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第二部
素材を放出しよう
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「ちょっと、おじいちゃん!」
取り付く島もない工房主と思われる男に声を上げたのは、連れてきた本人だ。
「わがまま言ってる場合じゃないでしょ! ただでさえ素材の確保が難しくなってるんだから、仕事受ければいいじゃないの!」
何やら言い争いが続いているが、大した素材じゃないと言われると……、うーん、そうかもしれないと納得しそうではある。普段から狩ったり集めたりしていた素材だから、あんまりレア感がしないのだ。
でも魔の森産の素材だから、俺たちには大したことなくても、一般人には大したことある可能性のほうが高いんだよなぁ。中には師匠が死蔵してた素材もあるし。
にしても高級素材しか扱わないとなると、そうそう仕事も舞い込んでこないのかな。確保が難しいってどういうことだろう。……まぁそこまで他人が突っ込むことでもないか。
「まぁまぁ、落ち着いてください。とりあえず素材を出してみますので、一度見てもらってもいいですか?」
俺が顎に手を当てて考えている間に、莉緒が二人を宥めていた。
今は俺も戦闘用装備じゃないし、パッと見た目はそこら辺にいる駆け出し冒険者かもな。きっと背が低いからではないはずだ。
気を取り直して、今は素材だな。
「一番作って欲しいのはベッドなんですけどね。あとはテーブルとイスに、ソファも欲しいですね」
欲しいものを告げながら素材を異空間ボックスから次々と取り出していく。
いろいろ言ったけど、野営用の家に全部入らないかもなぁ。これはちょっと本格的に拡張しないとダメか。
「ふん…………、んん? ……なん、だと……!?」
出した素材を手に取りながら鼻で笑っていた工房主だったが、だんだんと表情が険しくなっていく。
「こ、これは、レッドブルの革に、シルクスパイダーの糸……。ブラッディベアの毛皮とゲルスライムに、もこもこ羊の毛だと!?」
もこもこ羊!? そんな魔物いたっけ……。ってマジだ。鑑定したら『もこもこ羊の毛』って出てきたわ。そんな名前の魔物がいるのか。見覚えないし師匠の遺産かな。死んでないけど。すげーもこもこで布団にしたら気持ちよさそうだったから出してみたけど……。
「これは、どこで手に入れたんだ!?」
カウンター越しに身を乗り出して手を差し出してくるが、残念ながら届かずに空振りする。
「おじいちゃん! ちょっと落ち着いて!」
言葉と共に男の子をおじいちゃんの前に差し出すと、男の子はおじいちゃんの顔を抱きしめるように張り付いた。
「むぉっ!」
「おーおじいちゃん、おちついてー」
若干舌足らずな言葉で、おじいちゃんの後頭部をぺちぺちと叩いている。なんかすげぇほっこりするなぁ。
「あ、あぁ、すまんかった、クレイ。落ち着いたよ……。客人も失礼をした」
居住まいを正すと、改めてカウンター越しにベルドラン工房の皆さんと向き合った。
「わしが工房主のベルドランだ。こっちが孫のサリアナ。で、ひ孫のクレイだ」
ベルドランさんの紹介で、改めてサリアナさんが頭を下げ、クレイくんがにへっと笑う。どう見てもひ孫がいるように見えないんだけど、異世界すげぇな。
「かわいいねぇ」
「えへへ」
合わせてこちらも自己紹介したが、莉緒が完全にクレイくんにやられている。頭をよしよしと撫でて一人で和んでいた。
「それで、お前さんはコイツでいろいろ作って欲しいと言ったか」
「はいそうです」
改めて素材を検分するベルドランさん。
「うーむ……」
すげぇ唸ってるけどなんだろうな……。ずっと異空間ボックスに入れてたから腐ってたり……、いやいや、一応素材系は時間停止の異空間ボックスに入れてたから問題ないはず。
「ただのガキじゃねえようだな……。いいだろう、ここまで素材を出されちゃ仕方がねぇ」
「もう、素直じゃないんだから。ありがとね、こんなに素材を用意してくれて」
サリアナさんが呆れながらも感謝を伝えてくれる。
「おー、ぷにぷにー」
クレイくんはキラキラした目をしながらゲルスライムをツンツンしていた。手のひらを押し付けると手形がついて、ゆっくりと元に戻る。
この低反発具合はぜひマットレスにしたいよね。
「あはは、面白いよねー」
莉緒もこんなに子ども好きとは思わなかったな。しかし子どもと戯れる莉緒もすごくかわいい。
「木材は天狼の森の樹でいいのか? これだけ素材があるなら他の樹を使ってもいいが……」
「いえ、木材はここのでお願いします。エルダートレントとかありますけど、木の香りは天狼の森の木材が一番だったので」
「エ、エルダートレントか……。とんでもねぇガキだな」
「特に急いではないので、最高の物を作ってもらえたらと思います」
「当たり前じゃねぇか。誰に言ってると思ってる。これだけの素材を使って最高品ができなかったら、そんなやつは廃業しちまえ」
乾いた笑いを浮かべるベルドランさんに告げると、鋭い視線と共に厳しい言葉が返ってきた。そこまで言われるとこっちも任せてみようと思えるな。
「革や毛皮を扱った製品はあたしが受け持つよ」
「そうなんですね。よろしくお願いします」
詳細をベルドラン工房の面々と詰めていく。どうせならとことんこだわって作ろうということでまとまった。いろいろ要望を詰め込んだり、枕などの小物なども追加で注文してしまったが、二週間もあれば全部できあがるとのこと。
こうして俺たちは意気揚々とベルドラン工房を後にした。
取り付く島もない工房主と思われる男に声を上げたのは、連れてきた本人だ。
「わがまま言ってる場合じゃないでしょ! ただでさえ素材の確保が難しくなってるんだから、仕事受ければいいじゃないの!」
何やら言い争いが続いているが、大した素材じゃないと言われると……、うーん、そうかもしれないと納得しそうではある。普段から狩ったり集めたりしていた素材だから、あんまりレア感がしないのだ。
でも魔の森産の素材だから、俺たちには大したことなくても、一般人には大したことある可能性のほうが高いんだよなぁ。中には師匠が死蔵してた素材もあるし。
にしても高級素材しか扱わないとなると、そうそう仕事も舞い込んでこないのかな。確保が難しいってどういうことだろう。……まぁそこまで他人が突っ込むことでもないか。
「まぁまぁ、落ち着いてください。とりあえず素材を出してみますので、一度見てもらってもいいですか?」
俺が顎に手を当てて考えている間に、莉緒が二人を宥めていた。
今は俺も戦闘用装備じゃないし、パッと見た目はそこら辺にいる駆け出し冒険者かもな。きっと背が低いからではないはずだ。
気を取り直して、今は素材だな。
「一番作って欲しいのはベッドなんですけどね。あとはテーブルとイスに、ソファも欲しいですね」
欲しいものを告げながら素材を異空間ボックスから次々と取り出していく。
いろいろ言ったけど、野営用の家に全部入らないかもなぁ。これはちょっと本格的に拡張しないとダメか。
「ふん…………、んん? ……なん、だと……!?」
出した素材を手に取りながら鼻で笑っていた工房主だったが、だんだんと表情が険しくなっていく。
「こ、これは、レッドブルの革に、シルクスパイダーの糸……。ブラッディベアの毛皮とゲルスライムに、もこもこ羊の毛だと!?」
もこもこ羊!? そんな魔物いたっけ……。ってマジだ。鑑定したら『もこもこ羊の毛』って出てきたわ。そんな名前の魔物がいるのか。見覚えないし師匠の遺産かな。死んでないけど。すげーもこもこで布団にしたら気持ちよさそうだったから出してみたけど……。
「これは、どこで手に入れたんだ!?」
カウンター越しに身を乗り出して手を差し出してくるが、残念ながら届かずに空振りする。
「おじいちゃん! ちょっと落ち着いて!」
言葉と共に男の子をおじいちゃんの前に差し出すと、男の子はおじいちゃんの顔を抱きしめるように張り付いた。
「むぉっ!」
「おーおじいちゃん、おちついてー」
若干舌足らずな言葉で、おじいちゃんの後頭部をぺちぺちと叩いている。なんかすげぇほっこりするなぁ。
「あ、あぁ、すまんかった、クレイ。落ち着いたよ……。客人も失礼をした」
居住まいを正すと、改めてカウンター越しにベルドラン工房の皆さんと向き合った。
「わしが工房主のベルドランだ。こっちが孫のサリアナ。で、ひ孫のクレイだ」
ベルドランさんの紹介で、改めてサリアナさんが頭を下げ、クレイくんがにへっと笑う。どう見てもひ孫がいるように見えないんだけど、異世界すげぇな。
「かわいいねぇ」
「えへへ」
合わせてこちらも自己紹介したが、莉緒が完全にクレイくんにやられている。頭をよしよしと撫でて一人で和んでいた。
「それで、お前さんはコイツでいろいろ作って欲しいと言ったか」
「はいそうです」
改めて素材を検分するベルドランさん。
「うーむ……」
すげぇ唸ってるけどなんだろうな……。ずっと異空間ボックスに入れてたから腐ってたり……、いやいや、一応素材系は時間停止の異空間ボックスに入れてたから問題ないはず。
「ただのガキじゃねえようだな……。いいだろう、ここまで素材を出されちゃ仕方がねぇ」
「もう、素直じゃないんだから。ありがとね、こんなに素材を用意してくれて」
サリアナさんが呆れながらも感謝を伝えてくれる。
「おー、ぷにぷにー」
クレイくんはキラキラした目をしながらゲルスライムをツンツンしていた。手のひらを押し付けると手形がついて、ゆっくりと元に戻る。
この低反発具合はぜひマットレスにしたいよね。
「あはは、面白いよねー」
莉緒もこんなに子ども好きとは思わなかったな。しかし子どもと戯れる莉緒もすごくかわいい。
「木材は天狼の森の樹でいいのか? これだけ素材があるなら他の樹を使ってもいいが……」
「いえ、木材はここのでお願いします。エルダートレントとかありますけど、木の香りは天狼の森の木材が一番だったので」
「エ、エルダートレントか……。とんでもねぇガキだな」
「特に急いではないので、最高の物を作ってもらえたらと思います」
「当たり前じゃねぇか。誰に言ってると思ってる。これだけの素材を使って最高品ができなかったら、そんなやつは廃業しちまえ」
乾いた笑いを浮かべるベルドランさんに告げると、鋭い視線と共に厳しい言葉が返ってきた。そこまで言われるとこっちも任せてみようと思えるな。
「革や毛皮を扱った製品はあたしが受け持つよ」
「そうなんですね。よろしくお願いします」
詳細をベルドラン工房の面々と詰めていく。どうせならとことんこだわって作ろうということでまとまった。いろいろ要望を詰め込んだり、枕などの小物なども追加で注文してしまったが、二週間もあれば全部できあがるとのこと。
こうして俺たちは意気揚々とベルドラン工房を後にした。
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