たづさの短編集『雪』

田作たづさ

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ここを繋げば秋です。

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 みなさんこんにちは。私の名前はアキです。

 唐突ではありますが、まずはじめに1点質問をさせてください。

「どうやって夏から秋になるか知っていますか」

 夏が終われば勝手にくる? 勝手に季節は巡るもの?

 あぁ、みなさん勝手すぎる! 私の努力も知らないで。

 聞いて驚くなかれ! 「秋」という季節は、実はこの私が運んできているのです! えっへん!

 信じられない? それなら信じなくて結構! はなから全員に信じてもらおうなんて、こちらも思っていないからね。

 なに? 質問があるって? どうぞどうぞ。

「近年夏が長くないでちか」
「秋がほぼなくて、夏からいきなり冬に突入した年があった気がするんでちが」
「ていうか、もう10月なのにまだまだ暑いでち。秋はいつ来まちか」

 う……!! みなさんのご指摘は痛いほど分かります。めちゃくちゃ心に刺さりまくります。それらに関しては大変申し訳ないと、こちらとしても思っております。しかし近年の秋短い現象は、私1人が原因という訳ではなく────

「アキやっと見つけた」

 私は後ろに振り返る。

「げ……」

 少し遠くの木々の間に、冬の守護者たるフユが佇んでいた。いつものことながら、彼は今も眠そうな顔をしている。

「なにリス達とテレパシーで話してんだよ。そんな暇あったらナツからの課題解け。そして早く秋にしろ」
「これは大事な息抜きなのっ! 邪魔しないで!」

 フユが私の方へ歩みを進めたため、リス達は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。

「あ、リスが……。フユが人間の姿で近づくから……」

 冷たくて大きな手のひらが、私の肩を掴む。うっ……。眠そうなのに、なんて力なんだ。彼は仕事に一切手を抜かないし、他の人が適当にすることも絶対に許さない。

「早く帰るぞ」

 私の肩を掴む力が強まる。

「しょ、しょうがないな……」

 私は着物の袖から羽衣を取り出し、しぶしぶ天界を目指した。


 ◇◆◇


 季節を変えるには、数百もの神聖な儀式を、滞りなく全て終える必要がある。その中でも大部分を占める舞の奉納は、私の十八番で得意中の大得意だ。どの守護者よりもスピーディーに、そして完璧にこなせる自信がある。永くこの仕事を務めてきたが、これほど私に向いている仕事は無いと思っていた。……最近までは。そう、最近までは! 近年は、とある儀式に大変苦しめられている。毎年たった1つの儀式に!

「これが終われば秋になるのに……」

 私は机の上に置かれた、木造の大きな物体を見つめた。いや、正しくは睨んだ。これはあいつ特製のパズル。上下左右前後に可動するパネルを動かしつつ、数字を書き込んだり、点同士を直線で繋いでいくというもの。正しく解ければ、最終的に下部の小さな扉が開くらしい。中身は私へのプレゼントと言っていたが、どうせしょうもないものに決まってる。新たな課題だったらどうしよう……。

「あれあれー? まだ解けないの?」

 今日も今日とて私を馬鹿にしに来やがったな。私は奥歯を噛み締めた。

「このパズル難しい? そんなに難易度高くないけどな~。アキは無能だからね~」

 こいつの長所は顔だけだ。性格は最悪。

 無視しよう。無視無視。

「ねえねえ、聞こえてるでしょ? あまりにも僕の言ってることが当たりすぎて、ぐうの音も出ない?」

 こっちは寝る間も惜しんで、解こうと頑張っているのに……。

 無視無視無視。

「だいたい僕からの課題にこんな時間がかかるのアキだけだよね。後の2人はいつもすぐに終わっちゃうのに! アキはポンコツだね~」

 無視無視……できるか!!

 私は手に持つ筆を机に叩きつけ、椅子から立ち上がった。

「これのどこが難易度高くないんじゃ!! こんな難しいパズルどうやって解けと? それに後の2人の時は、超絶簡単な課題ばかり出しとるだろうが!!」
「えー? そうだっけー?」

 ナツはへらりと笑った。このやろう。ばかやろう。

 季節を変える儀式のトリは、「他の守護者から出される課題を解く」である。課題は他の3人から1つずつ出され、内容はなんでも良いとされている。また途中で課題の内容を変更することも許可されている。スケジュールが押している時は、その場ですぐに完結する課題を出すのが暗黙の了解だ。例えば、今ここで季節にちなんだ俳句を詠めとか。ナツの場合それが顕著で、踊ってとか歌ってとか一発ギャグしてとか、とにかく簡単な課題ばかりを連発する。私以外の2人には。

「今回もスケジュール押してるのに、なんで私には難問を出すのよ! 年々難しくなってるし!」

 問題はそこだ。ナツからの課題は年々難しくなっている。それが、近年多発している秋短い現象の主な要因である。前に課題を力技で強引に進めようとしたら、気温が急降下して真冬のように雪が降った。数日で夏の気温に戻ったが、人間にも動物にも植物にも大迷惑をかけてしまった。守護者からの課題は他の儀式に比べて軽んじられがちだが、やはり儀式は儀式なのだ。あのような失敗を二度と起こさないためにも、しっかりと誠実に取り組まなければならない。

「……ナツって私が嫌いだから、いつも難しい課題ばかり出すの?」
「え? なに言って──」
「私のこと嫌い? それとも好き?」
「ばっ! なっ! は!? す、好きか嫌いかって? そ、それは……」

 彼の目は泳いで、声も裏返っている。やっぱり私のこと嫌いだから、意地悪するのかな……。

「ナツ?」
「じ、自分の実力不足を僕のせいにしないでよね!」
「う……」

 私は力無く椅子に腰掛けた。ナツの言う通りかもしれない。私にもっと実力があれば良かったのに……。一部の天使や精霊達にひそひそと陰口を言われているのも知っている。最近全く自信が持てないのだ。この仕事は好きだが、優秀な後任に道を譲った方が良いのかもしれない。

「……え? なんで……アキ、泣いてるの?」

 ナツは目を見開いた。

「あ……ほんとだ」

 袖で涙を拭う。私ここまで追い詰められていたのか。今まで気丈に振る舞ってきたが、やっぱりもう限界なのかもしれない。

「もう、辞める。この仕事私には向いてない」

 私は再び立ち上がった。今から大神様のところへ行って、この任を解いてもらおう。

「ま! 待ってよ!」

 ナツに手首を掴まれた。なんでこいつは慌てているんだ? 変なやつ。

「なんで辞めるとか、そういう話になるんだよ!」
「ナツも言ったけど、私は実力不足だから……。もう続けられる自信ない」
「はあ!? そんなわけないだろ! 誰よりも、他の誰よりも綺麗に舞えるんだから!」

 ん? 発言の意味が理解できない。ダレヨリモキレイニマエル?

「……え? もしかして今、私のこと褒めて……」

 私はナツの顔を見上げた。

 彼は私からサッと顔を背ける。私から表情は見えないが、耳が赤いような……。

「と、とにかく座ってよ!」

 ナツは私の背後に周り、肩を掴んで強引に椅子へと座らせた。私はナツの方へ顔を向けようとするが、手のひらで頭を押さえつけられる。首が回らない。

「僕の方を絶対に見るなよ。顔を見るなよ! 絶対!」
「わ、わかった……」

 私はこくりと頷いた。ナツの余りにも必死な声音に、ついつい承知してしまう。

「はー。アキって本当に手のかかる子だね。しょうがないな~」

 ナツは私の頭を押さえたまま、反対の腕を木製のパズルに伸ばした。1枚のパネルを右から左へと動かし、そして2つの点を指差す。

「ほら、こことそこを……」

 点と点の間を繋げるように、指先でゆっくりとなぞる。

「あっ……」

 私はハッと息を呑んだ。

 解けた。解けてしまった。

「あとちょっとで解けたのに、見落とすなんてアキのバカ!」
「バカって言うな! バカって言う方がバカ!」
「悔しかったら、来年僕の出す課題を瞬殺してみせろよ!」

 来年……。私に来年はあるのだろうか。

「あ。この仕事辞めるんだっけ? それって負けを認めるってことで良い?」
「はぁ!? 負けを認めるとかありえないから! 来年覚悟していなさいよ! それと早く頭離せー!」
「そうこなくっちゃ!」

 ナツは私の頭に置いた手を退けた。ん? 最後に頭をポンポンされたような……。コイツがそんなことするわけないか。多分気のせいだ。そうに決まってる。あれ、なぜか心臓がドキドキする。さっき下界に降りたから、人間の不正脈が感染ったのかもしれない。あれ? 不整脈って感染るっけ?

「なにぼーっとしてんの? アキ」
「な、なんでもない!」

 私は大きく深呼吸をする。今は考えるより、パズルの完成が先だ。

「……よし!」

 私は筆を手に持った。そして点と点の間に、そっと線を引いていく。慎重に繋げていく。

「僕のバカ。泣かせたいわけじゃないのに。むしろ……」
「ん? なんか言った?」

 今は集中してるから話しかけないでほしい。

「は?! 何も言ってないから! 無駄なことばっか言ってないで、早く完成させろよ!」
「言われなくてもそうするわい!」

 日本のみなさん、大変長らくお待たせいたしました。

 ここを繋げば秋です。
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