モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

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番外編

47 一月二日 多田と樫木 3(終)

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 キッチンへ行き冷蔵庫を開けると、言ってた通りかまぼこやら豆やら数の子やらがパックに入ったままある。とりあえず今は飲み物と何か喉越しのいいものをと探すと、ミネラルウォーターとりんごジュースと三個パックのプッチンプリンを見つけた。何でも食べられそうな感じだが起き抜けだし急にあれこれ胃に入れるのはやめた方がいいかもしれない。せめて一食は柔らかいものがいい。……とはいえ、俺なんにも作れないんだよな。同じメニューに付き合うことぐらいしかできない。
 水の入ったグラスとプリンとスプーンを持って行くと樫木はにっこり笑った。
「勝手に冷蔵庫開けた」
「おう、ありがとな。プリン、お前の分も数に入ってるからな」
 食欲はあるようでプリンをするすると食べ、やや多めに注いだ水も飲み干した。
 それでも申し訳なさそうにもう少し横なりたいと言い、あっという間に穏やかな寝息を立て始めた。顔の赤みは大分引いている気がする。やっぱり出かけなくてよかった。
 寝室に椅子はない。ベッドの縁に座っていた俺は樫木が眠るベッドに身を滑り込ませた。ベッドも新調したらしく前のより大きなサイズになっていた。
 こうやって傍で寝顔を見てるのも悪くない気はするが、樫木の体温がやっぱり恋しくもあり。一週間、声は聴けども顔を見れなかった。初詣のあときっとこの部屋へ来ただろう。そして互いの熱を貪ったに違いない。
 でも今日はさすがに天井知らずのセックスなんかできるはずもなく。でも少しだけ、樫木を感じたくて。
 なんて殊勝なことを考えていたものの。
 ……。
 性欲に従順な身体は勝手に主張を始めて。
 やばい。病人じゃないとはいえ体を休める必要のある人間に欲情するなよ。今それが必要なわけじゃない。もっと深い、理性的な情を持ってだな。
 ……ああ、もうっ。
 トイレで抜いてこよう。初めて訪れた部屋のトイレで初めて使う用がそれって恥ずかしすぎるが。
「どこいくんだ?」
 え。起きたのか。あまりごぞごそしないようにしてたのに。
「トイレに」
「手伝うからここにいろ」
 へ?
「動ける気はしないが、大分元気になったしお前が上に乗ればいい」
 は?
 しっかりバレてるということよりも。
「何言ってんだ、あんたはまずちゃんと休養取らな、っ、ちょ!」
 ベッドから抜け出ようとした俺は一瞬にして樫木の腕の下にいた。ベッドに引き戻され、逃げられないようにか体の両端に手をつかれて見下ろされている。
「おっさんの性欲舐めんなよ?」
 いや別に舐めてねえし。動けないって今言ったろ。それにまだおっさんって歳でもない。ゆえに言ったそばから体力回復したってか!
「お前のを飲んだら速攻効くだろうな」
「ばかっ! んなことしたら腹壊すだろが!!」
 樫木の目がいつの間にかギラギラしていて。おい、嘘だろ。
「大丈夫な気もするが、じゃあまず一緒にシコるか。お前すぐ達きそうだしな」
 な、ちょ、ま……。
 俺の高尚な我慢など木っ端微塵で。
「んん……っ」
 簡単にジーンズを脱がされスウェットからぺろんと出てきた樫木の竿と一緒くたにされた俺のソレはあっという間に樫木の手の中に精液を放った。
 ……。
「よしよし、次は俺な」
 確かに、樫木は勃起しただけで射精はしてなかった。でも勃起した以上、このまま終われるわけはなく。
 俺はいいんだ、どっちでも。樫木の体調が心配なのだ。四日から仕事始めなわけだし。明日までに体調を整えて気持ち良く出勤を……って、そうか、気持ち良く……出すもん出してすっきりってことだよな。逆に今出しとけば明日はのんびりできるっていうことか? まあ、それもアリ、だよな。
「歩」
 竿を綺麗に拭いてくれた後、樫木は腕を引っ張って座らせると気恥ずかしさでいっぱいになってる俺の顔をド真面目に見て。
「……はい」
「あけましておめでとう」
 とのたまった。
「おめでとうございます……」
 下がすっぽんぽんでは格好がつかない。
「年が明けて最初に言葉を交わしたのがお前というのは嬉しいもんだな」
「……かなり心配しましたけど」
 あんたは眠りこけてただけだから呑気ですが。
 本当は、かなりイラついて諦めかけて心配した、が正しいのだけど俺が勝手に思ったことだし。大事に至らなかったから。
「初詣は行けなかったが、ゆっくり姫始めができるな」
 ひめはじめ……?
 初めて聞く言葉にどんな字なんだと考えていると頭を引き寄せられ、がぶりと唇を噛むようにキスされた。
「年が新しくなって初めてセックスする日だ、今日は」
 なるほど……そういう意味ですか。
「正直に言うとやりたいけど、先生の体調が一番だと思うから」
「俺もお前を抱きたい。だからゆっくりやる、いいか?」
 嫌なわけない。姫始めだからとかじゃなくて、会いたかった。抱きしめてほしかった。
 頷く代わりに唇を樫木のそれに寄せるといつもの嵐のようなキスではなく、柔らかい唇でゆっくりと応えてくれた。そのまま二度三度と繰り返し、俺は再びベッドに横たわって。久しぶりの樫木の指と唇の愛撫にすぐに身体は震え、熱を帯びた。
「ん……っ……ぁ……あ……」
 内腿を撫で上げられながら胸の先を舌で転がされて嬌声が零れて。目を閉じて走る快感を甘受し、時間の概念が飛ぶ。
 だけど。
 ゆっくりやると言ったその言葉通りに優しく身体を辿る指先はじれったくて。もっと深く強く探ってほしいのに。甘いだけじゃ物足りなくなってる身体にしたのは誰かと言えばあんただろう。
 ……いや、何言ってんだ。樫木にそんな元気はない。それを承知で今ベッドの上にいるんだろう? 勝手を言うな。
 でも。だったら、今すぐ欲しい。
「せ……樫木、さん、挿れて。俺が、乗ってもいいから」
 欲しいと思ってしまうとそれで頭が一杯になる。恥ずかしげもなくストレートに強請れるほどに。ずっと抑えていたものが今日解放されるはずで、そのつもりで今日になって。我慢の限界だった。
「大丈夫だ、お前から元気をもらった。お前が満足するまで腰を振ってやる」
 嬉しそうに目尻を下げて樫木は笑った。


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