モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

文字の大きさ
49 / 49
番外編

49 12月24日 2(終)

しおりを挟む
 そして、身体の奥が落ち着かないような感覚に目が覚めた。
 ……?
 下半身に明らかに自分ではない何かがあって。
 ……え?
「ん? 目が覚めた?」
 その声は。
 いや、それよりも。
 身体の奥を搔き回され、逃れたくて身を捩る。
「あ……っ……んぅ……っ」
 何も身に着けていない下半身をやんわりと押さえつけられ遠慮のないそれ、指が後ろの窄みを犯していく。
「や……っ、あっ……や、め……き、岸さ……っ……ぅ」
 仰向けの背中に快感が走り、言葉が跳ねる。
「大丈夫、力抜いて」
「違、っ……ぅ……あ……ぁあ」
 そうじゃない。なんで、なんで岸さんが俺のとこに……。
「気持ちいいね、多田ちゃん。俺に声きかせて?」
 なんで岸さんが勝手にここに。わけがわからない。でも岸さんが俺に指を突っ込んでるのは確かで。
 嫌だ、こんなの。だけど。
「い……やっ……んぅ……ん……んふ……ぅっ」
「うん、いいよ、解れてきた。そろそろ挿れようかねぇ」
 仕上げのようにそろりと中を指の腹で撫でられる。
「あ……ぁ……ああぁ……っ」
 この人のセックスの上手さは身をもって知ってる。頭より身体が良く知ってるのだ。だからその快感に簡単に抗えそうにない、けど俺は。
 溶けかかっている下半身はどうにもならなくてもせめて腕は。腕なら動く。俺、本当にどうにもならなくなる前に岸さんから離れろ。
 バンザイの形で投げ出されていた腕に力を入れて岸さんを押し返そうとする。
 も。
 え……?
 動かない。
 ってか、腕を押さえつけられ、て……?
「歩、おとなしく気持ち良くなれ」
 え?
「そしてお前の口は俺を気持ち良くするんだぞ」
 ……え?
 俺の両腕を押さえつけていたのは、樫木。なん……で……。
 樫木は俺の手を取って甲に小さなキスを落とす。
 頭をずらしてようやく視界に入る樫木は微笑んでいた。
 なんだ、これ……二人で、二人から俺はやられるのか……? どういう……こと、だよ……。
 思考が止まり、頭が真っ白になって。
 そうこうするうちに身体をひっくり返され、優しく扱われながらも強制的に四つん這いになる。
「歩、俺の咥えて」
「多田ちゃんは俺が気持ち良くしてあげるからね」
 あんた、俺のフェラ嫌なんじゃなかったのかよ。俺が他の男にやられてもいいのかよ。
 突然の展開に頭がついていかない。本当に? 岸さんに売られた気分、がしないわけでもない。
 それでも目の前に樫木のかたい肉棒を見せられ、岸さんに膝を割られれば。
 樫木がいいなら、いいのだろう。これから俺は絶対的に身体が気持ち良くなるのはわかってるけど、心は良く、ない。
 樫木を咥えるべく口を開けると後ろに岸さんの先っぽが当たり、尻ポケットのスマホが震えた。
「っ!?」
 俺は文字通りベッドから飛び起きて、左手で着信を取った。
「メリークリスマス」
「メ、メリークリスマス……」
 少しも酔っていないいつもの声にオウム返しのようにただ返事して。
 び、びっくりした。完全に寝入ってしまっていた。口の端に少々よだれの跡を残すほどに。その上なんて夢見てんだよ……。
 夢……でよかった。あんなの無理に決まってる。とはいえ見たのは俺自身で。あまりにも卑猥過ぎだろ。……岸さんのせいだ。あんなこと言うから。でも俺も心の奥底ではまんざらでもなかったってことか? 俺……節操なしかよ。
「歩? 遅い時間に悪かったな、もう寝てたか?」
「いや、あ、うたた寝、してた……」
 右手にはしっかり鍵を握りしめていた。もらったプレゼントが嬉し過ぎて一緒に布団で寝てしまう子供のようで恥ずかしい限りだが。
「同僚と飲み会があってこんな時間になってしまった」
 机の上の目覚まし時計は日付が変わった直後の時間を表示していた。
「え、あ、それは仕方ないし」
 樫木が謝ることじゃない。知らなかったことに怒りはしたが今こうやって話せているし、俺はとんでもない夢見てたし。3Pの夢見てましたなんて言えるか。
「あ、あの」
 それはもう脇に置いておいて。俺が今一番言わなきゃきゃいけないことは。
「ん?」
「か、鍵……」
「おっ、気付いてくれたか。何の芸もない渡し方ですまなかった。ようやく決まってな。合鍵、お前に早く渡したかったんだよ」
 弾むような声にとくんと心臓が音を立てた。樫木の心底嬉しそうな顔が浮かぶ。
「全然知らなくて夕飯の後に気付いて。落とさなくてよかった」
「そうか、メールしときゃよかったな。SHRのあとすぐ部屋に戻ると思ってな。桜野たちと仕事してたのか」
「そう。……先生、ありがとう」
 シチュエーションはおまけだろう。樫木のものを一つもらえた。それがあればいい。 
「おう、周りを気にせずお前とゆっくりしたいな。ベッドの上でな」
「うん、俺も。……クリスマスプレゼント、大切にする。嬉しかった」
 そしておやすみなさいと通話は終わり。
 …………。
 ふと。 
 賢者タイムというか、我に返ったというかなんというか。ぼわっと顔に熱が走る。
 あんな夢を見てなんだか申し訳ないというのもあるにはあって。サービスというか償いというか、そういうわけではなくて嘘でもなくて、素直に伝えようとは思っていたけれど。電話くれたし、メリークリスマスとか言うし、ちゃんと俺のこと、想ってくれてるんだなって思ったけれど。
 けれど。
「ああああ……」
 再びベッドに突っ伏す。
 恥ずいだろ。恥ずい。どこから出てきたんだってくらい甘ったれた声で恥ずかしいことを言ってしまった。何がクリスマスプレゼント、だ。何がうん俺も、だよ……。樫木の軽口はいつものことなのに。雰囲気に酔いやがって。ああああああ。
 しかもしばらく会わないわけではなく、明日も顔を合わせるんだった。明日まで学校だ。厳密にはもう今日。
「教室でどんな顔をしたらいいんだよ!」
 もごもごと叫んでみても、手のひらの鍵はもちろん教えてはくれない。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

キスの仕方がわかりません

慶野るちる
BL
全寮制男子校に入学した市原はクラス委員長になったため書類を提出しに生徒会室に行くと、そこに一人いた、初対面の副会長の近藤に襲われてしまう。  混乱するも相部屋の同級生・松川に助けられて元気を取り戻したある日、生徒会長の桜野から仕事を手伝って欲しいと依頼される。  最初は近藤に無視されていたが手伝う中で近藤から告白され、近藤への印象が少しずつ変わっていく市原だが。 表紙:Photo by Markus Spiske on Unsplash / powered by かんたん表紙メーカー様

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

有能副会長はポンコツを隠したい。

さんから
BL
2.6タイトル変更しました。 この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。 こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。 ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...