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第七話 新宮ひな子⑤

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路地を数メートル進んだ所で「Kneel(ひざまずけ)」声が聞こえた。聞き間違えかと思ったが、嫌な予感がして来た道を走って戻った。
「ランドセル……」
わかれた道に星の黒いランドセルが落ちていた。
ランドセルを落とすなんて通常じゃありえない。
「……」
最悪の可能性を考えて、静かに彼の痕跡を探した。すると、彼のらしき靴を発見した。
落ちているランドセル、靴が物語ってることは一つしか思い浮かばなかった。
予感が的中した。
マズい状況になっているはずなのに心が躍った。非日常なことが起こっていることに期待したのだ。
全神経に集中し周囲の様子が探った。
「……よし」
近くの公園から何かを感じた。
気持ちがせり高鳴る心臓を無理やりに抑え込みゆっくりと公園の中に入った。
そこはちいさな広場とトイレしかなく木々が生い茂り外からは全く中の様子が見えなかった。
周囲に耳を済ませると、トイレの裏からくぐもった声が聞こえた。音がならないように素早く近づくと「Look(見ろ)」と言う言葉が聞こえた。
そっと除くと、涙目になった星が這いつくばり細身の女が頬を染めながら見下ろしていた。彼女は星に近づくと膝をついて彼の髪に触れた。
「きれいね。遥君は全てきれいね。お顔も御髪もお肌も全て最高よ」
星が捕まり嬲れているのにひな子は不思議とないも感じなかった。星が勉強しているのを見ている感情と変わらなかった。星を責める女に対しても興味がわかない。だた、縛られてもいない星が動けない事に疑問を感じた。
星は身体を動かそうとしているが、出来ないようであり苦しげな顔をしている。
「あらら、こんなにも涙を流してもったいない」
女はニタリと笑い、星の頬を流れる涙を舐め取った。それが怖かったようで星は声をあげて泣き始めた。
「うぅ……」
すると、女は心底不愉快そうな顔をした。
「なぜ泣くの?」女は星の顎を持つと自分の方に向けた。「私が優しくあげているのに」
女は星の顔を持つ手に力を入れると、自分に引き寄せた。何をされるのか察した星は抵抗しようとしているようであった。
「Kiss(キスして)」
その言葉聞くと、星は抵抗をやめて女の頬に自ら自分の唇をくっつけた。すると、女は眉を寄せて星の顔を引きよると彼の口に自分の唇を押し付けた。
口の中を舐め回しているようヌチャヌチャと嫌な音がした。女が口を離すと糸を引いていた。
「うぅ、あ~……」
楽しそうにしている女に対して星は真っ青な顔をしていた。苦しげな声を上げると、地面を向き吐いた。ソレが女の服に掛かると、彼女は顔を歪めた。
「何すんのよ。せっかく私がキスしてあげたのに。汚い」
金切り声を上げた女は立ち上がり、ヒールで星の顔を何度も蹴った。
その光景を目にしてひな子は『助けないとまずいか』とのんきに考えていた。
ひな子は体力には自信があったが、星が女の言いなりになっているのが気になった。得体の知れないアレを受けたら負ける可能性がある。
星は殴られたことで、星の鼻血が出ている。頬と口は切れたようで流血していた。
「ふふふ、いい顔」女は星の髪を掴み、傷ついた顔を楽しそうに見た。「やはりSubはいじめられるのがいいのよね」
――Sub……。聞いたことがある言葉だな。
ひな子がのんびりと考えていると女は星が吐いた場所に、彼の顔を押し付けた。
「君が吐いた物よ。舐めなさい」
星は全身が震え、限界のようだったが女は容赦しなかった。
「遥君がSubなんて運命よねぇ。あぁ、私の可愛いSub。私の命令を聞けて嬉しいでしょ」
星の意識は朦朧としていた。それを彼が喜んでいると言う女が狂っているとひな子は感じた。
「何をしてんよ。舐めなさい」
言うことを聞くことが出来ない星にイライラした女は、彼の顔を嘔吐物に押し付けた。
――アレはまずいよね。
ひな子は動くことに決めた。
女が言っているSubの意味はわからないが女が使っている言葉を使えば相手を制圧できるのではないかと考えた。
「Kneel(ひざまずけ)」と叫びながら飛び出した。
女はそんな彼女の行動に驚いていたようだが、言葉通りひざまずくことはなかった。
「あら、コマンド?」女はニヤリと笑いひな子を見た。「もしかして、遥君を助けにきたDom? でも残念ね。私もDomだから聞かないのよ」
女の言っている事は理解できなかったが、言葉が聞かないというのは理解できた。だからと言って引くわけには行かない。
「だから、なに?」
ひな子は地面を蹴り、女の脛を蹴り飛ばした。
「う……」女はよろけて星から離れた。
攻撃があたり、相手がダメージを受けると心が躍った。この女を痛めつけてやりたいと思った。
ひな子は間髪いれずに更に女の脇腹蹴った。サッカーボールを蹴る時と違ってコントロールを気にして力を制限しなくていいから楽であった。鈍い音がすると女は蹴られた脇腹を抑えた。
「うぅ……」息するのが苦しいようでうなり声をあげた。
「あははは」自然と笑いがこみ上げてきた。自分よりも大きな体の人間が幼いひな子の攻撃で苦しんでいるのだ。楽しくないわけがない。
「生意気なガキね」蹴られた腹を抑えて女は立ち上がると微笑んだ。それはまるで悪魔のような微笑みであった。「無駄よ。遥君は私のモノなのよ」
彼女の言葉でハッとして横目で星を見た。彼は地面に倒れて意識朦朧としている。
――ヤバい忘れた。
ひな子が動揺していると女がニヤリと笑った。
「Come(こい)」
女がそう言うと星はよろよろと立ち上がった。そして、女の方に向かい歩き始めた。
「星」
ひな子が止めたが、星の動きは止まらなかった。彼の顔は体液や血、土でぐちゃぐちゃだった。
「……し、新宮、ありがとう」
そう言いながらひな子のふらふらと横を通る星は覚悟を決めた目をしていた。
「え? 枝」
星は両手に木の枝を握っていた。それを強く握りしめて持ち上げると自分の耳を刺した。

――……。

耳から血が吹き出た。

「遥君」星の行動に女は目を大きくして驚いた。「な、何を」
「お前のいう事はなんてきかねぇ」星はひな子の方を向いた。「新宮ありがとうな。お前来てくれたおかげで気合が入った」
そう言いながら笑うと彼は目を覆いたくなるくらい痛々しかった。今の彼を同情するのは失礼だと思い目を大きく開けた。
「星」
ひな子は星に話し掛けようとしてやめた。
彼に、言葉は届かない。
星が女に向かって行こうとした瞬間、倒れた。彼は真っ青な顔をしている。
「うふふ」星の行動に驚愕して何も言わなかった女が笑い出した。「面白い子ね。調教しがいがあるわ」
高揚する女に、ひな子は構えた。
さっきまでひな子の攻撃が効果あったことから彼女は女に勝てると本気で思っていた。
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