐひ、ぐひひひ。そういうことか……全く、ほんに一筋縄ではいかん女じゃ。回りくどいのぅ」

「あいにくと、それが持ち味なもので」

 澄ました顔で言うフェスティアと、何かを分かり合った風に語るグスタフ。そんな2人から蚊帳の外にされて、1人置いてけぼりにされたリリライトは不安そうな表情になる。

「それに、先に向かってきている騎士というのは女性騎士というではありませんか。グスタフ卿ならどうにでも出来るでしょう?」

「ぐふ、ぐふふふ」

 本来は第2王女である彼女がこの場では最も立場が上であるにも関わらず、フェスティアは彼女の存在など全く無視をして、グスタフへと妖しい笑みを浮かべる。グスタフもそれを当然としながら、醜悪で不気味な笑いを浮かべるのだった。

「安心せい。ワシも龍牙騎士相手に、龍の爪如き将軍で間に合うとは思っとらん。今、目を付けておる雌がおってのぅ……これが腕は立つんじゃが、今までの雌とは違ってなかなかにしぶとくてのぅ。ぐひひひ、少し急がねばならんな。その雌騎士をいただくためにものぅ」

 ぺろりとその肉厚の舌をのぞかせて唇を舐めるグスタフ。女性ならば誰でも鳥肌を立たせるに違いないそのグスタフの所作に、側のリリライトは自身の存在がすっかり無視されている苛立ちも忘れて、息を飲んでうっとりとする。

「くすくす。かの『純白の姫』をここまで狂わせたグスタフ卿なら、容易いことでしょう。安心いたしました」

 要はフェスティアが用意した護衛だけで満足するなという忠告だったのだろう。

 フェスティアも、自分が言う前にそれを承知していたグスタフが認める人間ならば、おそらく任せてもいいだろうと判断する。

「では、我々龍の爪部隊は行動を開始しますわ。カリオス王子がどのくらいの部隊を引き連れてくるかは不明ですが、真っ向勝負では物量で押し切られてしまいます。上手く立ち回って、彼には本国に帰っていただくよう差し向けますわ」

「--いや、ちょっと待て」

 意気揚々というフェスティアの腰を折るように、グスタフは制止の声を掛ける。てっきりそのままOKが出ると思っていたのか、フェスティアは珍しく意表を突かれた表情を作る。

「あのクソ王子が入り込んだのなら……殺せ。わざわざ本国に戻す必要はないじゃろう。殺してしまえ」

「しかし、それは--」

「いいから殺すんじゃ。出来んとは言わせんぞ。雌にしては珍しいその聡い頭をフル回転させて、カリオスとあのクソガキ--コウメイを殺すんじゃ。上手く出来れば、三日三晩ワシのチンポはお前専用じゃあ」

 有無を言わさぬグスタフの命令に、フェスティアはもうそれ以上の抗弁は無理だと悟ったか

「--わかりました。そうなるよう、策を練りましょう」

「ぐひひひ、それでいい。ああ、それと……」

 フェスティアが首肯すると、グスタフは満足そうに笑いながら、ふとフェスティアの隣のアストリアに視線を移す。グスタフの視線を感じたアストリアは、びくっと身体を震わすが、それ以上の反応は見せない。

「その女子を--」

「今はいけません、グスタフ卿」

 グスタフの機先を制して、フェスティアが穏やかだが、強い意志を込めた言葉で、彼の声を遮る。

「この娘ーーアストリア=フェイメントは、カルカント国大臣の一人娘。今回連れてきた龍の爪の大半は、彼女の口利きで準備した部隊です。今グスタフ卿の側に置かれて、姿が見え無くなれば、部隊に動揺が走り作戦に支障をきたします。それに何より、今回の作戦、私自身もアストリアのサポートを必要としております。どうか、ご容赦を」

「ん、うむ……」

 フェスティアにそうまで言われてしまえば、さすがのグスタフもぐうの音が出なかった。だからといって自らが支配しているはずの女に頭を下げるのもプライドが許さず、曖昧な返事をして、そのまま部屋を出るフェスティアとアストリアの背中を見送ったのだった。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

「全く、あの男は何なんですか、気持ち悪い! 代表が何もしゃべるなと言ったから我慢しましたが……!」

 執務室から出たフェスティアとアストリアは2人並んで邸内の廊下を歩いていた。澄ました顔で歩いているフェスティアに対して、アストリアは怒りを抑えられないかのように、ドスドスと足音を立てて歩いていた。

「それに、あの第2王女は一体なんなんですか。どこが『純白の姫』ですか。本当、気持ち悪い……!」

 アストリアはリリライトと対面するの初めてで、元々あまり良い印象を受けていなかった。リリライトこそ、フェスティアやアストリアが憎む「血統主義」の象徴。何かを成し得たわけでもないのに、「純白の姫」とあがめられて多くの人々に賞賛されている下らない存在。

 そのリリライトがグスタフの「異能」で狂わされた姿を見て、冗談ではなくアストリアは吐き気を催す程の嫌悪感に苛まれたのだ。

「まあまあ、落ち着いて」

 そんなカリカリしているアストリアを宥めるように、フェスティアは微笑みながら声を掛ける。

「本当のリリライト王女は、世間知らずの純粋無垢で、お姫様のお手本のような人物よ。まあ、血統主義でちやほやされているだけの無能という点は否定しないけれど……それほど、彼の「異能」が凄いってことよ」

「はあ……」

 それを聞いてしまうと、どうしてもアストリアはフェスティアへの不安を禁じえない。フェスティアの口から明言されたことはないが、フェスティアもまたグスタフと寝ていることは間違いないはずだ。

 この時点では、まだフェスティアの話を聞いていないアストリアは、この憧れの姉のような存在は大丈夫なのだろうかと、あの狂ったリリライトの姿を見たら心配せずにはいられない。

「それにしても、まさかカリオス王子を殺せ……なんてね。簡単に言ってくれるわ」

 大陸の覇権を握る大国の王子を殺す--そんな重大なことなのに、まるで夕食のメニューに困る主婦程度の困惑で、フェスティアは吐息を漏らす。

「ど、どうするのですか? 本当にカリオス王子を殺してしまえば、大陸は大混乱に陥りますよ」

「そうね。殺せるかどうか、は置いておいてね」

 聖アルマイト王国は勿論のこと、大陸全土に影響を及ぼす大国の混乱は、必ず諸国に波及する。最悪の場合、記録上では百数年ぶりの大陸全土を巻き込んだ大戦が勃発する可能性すらあるだろう。

 果たしてそれがヘルベルト連合国に利することかと考えると、アストリアにはとてもそうとは思えなかった。

「まあ、考えてみるわ。全てが上手くいくように、ね」

 そういって意味深に笑うフェスティア。

 相変わらず考えの多くを語らないフェスティアだったが、アストリアは相変わらず不信を抱くことなく、この姉のような存在の言うことの全幅の信頼を寄せて、微笑みながらうなずくのだった。

 グスタフとフェスティア--醜悪で悪辣極まりない悪魔と稀代の謀略家。この大陸で考え得る限り最悪の組み合わせ。この時より以前に、舞台裏で既に強固な協力関係にあったのだった。
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