侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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離れと呼ばれる色屋を出た後、アルベルトは敷地内にある墓場に向かった。
死ぬかもしれないと感じ、生みの親の存在が気になった。最初で最後になるかもしれない墓参り。
名前がわからなったが正室として入った公爵令嬢ならば一番立派な墓だろうと目星をつけた。それに近付こうとすると、人の気配がして近くの木の陰に隠れた。生家の敷地内にある場所だから、隠れる必要はないが反射的に身体が動いた。
墓の前に見た事がある女性がうずくまり身体を震わせていた。
「ガーネット樣……」女性は涙を声であった。「命をかけて生んだ方が帰ってきてしまいました。多分……。呼ばれたのだと思いますがイヤ予感がします」
少し前に廊下ですれ違いハリソンが『自称母』と言って軽蔑していた女性である事に気づいた。
「シドニー家の使用人をやっていれば貴族の枠から外れる事ができるのに……。他家の婿養子なんかに行ったら……」
アルベルトは彼女が言っている事が自分の事であることにすぐに気づいた。しかし、先程出合った彼女の態度とは天と地ほど差があり戸惑った。
「あっちはなんとか、伯爵になれそうです。貴族というつらい立場ではありますが他家よりは良いかと……。力が及ばず不甲斐なく感じおります」
良いか悪いかは別として、自分たち兄弟を彼女自身が思う良い方向へ進ませようとしているのはわかった。
貴族として過ごし、更にカトリーナの侍従として過ごした年月で貴族が贅沢三昧しているとは思っていないし、苦労がある事も知っている。下手をすればすぐに没落してしまう。笑顔で、互い腹の底を探り合う世界だ。
自分には合わないと常々思っていた。これから始まる命がけの冒険があっているかと言われれば『そうだ』と即答できないが貴族よりはマシだ。
「何をしているの?」
気づくとさっきまで墓場の前で泣いていた女性が目の前に立っていた。
「あ……」
目がほんのり赤い、それを隠すように扇子で顔を覆っていた。
「ここは、あなたの様な使用人が来る所でないわ」
害虫でも見るような目で女性に睨みつけられた。墓の前で泣いた人とは別人であり幻覚でも見たのかと疑った。
「母の墓参りに」
「はぁ」女性は眉を寄せ大きな声を上げた。「あなたの母は私です」
「いえ、あの生みの母の……」
「――ッ」
 大きな音が響き、頬が痛んだ。
言葉の途中で、頬を叩かれた。突然の事で状況が理解出来なかった。
「無能な子ね」大きな声で怒鳴りつけられた。
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