侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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「――ッ」平民は真っ青な顔をした。「わ、私……、馬の世話をする人だと。使用人の方だと……」
それからボロボロと涙を流し、顔を赤くした。
「そんな、高貴な方があんなボロ屋敷で母を……」
平民は動揺の余り手綱から手を離し馬から落ちそうになった。アルベルトが慌てて支えると彼女はふるえる手でアルベルトの服をつかんだ。その瞬間、強い殺気を感じた。カトリーナの方を横目で見るとすぐに視線を前に戻した。
大切な平民を泣かしたことへの怒ったのだと思った反省するつもりも後悔する気持ちもない。はっきり言って、この平民が気に入らない。しかし、カトリーナの命だから従う。
アルベルトは背中に矢の様に突き刺さる強い視線に耐えながら屋敷に戻った。
「ティナ様」
カトリーナは馬を降りるとすぐに平民の側に駆け寄り、馬の上にいる平民に手を差し出した。しかし、平民はカトリーナの身分を理解したからか手を出すのを躊躇した。
「どうなされましたか?」
「あの……」平民は眉を下げ地面を見た。「じ、自分で……」
そう言うと、平民は馬から飛び降りた。アルベルトは慌てて、手を伸ばしたが届かなかった。
「危ない」
カトリーナが平民を受け止めようとしたが、彼女の重さに耐えきれず下敷きになった。
「ティナ様、お怪我はありませんか?」
細身とは言え、自分よりも体重も身長もある者の下敷きになり背中や臀部を打ったはずであるがカトリーナは平然と微笑み平民に声を掛けた。
「あ、いえ。その……」
平民は顔を赤くして、カトリーナから転がり降りた。
「慌てないでください」
カトリーナは、起き上がると跪き平民に手を差し伸べた。それはまるで王子が姫に対する態度であった。
「あぅ……」
まるで花でも背負っているようなカトリーナの笑顔に平民はタジタジになりながら手を出した。
平民が立ち上がると、カトリーナは彼女を引き寄せた。
「お怪我がない様で幸いです」
「あ、あり……がとうございます」
茹蛸のようななった平民は小さな声で答えた。
平民が羨ましい訳ではないが、彼女が心を許しているのは自分だけだと思っていたから落胆した。
「エマ」
「あ、は……、はい」
出迎えてくれた侍女エマもカトリーナの態度に驚き返事が遅れた。
「どうした? 疲れているのか?」
連日様々な事がありエマは疲れているはずであるが、そんな事を言えるはずない。案の定、エマは首を振った。
「ティナ様の身なりを整えてほしい」
「かしこまりました」
エマが頭を下げて平民の手を引くと彼女は不安そうな顔でカトリーナを見た。
「ご心配にはおよびません」カトリーナは微笑むと、平民の手をとった。「エマは信頼できる人間です」
平民はカトリーナの顔をじっと見つめると小さく頷きエマと共に入室した。
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