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105限目 卒業式・襲名式②

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 レイラの演説が終わると、香織と亜理紗が立ち上がった。

 憲貞が香織の方を向くと彼女は憲貞の前にいくと膝をつき、桜花扇子を彼に渡した。憲貞はそれを受け取ると頷き、レイラの前に戻った。

 憲貞が自分の前に来るとレイラは膝をついた。

「……代目 桜花会会長 天王寺憲貞の名において大道寺レイラを次期、桜花会会長とする」

 憲貞が桜花扇子を差し出すと、レイラは頭を下げて受け取った。憲貞が一歩下がると、レイラは立ち上がり、亜理紗の方を向いた。彼女はレイラの前に出てきて膝をついた。

「……代目 桜花会会長 大道寺レイラの名において徳川亜理紗を我が側近の副会長とします」

 レイラはそう言うと亜理紗に桜花扇子を渡した。彼女は頭を下げて両手で桜花扇子を受け取った。

(あ、手が震えてるな)

「私、徳川亜理紗は大道寺レイラ様に忠誠を誓います」

 その瞬間、会場は拍手で包まれた。

 圭吾は憲貞とレイラ、香織に亜理紗が席に戻ったのを確認するとマイクに口を近づけた。

「続いて、生徒会会長、江本貴也」
「はい」

 貴也は名前を呼ばれると立ち上がり演台へと向かった。続いて、次期会長の緒方一が呼ばれ立ち上がりその場で貴也を見ていた。彼はガチガチに緊張しているため、返事も動きもまるでロボットであった。

 貴也が演台につくと、周囲から女子から甘い吐息がもれた。その女子ににこりと笑いかけるとざわついたが、彼がマイクに近づくとシーンと静まり返った。

「卒業の皆さん、この6年間生徒会を支えて来てくれてありがとうございます」

 凛と響く憲貞の声とは対照的な優しい落ち着いた声で貴也は話しかけた。

「6年前、一般生徒の声を上へ届けようとしたのが生徒会の始まりでした。一般生がこうして壇上で話をできるなど以前は考えられない事でした。あの時、君たちが特待を持ち上げ支えてくれたから生徒会は今もここにあります。苦労も喜びも共に分かち合ってくれた皆さんにはとても感謝してます」

 彼の言葉一つ一つに卒業生はもとより在校生も頷いていた。
 貴也は言葉を一旦とめて、ゆっくりと壇上したの生徒をみた。

「在校生の皆さん、生徒会は現在の卒業生が入学して作ったまだ新しい組織です。桜花会を支え、協力してより良い学園にしていくために存在します。我が校は、他校に比べ生徒の自主性を求め、大切にされています。だからこそ、どんなに人間も努力すればどんな事も成し遂げられます。卒業生が生徒会を作ったように思いを遂げられる学校です」

 そこまで言葉を止め、桜花会をみた。レイラは貴也と目があう笑って見せた。すると、とても素敵な笑顔を返されて落ち着かない気分になった。
 彼はまた、生徒の方に視線を戻した。

「我が校の特色である桜花会。敬うべき存在ですがけして恐れるものではありません。社会にでれば、生まれた環境で待遇の違う人間がいるのは当たり前です。その彼らどう付き合っていくかというのは肝となります。自分の環境を嘆いたり他者を羨んだりする気持ちもあるとは思いますがマイナスばかりでは墜ちていくだけです。他者に縋(すが)るのではなく自分の足で立ち前に進んで下さい。そのために生徒会を是非とも利用して下さいね」

「はい」

 貴也の話が終わると生徒は一斉に返事をした。そして、涙を流す者いた。

(すげー慕われてんな)

 レイラは感心しながら、自分の横にたっている次期会長の一をみた。
 彼は大号泣しており、それにレイラは顔きつらせた。ハンカチで涙を抑えながら演台に向かうと貴也は眉を下げながらも笑顔で彼を待っていた。
 一は演台についたが、泣いた事で言葉がうまくでなかった。そんな彼の肩に貴也は優しく触れ、マイクを演台からとった。

「生徒会を成立させ、6年間かも間会長を務めた私の後を継ぐのは重荷だったと思います。それでも緒方一は引き受けてくれました。不安が多いと思いますが支えやって下さい」

「もちろんです」

 まるで、練習でもしたように声を揃えて返事をする生徒にレイラはただ、驚いていた。

(え? リハーサルで演説してないよな。カリスマってやつか?)

 結局、一は「よろしくお願いします」と言うのが限界だったようで、ハンカチで顔抑え貴也に付き添われてレイラの隣席に戻ってきた。

(大丈夫か、コイツ)

 大きな音をたててハンカチで涙と鼻水をふく大男にレイラは不安になった。

「以上で卒業式・襲名式を終わります。一同起立」

 圭吾の声で、一斉に全員が立ち上がった。もちろん、桜花会も生徒会も立っている。

「今まで、私たちは先輩方に憧れ、その背中に支えられ追ってきました。明日からその姿が見られない事はさみしく思います。しかし、私たちは先輩方に教えて頂いた事を力として更により良い学園にしていく事を誓います」

 圭吾の宣言に続き、桜花会や生徒会を含む在校生が「誓います」と言った。

 これはリハーサル通りのやり取りであるが、本番は聞くと全く別のものに聞こえた。

 その後、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえた。

 後方にある扉が開くと壇上したの生徒はモーゼの海割りのようにサーっと道を作った。それと同時に、吹奏楽部そして弦楽部の演奏始まった。

 生徒の道を卒業生の桜花会と生徒会が通る。

「憲貞様」
「香織様」
「江本会長」

 3人の名前を呼ぶ黄色い声や野太い声が聞こえた。その中で時々「岡田副会長」という声も聞こえた。
 興奮して桜花会と生徒会に手を出す生徒もいたが、その生徒一つ一つに丁寧に挨拶をし握手を交わした。

(えー、桜花会も卒業式では生徒に挨拶するんだな)

 憲貞と香織が、特待ではない黒服と触れ合い、あんなに長く話しているのをレイラははじめてみた。

 続いてその他の卒業生が退場して、在校生の桜花会、生徒会の順で講堂を出た。この後、一般生徒は講堂の片付けがある。それを仕切るのは圭吾だ。

 式典全てが、終了するとレイラは桜花会室に向かった。中等部は休みであり、式典に参加した生徒は各自打ち上げがあるようで校内はレイラとその後ろからついてくる愛里沙の足音しか聞こえない。

「なんで、そんなに小さくなっているのですか」

 レイラは黙って後ろを歩く愛里沙に声をかけた。すると、彼女は床を見ていた視線をレイラにうつした。

「その、愛里沙が圭吾様の上の立場の副会長なんて信じられなくて……。司会も後片付けの指示もお願いしてしまいましたわ」

 もじもじと話す愛里沙にレイラは首を傾げた。

「“お願い”というか二人目の副会長の仕事ですわよ。中岡先輩は去年もやってますし慣れてますわよ」
「そうじゃなくて……」

 不安感そうな愛里沙をレイラは鼻で笑った。

「そういえば以前、お熱でしたわね」
「あ、それは……」

 亜理紗は顔を青くした。

「え、あの、打算的なのですが圭吾様というか、平岡グループの人間を好きだと言えばお母様が亜理紗の事認めてくれると思って」
「なるほど、だから大道寺でもいいと思ったですね」

「違います」

 亜理紗は大きな声で否定すると立ち止まった。それに、レイラは驚てとまり後ろを振り返った。亜理紗の目には涙があった。

(あ、いじめすぎたか)

「違いますわ。圭吾様とは本当に付き合えるとは思っていませんでしたの。亜理紗は可愛くないしバカだし。けど好きでいることで話題になったりお母様が振り向いてくれるときがあったです。リョウちゃんは、別に大道寺でなくても……。きっと亜理紗は何もできないけど、迷惑かけるけど……。リョウちゃんとなら……」

 最後の方の言葉は聞こえなくなり、ヒクヒクとえずき出した。流石に罪悪感を感じてレイラはハンカチを出すと彼女に渡した。

「意地悪でしたわ。ごめんなさい」
「いえ……。泣いてすいません」

 亜理紗はハンカチを受け取ると顔を抑えた。

 しばらく休憩してから2人は桜花会室に向かった。
 部屋に着くとレイラが学生証だしカードリーダーにかざした。それをみて、愛里沙は慌てて自分の学生証もかざすと扉を開けてレイラがはいれるようおさえた。

「ありがとうございます」

 そう言って、部屋の中にはいるとレイラはその場で眉を寄せて止まった。
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