本からはじまる異世界旅行記

m-kawa

文字の大きさ
47 / 153
第三章

おみやげ

しおりを挟む
「マコト!」

 隣に座るフィアがいきなり大声で名前を呼んだかと思うと、スマホをテーブルに置いた俺の手をギュッと包み込むようにして胸にかき抱く。

「な、なんだいきなり!」

 ほとんど両手に包まれてはいるけど、ちょっとだけ感じるやわらかい感触に、手だけでなく自分自身も幸福感に包まれたような錯覚に陥る。
 ――はっ、いかんいかん。

「私も……、すまほが欲しいです!」

 キラキラとした瞳を潤ませながら上目使いで懇願するフィア。
 ぐぉっ、これはかなりの威力だ。ヤバい……、非常にヤバい。思わず買ってあげてしまいたくなる。

「……ダメです」

 しかしそうホイホイと買い与えるものでもない。何せ毎月の支払いが発生するのだ。

「……どうしてもですか」

 ますます瞳を潤ませて俺の手を包んだ両手を胸に押し付けるフィア。
 いやいや、だからやめなさいって!

「……スマホは一回買えばそれで終わりじゃないんだよ。毎月お金がかかるんだよ」

 フィアはおそらく『電話』をしたいんだろうが、それには月額料金がかかる。まぁ無料で通話する方法が他にもないわけではないが、わざわざ説明するのも面倒だし、第一フィアにスマホはまだ早い。

「そうなんですか? であればちゃんとお支払いいたしますので問題ないですね」

 いやいやいやいや、大ありでしょ。

「……金貨や銀貨じゃダメだよ?」

「――えっ!?」

 俺の言葉にフィアの表情が固まる。
 いざ買うとなれば俺名義になるだろうが、金貨とか渡されても換金方法がダメな気がする。
 数回であれば貴金属買取にでも出せばいいだろうが、定期的にとなると怪しまれそうだ。
 ……あ、小太郎ならそういう伝手つてないかな? スマホ云々は置いといて、今度聞いてみるかな……。
 せっかくの異世界だし、ここはお金持ちになるテンプレをなぞるのもいいかもしれない。

「金はこっちの世界でも貴重品だから換金は可能だけど、定期的にっていうのはちょっと怪しまれる可能性がね……」

「……そう、ですね」

 俯いて肩を落とすも数秒のことだっただろうか。キッと顔を上げると何かを決意した表情でキッパリと告げる。

「でしたら……、私、ここで働きます!」

「ええっ!?」

 仮にも王女様でしょう。働いたことあるのか……と思ったが、よくよく考えると元々ゲームのオープニングでやっていた、兵舎訓練場でのプレイヤーその他たちへ向けての激励なんかは仕事と言えなくもないかな。
 いやそれにしても、一般的な仕事というのは経験がないように思えるが。
 というかここ・・って、まさか俺んちじゃないよね……。それ以前にだ。

「まさかこっちの世界に居座る気じゃないよね……」

「えっ? ダメなんですか……?」

 俺の言葉がトドメになったのだろうか、瞳にたまった潤い成分がツーっと流れ落ちる。

「いや、えっと……ああ、そうだ。せめて両親の許可をだね……」

 とうとうフィアの涙に耐えきれなくなった俺は、苦し紛れによくわからないことを口走っている。
 なんだよ両親の許可って。国王と王妃に『誘拐犯のところで働かせてください』ってお願いするフィアという光景が浮かんできた。なんというカオス。

「ホ、ホントですかっ!? お父様とお母様の許可がもらえればいいんですね!?」

 胸に抱えていた俺の手を上下にブンブンと振り回しながら念を押してくる。

「あ……、ああ」

 勢いに押されて頷いてしまったが……、まあいいか。どっちにしろ許可なんてされないだろう。
 むしろ誘拐だけでは飽き足らず洗脳までしおって! とか言われないかふと想像してしまって背筋に冷たい汗が……。
 いかん、ネガティブ思考はやめよう。うん、そんなに悪いことにはならないって。……ハハハ。

「では今すぐ帰りましょう! ――おみやげ持って!」

「はい? おみやげ?」

 さっきまで瞳にたまっていた潤い成分などかけらも見られない真面目な表情で力説している。
 おお、そうか。おみやげか。万が一誘拐犯にされた場合の賄賂というか保釈金替わりにもなりそうだな。うむ、悪くない。
 よし、科学の叡智を詰め込んだアイテムを用意しようじゃないか!

「そうです、おみやげです! 私コレがいいです」

 と言って意気込んだ俺に水を差すように差し出されたソレは……、ソーラーパネルのついた充電式LEDライトだった。

「えっと……」

 ソーラー式LEDライトといってもピンキリあるが、フィアが手に持っているのは安物のキーホルダータイプだ。五、六時間の充電でだいたい三十分点灯といったところか。
 しかし国王へのおみやげで安物を進呈するというのはちょっと抵抗がありすぎる。

「いや、さすがに安物は……。三十分くらいしか光らないよソレ……」

「そうなんですか!? それでも……、十分すごいですよ」

「そ、そうか。ならコレと、もうちょっといいやつも持っていくか」

 こうして誘拐犯に仕立て上げられるかどうかという瀬戸際の緊張を感じることもなく、フィアの世界へと戻るのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

処理中です...