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元伯爵令嬢との逃避行
5話 駆け引き
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改めて絨毯の上に横たわる少女を見下ろした。
私に自分を殺すなと持ちかける殺人犯の少女、ケイト・カミラ・クルック。
「……」
金髪の髪は乱れ、服装も乱れている。
そのうえで手は後ろ手に縛り、足も踝のところで拘束している。
その愛らしい顔は恐怖に染まり、息づかいが荒い。
もし、事情を知らぬ者がこの場を見たら……私が犯罪者だ。
「お前は王宮に出入りしていたような天才。駆け引きは避けたいところだな、出し抜かれる」
思った事を口にした。
私はそういったものがあまり得意ではない。
だからこそ、普段のコミュニケーションは……相手のかけて欲しい言葉を重ね、相手の禁句を避ける二点にのみ重点を置いている。
「はあ?」
キョトンとした顔をされた。
これは、私がケイトに駆け引きではかなわないと言った事に対してか?
「なんだ?」
「別に私は万能なタイプじゃないよ。王宮に出入りしてたのも、子供にしては古代の文字の解読能力に優れてただけ」
「……?」
「駆け引きなんてもので、大人のあなたにかなうわけがない」
「その言葉そのものが駆け引きだとしたら?」
「あー、面倒くさいな! 私はそもそもあなたが何を持ってして、駆け引きとか言い出したのかもわかってないわ」
少し声を荒げられた。
そういう所はあの森の館のお転婆娘そのもののリアクションだ。
……どうする?
このまま会話を続けるべきか。
「私にとって最悪の事態とは、お前が仲が悪かったベアトリクス様に危害を加えること」
とりあえず私のほうから言葉を発した。
「だから! ベアトリクスになんか何もしないわ」
「信じられるか。お前は自分で自分の事を殺人衝動がある人間と自己紹介したんだぞ」
「……あ、そうなるか」
「チャーリー」
「は?」
「私にとってはチャーリーが生きているかどうかが今後の行動を決める指針になる」
「……?」
また不可思議な顔を返された。
†††††
周囲に気を配る。
「……」
ここは暗い地下だ。
光源はケイトから奪ったランタンの光のみ。
王族の脱出経路だというこの空間、一本道のトンネルのような地形だ。
身を潜められる場所はない。
しかし、ランタンの灯りの先はまったくわからないのも事実。
今も……怪人の正体だったチャーリーが主を痛めつけている私を狙っているかもしれない。
「チャーリーは死んだって言ったでしょ?」
少しトゲのある声でそう告げられた。
「その言葉を信じて、私がお前を放置して地上に出たとする」
「……」
「そうしたら、本当は生きていたチャーリーがここに駆けつけ、お前の拘束を解くかもしれない」
「……考えすぎ」
「そうしたら、先ほど私が言った最悪の事態に繋がるかもしれない」
「私が本当は生きていたチャーリーにベアトリクスを狩れって命令するとでも?」
「そのとおりだ。そうならないためには……やはりここでお前を殺すしかない」
「……!」
ケイトの顔がひきつる。
私はどんな顔をしていたのだろうか?
「待って待って、チャーリーは本当に死んだんだって。私にはもう協力者はいない」
身動きが制限されるなか、首をブンブン振りながら否定してきた。
「死体は? どこにある?」
根本的な事を聞いた。
「地下を流れる川に流した。遺体は怖かったし」
「死体が怖い……?」
胡散臭い話だ。
殺人鬼は死体を怖れるものだろうか?
やはり信用できない。
「血痕は? チャーリーが死ぬような傷を負っていたなら、この地下に血の跡くらい落ちてるだろう?」
「黒いローブが全部傷口の血を吸ってたんだよ。あ、チャーリーが怪人の格好をしていたのは見たんでしょ?」
「……ああ」
一応つじつまは合っているか?
貴族街を警備する騎士の装備は細剣と短銃。
仮にチャーリーが細剣で致命傷を負ったなら……その刺し傷は思ったより出血が酷くなかったかもしれない。
†††††
再びケイトを見下ろす。
「結局、チャーリーの死亡を示す証拠はないわけだ」
「……」
「そしてお前が今後ベアトリクス様に危害を加えない確証も何も無い」
「……」
そこまで言ったところで、ケイトはため息をついた。
「わかったわ。あなたに殺されるしかないみたいね」
「……!」
「でも最後に一つだけチャンスをもらえないかしら?」
観念したように、ケイトは語る。
「これから多分……上の劇場の舞台に人が来る」
「こんな夜に?」
「夜だからこそよ」
「……?」
「その人たちが新しい情報を話すかもしれない。その内容次第では、あなたが私をこのまま縛ったまま担いで……地上に出るって選択肢も生まれんじゃない?」
回りくどい。
どういう事だ?
「何を言ってる?」
「少なくとも、怪人が騎士に刺された情報があれば、重傷なのは間違いないとわかれば……あなたは大胆に動けるでしょ?」
「……」
「そうすれば、あなたは無傷の殺人犯を騎士団に突き出してお咎めなし。それどころか、また英雄扱いね。殺人を犯さなくても済む」
「……」
「ここに私を置き去りにしないなら、後で拘束を解かれる心配もないし。まあ、全部あなたの考えすぎなんだけど」
「……いいだろう、その案に乗った。私だって、できれば手を汚したくない」
ケイトから奪ったランタンとナイフを上に向かって掲げた。
「チャーリー! 聞こえるか!」
生きているか死んでいるかも不明な者に宣言した。
「妙な真似をしたら、ケイトの首をかっ切る」
「……はぁ」
「常に周囲を警戒しているからな! 走って距離を詰めてナイフを奪おうとしても無駄だぞ!」
途中、ケイトのため息が聞こえた。
しかしバカバカしく見えても必要な事だ。
今でも怪人が……ランタンの光の届かない所に潜んで、こちらに飛びかかろうとしている可能性はゼロではないのだから。
私に自分を殺すなと持ちかける殺人犯の少女、ケイト・カミラ・クルック。
「……」
金髪の髪は乱れ、服装も乱れている。
そのうえで手は後ろ手に縛り、足も踝のところで拘束している。
その愛らしい顔は恐怖に染まり、息づかいが荒い。
もし、事情を知らぬ者がこの場を見たら……私が犯罪者だ。
「お前は王宮に出入りしていたような天才。駆け引きは避けたいところだな、出し抜かれる」
思った事を口にした。
私はそういったものがあまり得意ではない。
だからこそ、普段のコミュニケーションは……相手のかけて欲しい言葉を重ね、相手の禁句を避ける二点にのみ重点を置いている。
「はあ?」
キョトンとした顔をされた。
これは、私がケイトに駆け引きではかなわないと言った事に対してか?
「なんだ?」
「別に私は万能なタイプじゃないよ。王宮に出入りしてたのも、子供にしては古代の文字の解読能力に優れてただけ」
「……?」
「駆け引きなんてもので、大人のあなたにかなうわけがない」
「その言葉そのものが駆け引きだとしたら?」
「あー、面倒くさいな! 私はそもそもあなたが何を持ってして、駆け引きとか言い出したのかもわかってないわ」
少し声を荒げられた。
そういう所はあの森の館のお転婆娘そのもののリアクションだ。
……どうする?
このまま会話を続けるべきか。
「私にとって最悪の事態とは、お前が仲が悪かったベアトリクス様に危害を加えること」
とりあえず私のほうから言葉を発した。
「だから! ベアトリクスになんか何もしないわ」
「信じられるか。お前は自分で自分の事を殺人衝動がある人間と自己紹介したんだぞ」
「……あ、そうなるか」
「チャーリー」
「は?」
「私にとってはチャーリーが生きているかどうかが今後の行動を決める指針になる」
「……?」
また不可思議な顔を返された。
†††††
周囲に気を配る。
「……」
ここは暗い地下だ。
光源はケイトから奪ったランタンの光のみ。
王族の脱出経路だというこの空間、一本道のトンネルのような地形だ。
身を潜められる場所はない。
しかし、ランタンの灯りの先はまったくわからないのも事実。
今も……怪人の正体だったチャーリーが主を痛めつけている私を狙っているかもしれない。
「チャーリーは死んだって言ったでしょ?」
少しトゲのある声でそう告げられた。
「その言葉を信じて、私がお前を放置して地上に出たとする」
「……」
「そうしたら、本当は生きていたチャーリーがここに駆けつけ、お前の拘束を解くかもしれない」
「……考えすぎ」
「そうしたら、先ほど私が言った最悪の事態に繋がるかもしれない」
「私が本当は生きていたチャーリーにベアトリクスを狩れって命令するとでも?」
「そのとおりだ。そうならないためには……やはりここでお前を殺すしかない」
「……!」
ケイトの顔がひきつる。
私はどんな顔をしていたのだろうか?
「待って待って、チャーリーは本当に死んだんだって。私にはもう協力者はいない」
身動きが制限されるなか、首をブンブン振りながら否定してきた。
「死体は? どこにある?」
根本的な事を聞いた。
「地下を流れる川に流した。遺体は怖かったし」
「死体が怖い……?」
胡散臭い話だ。
殺人鬼は死体を怖れるものだろうか?
やはり信用できない。
「血痕は? チャーリーが死ぬような傷を負っていたなら、この地下に血の跡くらい落ちてるだろう?」
「黒いローブが全部傷口の血を吸ってたんだよ。あ、チャーリーが怪人の格好をしていたのは見たんでしょ?」
「……ああ」
一応つじつまは合っているか?
貴族街を警備する騎士の装備は細剣と短銃。
仮にチャーリーが細剣で致命傷を負ったなら……その刺し傷は思ったより出血が酷くなかったかもしれない。
†††††
再びケイトを見下ろす。
「結局、チャーリーの死亡を示す証拠はないわけだ」
「……」
「そしてお前が今後ベアトリクス様に危害を加えない確証も何も無い」
「……」
そこまで言ったところで、ケイトはため息をついた。
「わかったわ。あなたに殺されるしかないみたいね」
「……!」
「でも最後に一つだけチャンスをもらえないかしら?」
観念したように、ケイトは語る。
「これから多分……上の劇場の舞台に人が来る」
「こんな夜に?」
「夜だからこそよ」
「……?」
「その人たちが新しい情報を話すかもしれない。その内容次第では、あなたが私をこのまま縛ったまま担いで……地上に出るって選択肢も生まれんじゃない?」
回りくどい。
どういう事だ?
「何を言ってる?」
「少なくとも、怪人が騎士に刺された情報があれば、重傷なのは間違いないとわかれば……あなたは大胆に動けるでしょ?」
「……」
「そうすれば、あなたは無傷の殺人犯を騎士団に突き出してお咎めなし。それどころか、また英雄扱いね。殺人を犯さなくても済む」
「……」
「ここに私を置き去りにしないなら、後で拘束を解かれる心配もないし。まあ、全部あなたの考えすぎなんだけど」
「……いいだろう、その案に乗った。私だって、できれば手を汚したくない」
ケイトから奪ったランタンとナイフを上に向かって掲げた。
「チャーリー! 聞こえるか!」
生きているか死んでいるかも不明な者に宣言した。
「妙な真似をしたら、ケイトの首をかっ切る」
「……はぁ」
「常に周囲を警戒しているからな! 走って距離を詰めてナイフを奪おうとしても無駄だぞ!」
途中、ケイトのため息が聞こえた。
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