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第一部

前哨戦

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 暑い雲に覆われた朝、城門までに道を静かに歩いていく。道中、門に到着するまでの間に襲われることはなかった。さすがに貴族街のど真ん中で襲い掛かることはできなかったか。

「それにしても今日は空いてるな」

 見たところ城門入口へと続く橋の上には誰もいない。というか城門入口前にも誰も並んでいないようだ。

「でもしっかり待ち構えられてるみたいよ」

 きちんと仕事をしてくれた気配察知スキルによると、城壁の中に何人もの人の気配が感じられる。前回はいなかったことを考えると、やっぱり俺たちのお出迎えなんだろうか。そこからなら橋の上を狙い放題だし、見通しのいい橋の上は何も遮るものがないからなぁ。

「あからさまに何か飛んできそうなら対策のしようもあるけどな」

「とりあえず行きましょう」

 そのまま橋の上を歩いて城門へと向かうと、案の定城壁から矢が飛んできた。同時に城門から数名の騎士団と魔法師団が出てくる。

「ウインドウォール」

 飛んでくる矢を莉緒が風で散らす。
 すべて風に阻まれてこちらに到達するものはないが、刺さったら怪我するよね。当たり所が悪かったら死ぬよね?

 昨日莉緒が刺されて殺されかけたシーンがフラッシュバックする。

「危ないものは排除しないとなぁ」

「柊……?」

 心配そうに莉緒がこっちを見るけど、よそ見してると危ないぞ。
 魔力を掌に集中すると炎と風を生み出す。圧縮して小さくすると、重力フィールドで覆ってさらに圧縮をかける。
 昨日の実験でクレーターを作ってしまった魔法だ。魔法の圧縮はよくある手法だが、それをさらに重力魔法で圧縮するとすごい威力が出てしまった。やりすぎはよくないのでほどほどに抑える。

「ちょ、ちょっと、いきなりやっちゃうの?」

 莉緒が慌てた様子で橋の終点を指さしているけどなんだろうな?

「どこに撃つか知らないけど、橋が通れなくならないようにしてね」

「おお、そういえばそうだな」

 これは迂闊だった。矢が集中的に飛んでくる城壁真正面に撃とうと思ったけど、瓦礫が落ちてきたりすれば面倒だな。
 さらに土魔法で周囲を円錐の形になるようにコーティングする。底面は特に頑丈にしておいた。これで壁に刺さって中で爆発するようになったかな? まぁ物は試しだ。

 城壁真正面から少し右側上方の壁へと狙いをずらす。これで多少瓦礫が降ってきても橋は通れるだろう。

「よし、発射!」

 乾いた音を立てて魔法が発射されると同時に城壁へと突き刺さり、激しい爆発音を響かせる。こちら側の壁は音の割に見た目それほど変わった様子は見られない。きっと向こう側が破壊されていることだろう。

「おー、うまくいったっぽいな」

 おでこに手でひさしを作って壁を観察する。気が付けば城壁から飛んでくる矢は来なくなっていた。安全と思われていた城壁が安全じゃなかったとわかれば、そりゃ逃げたくもなるか?

「これでちょっと歩きやすくなったわね」

「だな。とりあえず邪魔はなくなった」

「念のためもうちょっと壁壊しておきましょうか」

 そういうと俺と同じ魔法を三つ生成すると、左側へ二つ、右側へ一つ発射する。またもや激しい爆発音が響き渡る。城門の前を陣取っている騎士団と魔法師団も慌てているようだ。

「き、貴様ら! なんてことをしてくれるんだ!」

 橋を渡り切って城門前までくると、他の騎士より少し派手な鎧を着た騎士が怒りをまき散らしていた。

「貴様らには国家反逆罪を適用する! 生きてここから帰れると思うなよ!」

「何言ってんだお前。最初から俺たちを殺す気なんだろ?」

「何の話だ!? 捕縛命令が出ていたが制圧に切り替える!」

 矢を射かけておいて捕縛だと? 当たり所が悪けりゃ死ぬだろうが。それともこれが異世界クオリティというやつなんだろうか。

「コソコソと暗殺者を差し向けてきておいて捕縛とか意味わかんねぇし」

「「「「「フレイムジャベリン!!」」」」」

 騎士団の後ろから魔法師団が声をそろえて魔法を放ってくる。高温の炎の槍がいくつも向かってくる。回避も可能だが、それじゃ面白くない。全部ぶち破りに来たんだから。
 全身に魔力をいきわたらせて飛び出すと、フレイムジャベリンに向かって左拳を横なぎに振るう。師匠にはよく俺たちが撃ち込んだ魔法を素手で打ち払われたっけ。

 紅竜のガントレットが光を放ったかと思うと、相手の魔法を一部吸収するようにして槍が消し飛んだ。

「おぉ、すげぇなこの篭手」

「なんだとっ!?」

 全然抵抗なかったし、熱さも感じなかった。しかも吸収しなかったかこれ?
 感心していると後ろにいる莉緒からも魔力が溢れてくる。

「フレイムジャベリン」

 お返しとばかりに莉緒も、同じ魔法を一人に対してひとつずつ撃ち放っていた。騎士団と魔法師団合わせて二十人なので、二十発同時発動だな。

「何っ!?」

 騎士たちは盾を構え、魔法使いはウォール系の魔法で壁を張ろうと詠唱を急ぐ。

「「アースウォール!」」

 さすがに魔法師団だけあって、事前に詠唱していた奴もいるようだ。岩の壁が広範囲に現れて、莉緒の魔法は防がれてしまった。

「じゃあもう一回だ」

「うん」

 肯定の言葉と共に莉緒からまた魔力が膨れ上がる。俺も飛び出して右拳を構えると、魔力を込めて相手のアースウォールへと叩きつける。

「フレイムジャベリン」

 煌竜のガントレットが光を放ち、突風が巻き起こる。粉々に砕け散った岩の破片が相手へと向かい、さらに後ろから莉緒の魔法が突き刺さった。
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