モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

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番外編

44 多田と樫木のバレンタイン(2023)改

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「歩」
「……なに?」
 俺は今、あんたに作ってもらった昼飯を食ってるんですが。なぜだか知らないがその腕前は寮の食堂のおばちゃん並みで、どっちが美味いかと訊かれればとても迷うレベル。
 何とかというパスタを使った何とかという料理をご馳走になってる、俺だけ。腹が減ったから先に食ってしまったと言われ、飯ぐらい待ってろよと思うのは俺の勝手ですかね。ゆっくり味わいたいから話しかけるなと思うのも俺の勝手ですかね?
「来週、いや今週か。あれだな」
 あれ……ってなんだ?
 俺の前に座ってりんごジュースを飲みながらにこにことそんなことを言った。
「バレンタインデー」
 は……?
「俺はお前の手作りがいいな」
 あ? 正気か? 何言ってんだ。
「作れないけど」
 寮生活だ。作れる場所もなければ、そもそも料理なんてできない。知ってるはずだ。料理の「り」の字も言ったことないだろ、俺。
 良い歳した大人がバレンタインデーって。しかも催促。
「まあまあ、そう言わず。楽しみにしてるからな」

 食うもの食ってやることやって部屋に帰ってきて。
 一応! 一応だ。作り方をスマホで調べると、電子レンジで作れるとあった。最低ラインはこんなに簡単なのか。小学生でも作れるな、こりゃ。
 寮内では当然生徒は火気厳禁、各フロアには水場はあるがコンロはない。あるのは電子レンジと湯沸かしポット。
 まあ。やれないことはないようだ。この調べた超簡単レシピなら三十分あればできるだろう。道具も特に変わったものはないから水場周りにある共用のボールやスプーンでやれる。後は入れる紙カップ?と持っていくための保存容器を自分で用意すればいいというところか。
 他の奴らに作業を見られるのは恥ずかしいが、寮はすべてが共用だから仕方ない。なるべく廊下に人がいない時を狙ってやろう。

 と思い、みんなが晩飯を食いに食堂へ行ってる時間を狙ってそろそろと材料一式を手に廊下のシンクへ向かう。
「多田ちゃん」
 俺はぎょっとなって振り向けずに固まった。そんな呼び方をするのは一人しかいない。三年生の岸さんだ。でも、三年は卒業式まで自由登校な上にここは一年と二年が住む一番館で。岸さんの行動範囲じゃない。なんでここに、俺の目の前にいるんだ。
「おや、もしかしてそれは。ふうん」
 この人、タレ目が余計ニヤニヤ顔を加速させてて掴みどころがない。
「なんですか」
「多田ちゃんてマメな子だったのね」
「違いますよ、作れっていうから」
 バレンタインデーなんて気にも留めてなかったのに。
「手伝おうか?」
 早く終わらせるためにも是非と思ったが工程が三つぐらいしかなくて頼めることがない。
「いや、超簡単なやつなんで」
「ふむ。でも袋開けたりカップ並べたり時短になるよ?」
 確かに。
 俺はスマホを開いてその超簡単レシピを見せた。
「おけ。精一杯務めます」
 二人でやるとスムーズにことが運び、本当にあっという間に出来上がった。手つきを見るに岸さんは料理ができる人なのかもしれない。
「もうちょっと材料多くしようとか思わなかったの?」
 出来上がったものを見て岸さんが言う。
 コーンフレークを使った、中くらいの大きさのギザギザカップに入ったクランチチョコが三つ。
「まあ、こんなものでいいかと思ったんで……」
「これじゃ頂戴って言えないじゃん」
 いや、それは予定通りで。岸さんとここにはいない岡本さんにはそれなりに世話になってるからどうせ作るなら二人にもと思っていたのだ。手元には一つ残ればいい。
「岸さんは何でここにいるんですか?」
 色気のない、百均のタッパー容器に二つ入れて岸さんにチョコをあげた。岡本さんの分も一緒に。
「ん? 岡本と約束があってさ。時間があったからうろうろしてたわけ」
 何も寮じゃなくてもっとオシャレなところで待ち合わせなりすればいいのに。まあ。周りを気にせずアレコレをと思えばここが一番いいのか。

 そして翌日の当日。
「……色気ねえな」
 岸さんにあげたのと同じタッパー容器に入れたまま手渡すと第一声がそれだった。
 文句を言うなら返してもらうぞ。調べた時間やらなんやらも入れれば五分そこらでできるものじゃない。俺からすればそれなりに手間がかかってる。手伝ってもらったが。
「なんて。料理をしたことがないお前に俺がリクエストしたんだもんな」
 そう言って、蓋を開けるとカップからチョコを外して半分食べた。
「ん、うまい」
 そりゃそうだ。市販のチョコを溶かしただけだもんな。誰がやったってうまい。
「コーンフレークの量も砕け方も絶妙だな」
 砕いたのもチョコと混ぜたのも俺だが、そんなの褒めるほどのことじゃない。このレシピは小学生レベルだ。
「上手くできたと思ったろ」
「いや、食ってないし」
 自分の分なんて頭になかった。三人分、三個作ればいいと思ってて。
「おい、味見しないやつがあるか」
 人目を忍んでのことだったから余計な量は作れない。
「じゃこれ、お前の分な」
 残り半分を手に取り俺の顔の前に突き出す。
 ……口を開けろってことか。誰が見てるわけでもなし、まあいいかとそろそろと口を開いたら、そのチョコは俺の口に入らず目の前の男の口に入った。
 ……。
 何の冗談だ、これ。バカらしい。帰ろう。
 と、踵を返した時。
 腕を掴まれ、小さくよろけたところに腰と頭を向こうへ引き寄せられ。
 !
 キスされた瞬間にチョコを舌で押し込まれた。
 そのまま舌は居座り俺の舌とチョコを転がして溶かして。最後にもう一度唇に触れるだけのキスをして解放された。
「ありがとな、歩。美味かった」
 俺は口の中に残った小さなコーンフレークをカリカリと噛みながら。
 この部屋、社会科準備室に鍵をかけた覚えがないことに気付いた。
 ……誰もドアを開けなかったと信じよう。




*****
2023年2月に旧ツイッターに投稿したものです
本編にそって一部分改変しております
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