侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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外が騒がしく、ゆっくりと目を開けた。馬車の外に良く知ったアルベルトと瓜二つの顔があった。ただ、向こうの方が大分、年を重ねている。
「寝て帰宅とはいい身分になったねぇ」
ニヤニヤと笑いながら馬車の扉を開けたのは、兄ハリソンであった。
彼はヴェバー家伯爵代理として社交界に顔を出している。シドニー公爵家主催の催し物はアルベルトも手伝いに入るためその時ハリソンの顔を何度か見かけた。
アルベルトは慌てて身なりを整えると、馬車を降りた。ハリソンの後ろには心配そうな顔をしている使用人がいる。
「子爵様、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
「実の兄に対して随分堅苦しい挨拶だね。行ったきり一度に帰ってこないなんて薄情な弟だよ」
後ろで一つにまとめた黒髪を揺らしなが、ハリソンは大げさな態度をとった。
「定期報告の期限は守っております」
「そーじゃなくてさ。侍従ぽくなちゃってさ」
「ありがとうございます」
「そーじゃないって」
わざとらしく、大きなためつくリチャードの相手が面倒くさくなってきた。
「大体、今はシドニー家の侍従じゃなくてヴェバー家の次男でしょ。私の事は子爵ではなく兄上の呼ぶべきでしょ」
ハリソンとまともに会話をしたのは生家をでた、十二年前だ。寂しそうな顔をして見送ってくれたのを良く覚えている。しかし、お互い大人になった今、弟としての振る舞い方がアルベルトは分からなかった。
幼い子どもの様にはいかない。
「兄上がそれを望むのでしたら」
「お前ねぇ」またハリソンは大きなため息をついた。「顔も見せに来ないし。死ぬまで会えないかと思ったよ」
それでも問題はない。
伯爵家はハリソンが継ぐ事は決まっている。それを補佐する優秀な人物がいる話も聞いている。
「それで?」ハリソンは楽しそうに笑っている。「俺の下で働く気になった?」
「……」
アルベルトは生家からもらった手紙の内容を思い出した。平民の件ですっかり忘れていた。
「返事を出さずに申し訳ございません。私は……」アルベルトは言葉に詰まった。
生家からの手紙の返事をアルベルトは決めかねていた。数年後、カトリーナが王家に嫁いだら、アルベルトは今の仕事を続けるのは不可能だ。その為、生家から今後の事を問われている。
そうは言っても生まれた時から決まっている選択肢から選ぶだけだ。
このまま、シドニー家に残り家令の下で働くのか、生家に戻り兄の補佐をするか、婿養子となりその家を継ぐかだ。養子先が見つかるまでハリソンの手伝いをさせられるだろうから後半二つは同じような物だ。
『このアルベルトがカトリーナ様を御守りしますよ』
以前、カトリーナに言った言葉が頭の中に響いたアルベルト自身もずっとそうしたいが現実は許してくれない。
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