侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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カトリーナの姿を見た平民は真っ赤な顔になり声を震わせた。
「ほ、本当に貴族の方でしたの」
「ティナ様」
カトリーナは平民の手を取ると軽く膝をおり口づけした。
「こんな時に不謹慎でありますが、ティナ様の美しさに目を奪われました」
確かに、身なりを整えた平民は平民に見えなかった。もともとの素材が良いというのもある。
「いえいえ、あ、か……、カトリーナ様の方がきれいで。まるで……」平民は緊張で上手く話せないのかどもった。「あの、あ、王子様です」
「……王子様」
カトリーナは腕を組み顎に手を当てた。すると、平民は真っ青な顔になり首を細かくふった。
「あ、いえ。失礼いたしました」膝につくのではないかというほど平民は頭を下げた。それにカトリーナは驚いたようで目を大きく開けた。
「公爵家のご令嬢に向かって王子様なんて……」
「いいえ」カトリーナはゆっくりと首をふると優しく微笑み、平民に頭を上げる様に促した。
「あの……」
平民の目には涙があった。それをカトリーナは手でふきとった。
「構いません。ティナ様はご希望なさるなら」
カトリーナが手を差し出すと、平民は顔を赤くしながら遠慮がちに手を出した。カトリーナは彼女の手が自分の手の上に乗ったのを確認すると足を進めた。
完全にエスコートだ。
終始だまって見ていた使用人たちは一瞬目を丸くしたがすぐに顔から感情が消えた。彼らはシドニー公爵家の使用人だ。何を見ても簡単に感情を表にはしない。
葬儀とは言っても埋葬したたけであったためにすぐに終了した。
シドニー公爵家の墓とは全く違う場所であった事にカトリーナは不満そうであった。しかし、「立派な墓」と平民が涙して喜ぶのでカトリーナは満足そうにしていた。
全てが終了しても、平民は墓の前から動かなかった。それを見てカトリーナはまわりの者に丁寧に礼を言うと通常業務に戻した。
「アル、休憩を来て構わない」墓の前うずくまり、動かない平民に寄り添いながら言った。「我儘を聞いてくれてありがとう」
平民と共に、墓石を見ているため彼女の表情が分からなかった。
「どんでもございません」アルベルトは丁寧に頭を下げてから首をふった。「お嬢様と一緒におります」
敷地内とはいえ、侍従が公爵令嬢を置いて帰ることはできない。
「そうか。私は彼女が落ちつくまでいる」
「承知致しました」
「働きすぎじゃないか。今日は朝から一緒だ」カトリーナは真上を通り越した太陽を見た。「私は一人で帰宅できる」
「私に戻り事を命じられるのでしたら、他の者が来ますがよろしいでしょうか?」
その瞬間、顔が歪んだ。
「私の事を信頼して頂けるのは嬉しいですが、他の者も優秀です」
「信頼ではない。確信だ」
カトリーナは立ち上がり、アルベルトを見上げた。アルベルトすぐに跪き視線を合わせた。
「お前は、私がシドニー家に捨てられても家がなくなっても私についてきてくれると知っている」
真っ青な瞳に見られると、罪悪感が強くなった。
「……私は彼女が屋敷にいることを黙っていました」
カトリーナが触られないから自ら話題にした。
「私のためだろ。お前から見たら彼女はただの平民だ。私から遠ざけたいよな」
十二歳の少女のはずなのに、酷く大人びて見えた。
「感謝している。葬儀を迅速に準備してくれただろう。ただの平民だと思っている相手の母なのにさ」
「あれは家令から許可をいただきましたので」
「敷地内に墓石を立てるなんてすぐにできる事ではない」カトリーナはゆっくりと首をふると、まっすぐにアルベルトを見た。
「ありがとう」
その微笑むに心臓を鷲掴みにされた。
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