モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

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番外編

45 一月二日 多田と樫木 1

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 少し遠くの神社にドライブがてら初詣行くか―

 そんなことを話したのは年末の二十八日。樫木が仕事納めの日で。俺たち生徒は二十五日が終業式で、俺は寮に居残る理由もないのでその日のうちに帰省した。帰る家が無い奴、実家に帰りたくない奴、事情はそれぞれで冬休みの間はずっと寮にいる奴もいるにはいる。全寮制ゆえか寮を閉鎖しないのがウチの学校の良いところだ。
 教職員は当然世のサラリーマンと一緒で二十八日まで仕事。だからそれまではメッセージアプリでやり取りをして、二十八日に電話で話をして。
 一応遠慮した末の電話だけに割と俺は久しぶりに聞く声にうきうきしていたが、聞けば仕事を持ち帰ってるという。年末の年末まで仕事して何やってんだと思ったが我らの担任は割と丁寧な仕事をする。来年は三年生になる俺たちをなんとかしてやろうと思ってるのか別の雑用かはわからないが。
 下手にだらだらと電話して仕事を長引かせるのは上手いやり方ではない。俺はさらに遠慮を延長することにして、連絡を控えた。
 たった一つだけ約束をして。
 それが年明け二日に初詣に行こうというものだった。
 同じ学校の教師(しかも担任)と生徒という立場は非常に厳しいものがあるとわかって付き合っている。バレて困るのは教師である樫木だ。俺はなんとでもなるが、樫木は職を失う可能性などリスクが高い。それでも一緒にいたいと思ったから。樫木と深い繋がりのある三年生二人には知られているがそれ以外は当然秘密だ。俺が卒業するまでは隠し通さねばならない。……そこまで続いているのかはまた別の話だが。
 なぜ一月二日なのかというと俺の事情があって。大晦日元日は一族の集まりがあり体が空かないのだ。じいさんを中心とした多田一族の宴会への出席は必須で酒が飲めない未成年の孫であっても行かないという選択肢はない。そのどんちゃん騒ぎが嫌味なく楽しいだけのものならいいが、自慢話のオンパレード、お年玉に札束をちらつかせて自分の豪傑ぶりをアピール、同じ道を強要するじいさんや親戚たち。医者がそんなに偉いのかと辟易する。直系長男の三男坊である俺の父親は兄たちに続いて医者になろうとしたがなれなかった人で、自分の親を褒めるのも妙な話だがあの中では非常にまともで常識人だ。のんびりした性格ゆえか一族への愚痴も言わないし俺に医者になれとも言わない。少しはなって欲しそうな感じではあるが。母親も父親がゲットした人間ゆえかよくできた人だ。俺はこの家庭に生まれてよかったと思う。まあ俺の身の上話はいいとして。
 年が明けた一月一日、俺は家にはいないもののメッセージアプリで連絡はとれる。出かける前日だ、出発時間を確認したい。なのに樫木からは待てど暮らせど連絡がない。
 前日からの宴会は日付が変わるまで続くが、今日にもなれば途中で抜けても飲んだくれたじいさんたちは気付かないから俺たち孫世代連中はこっそり一人抜け二人抜けと姿を消す。当たり前だ。冬休み、友達と遊びたいしそろそろ一人でのんびりしたい。
 俺も当然抜け組で午後七時を回ったら家へ帰ろうと思っていた。その前に暇を持て余してることもあって樫木にメッセージを送ってみたが返事がない。既読がつかない。
 まあ夕方だ、買い物なり外出してるのかもしれない。
 と思いつつ家へ戻り、宴会場から出る際に名前も知らない親戚のおばさんに持たされたオードブルの残りをつついて午後九時。やっぱり既読がつかず。いくらなんでも気付いてるだろう頃で。誰かと新年会でもやって飲んだくれてるのかもしれないとも思い。遠出はやめたのか。それでも構わないがそれならそうと言うべきだろう。俺、待ってんだけど。
 結局いい加減我慢できなくて電話をしてみた。
 そしたら、いくら鳴らしても出やしねえ。
 電源を落としてるわけではない。ちゃんと掛かる。でも出ない。
 明日の今日だぞ。ドタキャンか? それとも。
 ……。
 連絡を待って疑うのはもう嫌だ。嫌なのに。信じてる。求めてくれた樫木を信じてる、が信じきれない俺が悪いのか。
 着信履歴は残るから、もし気付けば掛け直してくるだろう。
 そう思って気付けば朝だった。スマホを握りしめてベッドで寝落ちてた俺は。
「なんなんだよ」
 母親には高校の友達と初詣に行って遊んでくると言ってある。もしかしたら泊まってくるかもしれないとも。
 初っ端こんな風に使うとは。
 もう待ったりしない。自分でちゃんと動く。知りたいと思うことは自分で探し当てる。
 午前九時、俺は家を出て樫木の部屋に向かった。
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