女装彼氏〜めちゃくちゃモテる女装男子をモノにするまで〜

黒夜須(くろやす)

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帰宅途中に買い物をした。正樹は体調を心配して一度戻ってから自分だけ買い出しにでると言ったが、一緒に居たかったため否定した。
自宅にはいると、正樹が台所に立った。殆ど使われていなかった場所に人が立つは新鮮であった。
「できた」
 正樹が嬉しそうに料理をテーブルに並べた。
「うん。頂きます」
ふわふわ卵のオムライスはとても美味しかった。食べている途中で、目の前にあった鏡が目にはいった。
「あっ」
髭が伸びている事に気づいた。ホテルでも知っていたが、行為に夢中になり忘れていた。
慌てて立ち上がろうとすると、正樹に手を捕まれた。
「ご飯中に立つのは行儀悪いよ。どうしたの?」
「その……」
髭があることが恥ずかしくて言えずに手で顎をかくした。
「おいで」
正樹に手をひかれて彼の膝に座らせられた。
「可愛いよ」
隠していた手をどかされて、正樹の手が髭にふれた。
「夕方だから、赤ちゃん髭が現れたんだな」
正樹に髭を舐められた。
「あうぅ……」
彼に褒められると、髭もいいもののような気がした。
「食べよう」促されて席に戻った。家庭的な料理を久々に食べた。
正樹が作った物が自身の身体にはいっていく嬉しくて仕方なかった。
食事が終わると一緒に台所立ち片づけをした。
過去の自分が今の光景を見たら心底驚くだろう。
真っ暗な部屋で一人小さくなっている幼い自分の姿を思い出した。
正樹から服を貰ってとても浮かれていた。部屋にいる時はいつもその服を着て鏡を見る事が日課になっていた。
その姿を彼女に見られた。
彼女を気に入っていた母が勝手に部屋にいれたのだ。
彼女は軽蔑した目で見て、大声が上げた。
それからの展開は早かった。服や化粧品は全て捨てられて、学校で噂の的となった。母には何度も病院に連れていかれた。
母の隙を見て祖母の家に逃げた。彼女は理由を聞かずに家に置いてくれたのは幸いであった。
偏差値の高く教員が目を光らせている私立高校であったため表立ったいじめはなかったが友人はできなかった。
その中で話しかけてくれたのは虎司であった。頭は悪くないが思ったことをそのまま口に出してしまう性質を持っていた。だからトラブルを起こす事が多く敵も多かったが、顔が良かったため女の子が常に側にいた。
だから、身から出た錆とはいえ今回の事は残念に感じている。
「ゆうちゃん?」
「ん?」
「大丈夫疲れたか?」正樹が心配そうな顔した。「今日は色々あったからな」
「……うん」
「悪いな。お前の友だちがあんなことになって……」
正樹が虎司を心配したことに驚いた。大衆の前で辱めを受けたのだ。嫌ってこそだが心配する要素はなに一つない。食堂での件は自業自得だ。
眉を寄せる悠に正樹は不思議な顔をした。
「椎名虎司君はゆうちゃんの友だちじゃねぇの?」
即答出来なかった。
高校生時代、彼がいたおかげ孤独にならなかった事は感謝している。しかし彼とまた友人関係を築きたいとは思わない。
憎む気持ちはないが、今後彼と関わる気はない。
「虎司はいらないかな」
「そっか」
「正樹は?」微笑みながら正樹の方を見た。「木山さんや河沼さんは高校生の友だち? 仲良いの?」
「そうだね。恵と一緒に住んでるしね」
「はぁ?」驚きのあまり洗っていた皿をシンクに落とした。「……いえ、あの」
はしたない言葉遣いになった事を恥じて、どもった。
「問題?」正樹は悪びれることなく首を傾げた。「普通に同じベッドで寝ることもあるけど何もねぇ」
手がわなわなと震えた。
怒りで頭がいっぱいになった。正樹が話しかけてきたが耳にはいらなかった。今、口を開けば正樹を否定する言葉しか出てこない。
皿を洗い終わると、悠は何も言わずに鞄を持って外に出た。
正樹が何かを言っていたが全て無視して走った。
走って走った。限界を感じると立ち止まった。
「……前にもこんなことあった」
公園で木山恵にあった事を思い出した。彼女が正樹をただの友人と思っていることは知っている。彼らの中を疑ったわけでない。
けど……。
「あれ~、湯川さん」
遠くの方から大きな声が聞こえた。顔を上げると、河沼一香がいた。
「あ……」彼女に礼を言わなくてはならないと思った。のに、涙が出た。
「え?」
河沼一香は驚いた様であったが、何も聞かずに背中をさすってくれた。公園のベンチに案内され座ると、自販機で飲み物を買ってくれた。
「あ、ありがとう」河沼一香の優しさに心を救われた。
「あ、のわた……」
「大丈夫よ。落ち着いてから話して」
優しくそう言われると、悠は頷いた。冷たい飲み物が喉を通ると気持ちが落ち着いて涙も止まった。
「理由聞いてもいいのかな?」
彼女は遠慮がちに聞いてきた。
飲み物をくれて気を遣ってくれた人間を無碍にするつもりはない。それに、河沼一香の意見を聞きたいと思っていた。
「……河沼さんは」
ゆっくりと顔上げると太陽のような笑顔があった。
「一香って呼んで。悠ちゃん」
「え……はい。あの……、木山さんと正樹が一緒に住んでいるのは知ってる?」
全てを察したように一香は頷いた。
「恵は、あそこアパートの大家なのよ。恵の部屋は管理室の隣のはずなんだけど一緒にいること多いわ」
「一香はそれでいいの?」大きな声出た。「一緒のベッドで寝ることあるって」
「徹夜でゲームやってそのまま寝落ちよ」
正樹がゲームを好きなんて初めて知った。彼の事を全然知らない自分が不甲斐なく感じた。
「でも、不安よね」
一香に言葉に大きく頷いた。
「これから時間ある?」
家にいる正樹の顔が浮かんで悩んだが、彼女の言葉に頷いた。どんな理由があろうとやはり、同じベッドで寝ているのは許せない。
一香について行くと、駅に着いた。
「どこ行くの?」
「恵のアパートよ」
「え……?」
「気に入ったら住めばいいのよ。あたしも住んでるのよ」
「そうなの」
学校から数駅離れ更に徒歩十五分の距離にアパートはあった。
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