侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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家令アルファードの下で働けば、カトリーナに会えないが、彼女に何かあればすぐに情報が入り動く事が出来る。最大に利点は結婚しなくても良いということだ。カトリーナに恋愛感情がある訳ではない。ただ、爵位にも女性にも魅力を感じない。
「お前さ、シドニー家の公爵令嬢を基準に考えてなか?」ハリソンはゆっくりと歩みながら言った。
「……」
アルベルトは彼の後ろを黙って歩いていた。
十二年間カトリーナの事だけを考え行動し生きてきた。彼女と離れた生活を想像する事ができない。
「公爵令嬢は未来の王妃様だよ」
ハリソンは呆れた顔をした。
ずっと一緒に居る事が叶わないのはわかっている。知っている。
カトリーナが強く自分をほしてくれれば、全てを捨てて王家についていく。そこに迷いはなかったが、カトリーナがそうするとは思えない。
「未来の王妃様が望めば王家に仕える事ができると思うけど、地獄じゃん?」
「……地獄?」
「だって、好きな女が自分以外の男と仲良くしている所を毎日目にしなくてはならないじゃん」
「……」ハリソンの言葉に眉を潜めた。
「お嬢様に恋愛感情を持った事はありません。私はお嬢様が幸せのために仕えています」
「そう」
ハリソンは素っ気なく答えると、身体を曲げてアルベルトの顔を覗き込んできた。水に映したように様にそっくりな顔が突然、眼の前に来て足を止めた。
「俺としては一緒に働きたいのだけどね」
「ありがとうございます。しかし、私は家業の事を理解しておりません。お役に立てるとは思えません」
謙遜ではなく事実だ。 
カトリーナの世話しかしてこなかった。多少、アルファードの業務には触れた事があるためシドニー家の家令補佐ならばできない事はない。将来的に家令に慣れれば最高だ。
「俺はアルの能力を買っているよ」
ヘラヘラと笑うハリソンを避けるように、横にそれると屋敷の扉の前に立った。かすかに記憶の中に存在する扉と同じ物であった。
眼の前にすると妙な気持ちになる。
扉の先で、選択肢を迫られたらと思うと手が出なかった。
「アルベルト様」
遠慮がちに、自分と似た黒い服を着た年を召した男が声を掛けてきた。
「ご案内してよろしいでしょうか」
「……使用人」
 アルベルトが小さな声で言うと、男は笑顔を作り、頭を下げた。
「はい。お久しぶりでございます。家令フォードです。覚えておりますでしょうか?」
全く知らない顔ではないが、知り合いかと言われるとはっきりと断言できない。
「すまない」
「いえ、長くお会いしておりませんので当然でございます」
白髪をゆらしながらフォードは顔に多くシワを作り穏やかに笑っている。
アルベルトの中で、家令といえば表情筋が死んでいるアルファードだ。フォードを見ると不思議な感じがした。
「どうぞ」
フォードに案内され、広間に通された。そこには、白髪まじりの髪をまとめ上げ、上品なスーツに身を包んだ貫禄のある男性がいた。
「良く来たな」
父としての顔は良く覚えていないが、伯爵としての彼は良く知っている。彼の手腕はよく耳に入る。
伯爵に挨拶をすると、フォードが椅子を引いてくれた。それに、座るとフォードは伯爵の後ろに立った。
いつも、アルベルトはフォード側にいる。世話をされるというのは妙な気分で落ち着かない。
早く、カトリーナの元に戻り彼女の世話をやきたいと思った。
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