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31限目 約束

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 まゆらは両手で頬を抑えながら、何度も頷いた。

「えっと、図書館で勉強していたらいきなりレイラさんとそっくりな方が現れたです。一瞬レイラさんかと思ったのですが、よく見たら男の方でした」

 少し考えた後、掛けているメガネに触れた。

「それで、眼鏡を見せてほしいと言ったのです」
「眼鏡?」

 眼鏡を両手でとるとレイラの方に見せた。

「これ、お兄さんにプレゼントされたですよね」
「え? そうなのですか?」
「違うですか?」

 まゆらの言葉にレイラは目を丸くした。その様子を見てまゆらは首を傾げた。

「その眼鏡は家にいる家政婦が持ってきたものですわ。お兄様が関わっているとは知りませんでした」

(眼鏡の件はトメに確認しねぇとわかんねぇなぁ)

「か、家政婦……。流石大道寺(だいどうじ)家ですね」

(あー、大道寺ってバレたのか。兄貴と会ったらそうだよな)

 まゆらが感心していると、レイラは目を細めまゆら眼鏡を持っている手に触れた。

「桜華に通う生徒の家では珍しいことではないと思いますわ。大手企業や政界の家もありますしね。それより続きをお願いしますわ」
「あ、はい」

 レイラはまゆらの手ごと持ち上げて、彼女に眼鏡をかけた。まゆらは戸惑いながらも続きを話はじめた。

「それで、お兄さんがレイラさんの眼鏡かどうか確認したいから貸してほしいと言われました。そこで私が戸惑っているとお兄さんがレイラさんのお兄さんであることを教えてくれたです。だから、私……、レイラさんにもらったと言ったです。そしたら……」
「もしかして、返してほしいと言って金を渡しましたの? 更に私に近づくなとでもいったのですわね」
「あ……はい。なんでわかったですか?」

(大金だとすると、確実にオヤジが関わってんな。今日の食事でこの件も指摘されんだろうな。あー行きたくねぇ。このまま、まゆタソと逃げてぇなあ)

「レイラさん……?」

 ずっと黙っているレイラを心配して、まゆらは彼女の着物の袖を引いた。

「あ、失礼しましたわ。そのお金って結構な金額でしたの?」                                                                                                                      
「多分……。正確な金額はわかりませんけど……」

 そう言ってレイラは親指と人差し指で、渡された封筒の厚さを表した。それを見てレイラは「う~ん」とうなった。

「その金額だと、父が関わっている可能性がありますわ」
「お父様ですか」

 レイラは大きくため息をついて額を抑えた。

(あのオヤジが、公立中のまゆたタソとの交流を認めるわけねぇよな)

「あの……もしかして、もう会えませんか」
「そうですわね」
「そんな……でも、メールとか」
「ここまで、バレてしまってはそれも難しいと思いますわ。それに、あのメールは解約しますわ。あまり父を刺激したくないのですわ」

(まゆタソが傷つくことがあったらヤダからなぁ兄貴に脅されたくらいで泣いちゃくような彼女には負担だよな)

「そうですか。でも……、レイラさんは桜華にいるんですよね」

 涙目になり、両手を胸の前で組むまゆらにレイラは笑いかけた。そして、レイラはまゆらの耳元に口を近づけた。

「待ってますわ」

 小さな声で言うと、レイラは腕時計を見て立ち上がり「失礼しますわ」と言って振り返りことなく図書館の方に向かった。

 図書館に入ると冷房がきいており、レイラは「ふー」と息を吐いた。そして、図書館の中を見渡してから階段の方へ向かった。
 階段を上がるとまゆらと会っていた部屋に入った。そこは人影がなく静まり返っていた。

(兄貴は流石にいねぇか)

 もう一度当たりを見回すと、レイラは本棚の奥の窓に気づいた。

(嫌な予感がする)

 レイラはゆっくり息をはき、窓の向かった。
 窓の開閉は上げ下げ式であり、半分までしか開かないようにストッパーがついていた。レイラは窓に手をかけて限界まで開けた。
 そして、腰をかがめて外を見ると息をのんだ。見えたのは、さっきまでまゆらとレイラが座っていたベンチであった。周囲からは見えにくいが、図書館の窓からは丸見えであった。


(まさか、兄貴に見られたか……?)

 レイラは頭を振ると、窓を閉めて廊下に出ると階段を降りて図書館からでた。
 日が傾いていたが、暑さは昼間と変わらない。
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