悪役令嬢と薄幸の元伯爵令嬢のかけて欲しい言葉と聞きたくない言葉

なめ沢蟹

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悪役令嬢と薄幸の美少女

1話 道を掃除する元伯爵令嬢

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 今朝も私は貴族の館に向かう。
 そこは元々はとある伯爵が近くの森で狩猟するときに使う別荘で、つい最近までは伯爵一家が頻繁に遊びに来ていた。
「おはよう、チャーリー」
「おう」
 同じ使用人の寮に住む同僚に追いついた。
 チャーリー……ゴツい背中、毛むくじゃらの腕、相変わらずの野暮ったい奴。
 こいつのかけて欲しい言葉は【物事の本当の部分がわかる】で禁句はまんま【野暮ったい】だ。
 それに類似する言葉も注意。
 チャーリーが隣に並んだ私に話し掛けてくる。
「イーモン。そういえばお前に聞いておきたかったんだがな」
「なんだ?」
「お前はケイト様にどんな対応するつもりだ?」 
「うーん」
 薄幸の元伯爵令嬢のケイト・カミラ・クルック嬢、十六才。
 数週間前までは私たちの雇い主だったクルック伯爵。
 その一人娘。
 ケイト様は使用人にもフレンドリーに接する方で、特に女性の使用人と仲が良かった。
 容姿は小柄で華奢でどこから幼さを残すものの、整った美しい顔立ち。
 しかしその恵まれた容姿を持つにもかかわらず……プラチナブロンドの髪は肩までの長さに短く切り、狩人のような恰好で森を駆け回っていた残念な子。
「どうしようかな。ケイト様、今は平民なんだっけ?」
「ああ、クルック伯爵様が横領で捕まったからな」
「濡れ衣だってもっぱらの噂だけど?」
「真相はどうあれ、伯爵様は投獄で家族は貴族の称号を剥奪されたのは事実だろ?」
「それはそうだな」
 これは判断に困る。
 普通なら手の平返しなどしないのだが……。 
 新しくこの館の主になった男爵の娘がケイト様にどんな感情を持ってるかわからないのだ。
 雇い主の前で、執事が平民の娘に敬意を払う。 
 許されるだろうか?

†††††

 冬は明けたばかりだしまだ肌寒い。
 厚めのコートを着てきて良かった。
「……」
 使用人の寮から館までの並木道、木々は青々とした葉に包まれ春が来たことを実感する。
 しかしなんだか違和感がある。
「なあ、チャーリ-。この道こんなに綺麗だったっけ?」
「俺も思った」
 そうなのだ。
 馬の糞はおろか、小枝一つ落ちていない。
 貴族の館ともなると馬車の往来は頻繁になる。
 早朝の道は馬糞だらけというのがお約束の光景なのだが……。
「おはよう! イーモンにチャーリー。いい朝だね」
「……」
 唖然とした。
 目の前には、男物の革のズボンに、上半身は薄着のショートカットの美少女が道を掃除していた。
 今話題に出ていたケイト様だ。
「な、何をなされているのですか?」
 つい尋ねてしまう。
 彼女は今は人生転落した直後のはずだが……この溢れんばかりの生命力はなんなのか。
 そもそも寒くないのか。
「何って道の掃除だよ!」
 ケイト様は申し訳ない程度に膨らんだ胸を張り、誇らしげに答える。
 手には馬の糞を片付ける専用の道具が握られている。
「私も今日から館の使用人になったんだからね、頑張らなくちゃ」
 そういって汗を拭う。
 その仕草が、きめ細かかな白い肌が一際目立たせる。
「は、はあ」
 生返事をしながら、見とれてしまっていた。
 美しい。 
 生命力に溢れた……まだ未発達な高貴な血筋の少女。
「ほらほら、二人とも時間だよ。急がないと」
「そ、そうでした」
 背中を押される。
「それではケイト様」
「また後で」
「うん、じゃあね」
 チャーリーも彼女に対してかしこまった態度を取っている。
 やはりそうなるか。
「あ、二人とも」
「……はい?」
 呼び止められた。
 慌てて振り返る。
「今日から私の事は呼び捨てでいいからね。敬語もいらない」
「……わかりました」
 そうして、一旦ケイト様とは別れる。
 まあすぐに合流することになるのだが。
「……」
 しかし、今までは高嶺の花と直視しないようにしてきたが、やはりケイト様は魅力的だ。
 今は彼女は平民。
 やりようによっては……。
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