侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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アルベルトがふと平民を見ると、真っ赤な顔をしてカトリーナを見つめていた。
「格好いいですね」
「ん?」
「いえ」平民は両手で顔を叩くと立ち上がり仕切り直した。手を前に組み深く頭を下げた。「カトリーナ様、アルベルト様、ありがとうございます」
「頭を上げて下さい」
カトリーナはクルリと回ると、平民を向き微笑んだ。その顔はアルベルトに向けた時と違い、紳士が淑女に公式の場で向ける笑顔だ。
「ティナ様にとって大切な御方は私も大切にしたいのです」
「あ……はい」
カトリーナの笑顔にやられた平民はゆでダコのようになり、頬を抑えて地面を見ている。
その時、背後から複数の人の気配がした。アルベルトはすぐさま振り向き、相手を確認すると頭を下げた。
「急な葬儀だな」
二人の護衛を連れた王子エドワードがニヤついた顔で現れた。
「エドワード様、ご機嫌うるわしゅうございます」
カトリーナは右手を胸の前に持っていくと、頭を下げた。それを見て、平民は膝つくと頭を下げてひれ伏した。
「今日は逃げないのだな」
「私は一度も逃げた事ございません。ただ、病弱なため常にお相手できずに大変申し訳なく思っております」
「そうか、森では悲鳴をあげて去ったではないか」
「……その節は大変失礼致しました。野盗があらわれたと思い恐怖のあまり声を上げて、平民を盾にしてしまいました。王太子殿下がまさかあのような場所にいらっしゃるとは思いもしませんので……」
 スラスラとでる出まかせにアルベルト感心したがエドワードにはバレているようで彼は鼻で笑った。
「公爵令嬢が危険と言われる森にいるのか理解に苦しむ」
「あそこはシドニー家の領地でございます。幼少から散歩しておりますし庭同然です」
カトリーナはエドワードを牽制しているようだが、彼はこの状況を楽しんでいるように見える。カトリーナはそれを知ってか、小さく息を吐くと平民を見た。
「立ちなさい」
さっきの態度とは打って変わり冷たい言葉を平民に投げかけた。今まで全く違う雰囲気に平民は戸惑いながら立ち上がった。
「これが盾にした者です。この者の母親が腐っていたので埋めただけで葬儀なんてもんじゃありません」
「そうか」
エドワードは全くといって興味ない様で平民の方を一切見ない。カトリーナはエドワードの態度に、首を傾げると平民の耳元に口を近づけた。すると彼女は頬を染めて頷いた。その様子を見たエドワードの眉が一瞬ピクリと動いた。
「お初にお目にかかります。ティナと申します」
平民はスカートの裾を持ち丁寧にお辞儀をした。
「この方は王太子エドワード殿下です」
カトリーナに紹介されたエドワードはニヤリと笑うと、彼女を抱き寄せた。その瞬間、カトリーナは般若のような顔をしたが一瞬で笑顔に作り替えた。
「我が愛しき姫が紹介するならば仕方ない。私はエドワード・ディ・コーネリア。コーネリア王国第百五十代目国王の第一位王位継承者だ」そこで言葉を止めると、カトリーナの腰に手をやり彼女の手の甲に口づけをした。「そしてシドニー家公爵家令嬢カトリーナ・シドニーの許嫁だ」
わざわざ、身分を強調した。それはまるで平民に圧力をかけているようであった。案の定、平民は苦い顔をして二人を見ていた。
「候補ですよ。殿下」
カトリーナそう言いながら、エドワードから離れようとしたが彼はそれを許さない。
「君がまだ十三にならないため公式発表できないだけだ。他に相手はいない」
「何をおっしゃいます。私に何かあればすぐに別の令嬢の名前があがりますよ」
何度か押し問答をしたすえ、カトリーナはエドワードから抜け出した。
「大丈夫ですよ」カトリーナは震えている平民の肩を優しく抱いた。「陛下はお優しい方ですから。顔を上げてください」
「……え、そ……」
カトリーナの言葉に戸惑い驚いたのは平民だけではない。護衛の二人は勿論、エドワード本人も目を丸くした。
平民が王族の顔をマジかで見るなどありない。
公爵令嬢の侍従であり、家が伯爵の地位を持つアルベルトも話し掛けられなければ壁と一体化している。
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