侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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慌てて起き上がろうとすると、「そのままで」と言われた。しかし、寝ているのは気まずくベッドに座った。
「調子はどうだ」
「体調管理ができずに申し訳ありません。すぐに仕事ができる程度には回復致しました」
「そうか」
相変わらず、微動だにしない顔からは感情を読み取り事ができない。
「ですので、休暇を頂かなくとも大丈夫です」
「いや、お前は働きすぎだ。休め」
拒否できない強制力を感じた。
「それでウェバーの家に戻れ」
「え、生家ですか?」
「何を驚く。本来は十年で戻るところをお前の我儘でまだ置いてやっている」
「そうですが……」
シドニー家に奉公に来てから一度も戻って生家に戻っていない。長く離れすぎて戻りづらいというのもあるが、それ以上にカトリーナが心配でシルバー家から離れたくなかった。
「ウェバー伯爵が……」そこまで言うとアルファードは言葉を止めた。「休暇中だったな」
「休暇は今からでしたか」
突然休暇を出されて、実感がなかった。
アルファードが穏やかに笑うと、身体ビクリとした。彼の笑顔を始めて見た。
「では、今は、私はお前の上司ではなく叔父だ」
 仕事以外で彼と関わる事がなかったため『叔父』のアルファードをアルベルトは今、初めて見た。
「はぁ」
公私の切り替えの徹底ぶり驚いて言葉が出てこなかった。
「叔父上、笑えたのですね」
敢えて、『叔父上』と呼ぶと「お前は俺をなんだと思っている」と苦笑した。
アルファードの崩した話し方を新鮮に感じると共に、彼が人間だったのだと思った。
「それで、なぜ生家に行かなくてはならないのですか?」
「奉公期間を延長して一度も帰らないからだ。休暇もお嬢様と関わっている。それでは仕事と同じだ」
アルベルトは伯爵家の次男として生まれた。シドニー家に奉公し学んだ後は生家ウェバー家に戻り次期伯爵の兄の補佐をし、最終的には貴族の家に婿入りする流れであった。
「幼いお嬢様の側を離れる訳には参りません」
「そんな事を言ってお前いくつになった」
「……二十二です」
アルベルトは言いづらそうにした。侍従としては年を取りすぎた。
それはアルベルトも分かっていた。
「ではそろそろ道を決めるべきだ。男のお前ではお嬢様の世話をするのも限界があるだろう」
「はい。しかし、お嬢様は他の使用人を世話になるのを嫌がります。私がぬければエマだけになり負担が大きいです」
「拾ってきた女を可愛がっているようだな。アレの能力はお前だけではなくエマも買っているようだ」
 平民の事がアルファードの口から出ると、不快に感じた。平民は高い能力があるが、性格に難ありだ。カトリーナの側に置くにはふさわしくない。
「アレは身元が明確にならないかぎりはお嬢様の側に置くには適してないと考えております」
「身元ねぇ」
アルファードは何かを知っているような口ぶりであった。
「それは俺が調べておく」
彼の様子からやはり平民は厄介事であるのだと察した。しかし、以前はぐらかされた事を思い出し、詮索はしなかった。

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