本からはじまる異世界旅行記

m-kawa

文字の大きさ
120 / 153
第四章

しおりを挟む
「ちょっ……、マジで噂の姫を見たんだって!」

 ハンバーグ専門店を出るときにそんなセリフがどこからともなく聞こえてきた。
 ……噂の姫? なにそれ?

「マジかよ、どこだ!?」

 そんなのが噂になってんのね。

「あれ!? ……いない! 確か……」

 後方から聞こえてくる声を聞きながら、次はどこに行くのか考えを巡らせる。
 と言っても俺の買い物ではないが。服系統は粗方買ったんじゃなかろうか。……たぶん。

「次はどこ行くんだ?」

 とは言え想像だけでは行き先が確定されるわけでもなく、聞いてみるしかない。

「次は夏服です!」

 そんな俺の言葉に力強い回答が返ってきた。

「「あ、そうね」」

 俺と瑞樹は同じ反応しかできない。今まで散々買った服は一体何だったのか。春物の服しか買っていなかったとでもいうのか。
 というかいつの間にフィアはここまで順応できるようになったのだ。
 しかしまあ、連れまわされはするだろうが、実際に着せ替え人形にされるのは俺ではない。
 ちらりと瑞樹の顔を窺うが、まだお昼だというのにすでに疲れ切った表情になっている。まぁ、がんばれ。

 しかしなんか今日は周囲の注目が半端ねーな。
 やっぱり金髪と銀髪の組み合わせは目立つ。

「次はここに入ってみよう!」

 フィアはそう言うと、瑞樹だけでなく俺の腕も取って店の中へと入っていく。

「おいおい、今度は俺もかよ!」

「うふふふ」

 フィアはとても楽しそうだ。
 まぁ男が入っても違和感のない店でよかった。周囲を見回して男性だけの客もいたので安心である。

「こっちとこっちだとどっちがいいかな?」

 フィアが瑞樹に服を当てて確認しているが、当の本人である瑞樹は上の空である。

「ねぇ、マコトはどっちがいいと思う?」

 両手に掲げられているのはブルーとオレンジの服である。
 この場合、本人の中ではすでにどっちがいいかすでに決まっているという話を聞く。が、だからと言って「どっちでもいいんじゃね」といった返事はNGらしいですよ。

「ブルーはフィアで、オレンジは瑞樹に似合うんじゃないかな」

 とりあえず両方に薦めておけばいいだろう。

「そうかな?」

 フィアは嬉しそうにブルーの服を自分に当てていて、満更でもなさそうだ。

「じゃあ私も買おうかな?」

 ニコニコしながら今度は自分の服を選び始めるフィア。
 そんな様子を見た瑞樹が、助かったとばかりにため息をついて、それでも怪しまれないように自分の服を選んでいるふりをしている。
 ぼけーっとしてるとフィアにアレコレ服を当てられて着せ替えさせられるのだ。

 そんな感じでさらに二時間ほど買い物をした頃だろうか。とうとう瑞樹が音を上げた。

「ちょっと休憩しようよ……」

 通路に設置してあるソファへと座り込んで瑞樹がそう漏らした。

「そうだな……。ちょっと甘い物でも食いに行くか?」

 瑞樹に助け舟を出すというわけではないが、ちょっと小腹が空いたのも事実なので、フィアも食いつくであろう提案をしてみた。
 俺自身も甘いものはどちらかと言えば好きな方だ。

「ぜひ、行きましょう!」

 案の定である。
 甘いものと聞いた瑞樹も若干だが、瞳が輝いているようにも見える。
 なんにしろ、疲れた時には糖分だよな。

「おう、行くか!」

 俺たちは三人連れ立って喫茶エリアを目指して歩く。
 途中で何度も視線を向けられ、振り返って二度見されたりするがもうそろそろ気にならなくなってきていた。
 エリアに着いてからはフィアがスイーツのショーウインドウや見本を、あーでもないこーでもないと言いながら物色している。
 瑞樹は興味ない風を装っているが、視線はちらちらとスイーツへと向いている。

「これ美味しそう!」

 ほどなくしてフィアが大きなイチゴが乗ったパフェの前で止まった。瑞樹も自覚しているのかわからないが、頬が緩んでいる。
 だが店の前には十人ほどが列をなして並んでいた。

「並ぶ?」

「もちろん!」

 瑞樹の問いかけにフィアが間髪入れずに返事をしたことで、並ぶことが決まってしまった。
 苦笑しながらも列に並ぶと、後ろにフィアと瑞樹が同じく列に並ぶ。
 ある程度列が進んだところで今度は後ろにも人が並びだす。制服姿の女の子四人組のようだ。高校生だろうか?
 こんな時間帯にお茶とはさぼりだろうか。……っていうか今日は何曜日だっけ。うーむ、最近曜日の感覚がなくなってる気がする。

「あの……」

 他愛のない話をフィアと瑞樹としながら、俺たちが並ぶ列の先頭に立ったころ、後ろに並んでいた四人組の一人から声を掛けられた。

「はい?」

 視線を向けられていたフィアが、自分への掛け声と思ったようでその女の子に小首をかしげながら返事をする。

「えっと……」

 視線は多く感じていたが、ついに声を掛けられたか。瑞樹も増えたし、やっぱり目立つよなぁ。

「もしかして、噂の姫ってあなたのことですか?」

 などと呑気に考えていた俺たちに投げかけられた質問は予想外のものだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

オリジナルの桜間トオルは死にました

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人目の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

処理中です...