侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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 エドワードは心底不快な顔をして平民を睨みつけた。平民は全身を震わせて身動きが取れない。その迫力に護衛の二人も顔を青くしていた。アルベルトはそちらを見ることもできない。
「カトリーナ、冗談がすぎるぞ」
「ん?」
カトリーナだけは何も分からないと言った顔で首を傾げると、エドワードは鼻を鳴らした。
「剣の師がほしいという話を聞いてな」
脈絡もなくエドワードは話始めた。カトリーナは目を点にしていたが、すぐに察したのか頭を下げた。
「大変失礼いたました。殿下が紹介してくださるとは思ってもみませんでした」
そう言う所は察しがいいのに、先ほどエドワードが不快に感じた理由が分からないのが不思議だ。当たり前の様に平民をエドワードが受け入れると思っているのが不可解であった。
「おい」
エドワードは後ろにいた護衛の一人に声を掛けると、彼は頭を下げて前にでた。
「マルス・エリクソン殿」
「カトリーナの彼の事は知っていたか」
「ええ、有名ですから」
マルス・エリクソンはエドワードと共に何度も戦にでて勝利を収めている。それはもう一人の護衛シド・ビシャスも同様である。三人で一隊を殲滅させたという話はよく聞く。
「彼をカトリーナの師にして貸そう」
「――ッ」
輝かせたカトリーナは期待していた玩具をもらった子どものようであった。
「稽古の日程については改めて……」エドワードは言葉を止めた。「うむ、マルス少し相手をして差し上げろ」
「今ですか。ありがとうございます」
いつになく素直なカトリーナにエドワードは優しく微笑んでいる。
「承知致しました」茶色い髪を揺らしマルスは丁寧にお辞儀をした。「殿下はどうなされますか?」
「無論、見に行く」
エドワードは、はしゃぐカトリーナを楽しそうに見た。マルスが頷くとシドがアルベルトに笑いかけた。
アルベルトは頷き近くにいた侍女に、目で指示をすると彼女は頭を下げて平民の方を行った。平民は不安そうな顔をしながら侍女の話に頷き、立ち上がろうとしたその時……。
「待ちなさい」
カトリーナの鋭い声に平民も彼女を連れて行こうとした侍女も足を止めた。
「これから、私が稽古をします。見ていきなさい」
カトリーナは強い口調で言ったが不安にそうであった平民の顔がパァッと明るくなった。
「殿下、一人でご覧になられるのも寂しいでしょうから彼女を隣にすわらせますね」
「――ッ」
カトリーナの言葉にエドワードは怪訝な顔をした。
「あの、わ、わ、たしは……」
平民は涙目になり首をふった。
彼女の反応は当たり前だ。王族の隣にすわり紅茶を飲むなんて事は平民にとって苦行以外なんでもない。
エドワードに毎回強制的に茶の相手をさせられ慣れたアルベルトも他の王族となんて絶対にごめんだ。
カトリーナは平民の側に行くと彼女を見上げた。
「え、あ……」
不可抗力であるが、公爵令嬢を見下ろしてしまった平民は動揺しその場に座り込んだ。
「ティナ様……」
カトリーナはししゃがみ込むと、平民の黒い髪に触れた。平民の緑の瞳が髪隙間から見えるとカトリーナは彼女なにかを囁いた。すると、平民は耳を赤くして頷いた。
「シド、あの平民を運べ」エドワードは面白くなさそうな顔をして言った。
「承知致しました」シドは頭を下げると、穏やかな笑いながら平民の元へ向かった。
「アルベルト、広場にティーセットの準備を。あの平民の分もだ。私と離れた場所座らせろ」
「承知致しました」アルベルトは返事をすると近くいた侍女にいくつか指示をした後、エドワードに声を掛けた。
「それでは広場へ」
「あぁ」
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