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広間

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 夕食で使う広間は招宴に使用できそうな大きな広間だが、王族の食事にしか使用しない。

 もったいないと思う。

 サラが離れてから気持ちが落ち着いてきた。
 この身体が緊張してしまうのはなぜなのだろう。騎士館とサラがいるとき……。なにか共通点があるのだろうか。
 しばらくするとカミラが扉から顔を出した。そして、私を見つけると大きな黒い目をキラキラさせる。スカートを持ち挨拶した。それに笑顔で返すと楽しそうに私の横に座る。何とも愛らしい。

「おにいちゃま」

 嬉しそうに私の事を呼ぶその姿はまるで天使のようだ。あの国王からこの愛らしい生き物が生まれるのは信じがたい。完全に第二王妃の血だと思う。
 前世で私も結婚できていたら、このくらい子どもがいたかもしれない。本当に子どもって可愛いなと思う。

「ルカ」

 いきなりのルイの登場に驚いた。カミラの方ばかり見ていて入室に気づかなかった。ルイはいつも優しげ笑顔をしているが彼の感情がいまいちわからない。笑顔だが無表情のようである。

「ルカ?僕の顔になにかついているかい?」

 ルイの言葉に返事もせずに凝視してしまったため、不快に思われたようである。私は慌てて挨拶をして朝の稽古のお礼を丁寧に伝えた。すると、ルイは笑顔のまま頷いた。
 すると、また気持ち悪さを感じた。
 私は深呼吸して“落ち着け”、“大丈夫”と唱えながらルイから視線をそらす。彼は私の様子に気づいた感じがなかったので良かったと思った。彼が離れると次第に気持ちも落ち着いてきた。朝はルイに対してこんな状態にはならなかった。

 原因はなんだ?
 サラ?
 ルイ?
 騎士館?

 よく、わからない症状に不安を感じる。

 広間の扉が開き、国王と王妃が現れる。入室した国王と王妃が私の顔みる。国王は無表情であり何を考えているかわからない。王妃は心配そうな顔をしている。
 すぐに、彼らに何か言われるのかと警戒したが特に何もなかったので安心した。

 このまま食事が終わればいいと思う。

 国王と王妃が席に着くと食事が運ばれてきた。豪華なフルコースである。この世界は昼食がない分夕食に力をいれている。日中は茶会や交流会があるためその時に何か口にしている事も多い。

「ルカ」

 国王が私の名前を呼ぶ声に“きた”と私は身構えた。
 一言なのに圧を感じるのは国王としての威厳であろう。返事し、国王を見るとそれを待っていたかのように話はじめる。

「夕食に参加するのは久しいな。体調不良と言うことで参加しなかったが本日は体調がよいのか」

 サラ以外が私の方を見る。サラだけは下向いていて表情がわからないが恐らく青くなっているのだろう。体調不良はサラが国王に報告したことだ。これが食事前緊張していた理由かと思った。

「体調不良は嘘ですね。健康です」

 私の言葉が広間に響く。大勢が静かに自分の言葉を聞いてある状態はとても緊張する。手が震え始めたがぐっと力を入れ抑える。“大丈夫”と何度も心の中で呟く。

 周囲を見るとサラを含めるその場にいる全員が、目を大きくして驚いている。しかし、国王だけは表情が変わらない。表情筋死んでいるのだろう。
 早くこの状態から抜け出したかった私は、国王が次の言葉を発しないうちに話を続けた。広間に私の声だけが響いている。

「兄上はとても優秀です。学習などでその兄上と比較されたと思い、兄上に嫉妬しておりました。そのため兄上と距離をおきたく思い参加しませんでした。
 それを理由として説明するには当時に私の自尊心が邪魔をしまして体調不良と偽りました。国王陛下ならびに王妃殿下に虚偽の申告を致しました事をお詫び致します。
 私の独断で行った事であり私はどんな罰でも謹んで受けます」

 呼吸を挟まずに一気に言いたい事をいった。手の震えは収まらず息切れがする。全員が言葉を失っているようだ。もちろん食事をするものなどいない。

「誰が比較した。第二王子であるお前を否定したのか」

 言葉にも顔にも感情がまるで感じられない。そのため、国王がどういう意味かわかりかねる。王子を否定した人間に罰を与えたいのか。王子を否定するものなどいないと私の言葉を否定しているのか。

 もう少し分かりやすい話し方をしてほしい。

 しかし、ここで下手に家庭教師の名前を出しても面倒くさい事になりそうなので穏便にすむように言葉を選ぶ。

「私の勝手な思い込みです。不出来な部分を指摘されるとそう思われていると感じました。自分の心弱さです。しかし、それではいけないと思い本日参加させて頂きました」

 もう、そろそろ終わって欲しいと思った。この雰囲気の中にいるのは限界だと私の心と身体が騒ぎはじめた。流石のルイも私の様子に気づいたのか笑顔ではなく不安そうに私を見る。

 私の言葉に、王妃が顔を歪めている。

「ルカ、そんなにも追い詰められている事に気付かず母として至りませんでした。国王陛下、彼を罰すると言うのであれば母である私がその罪を全てかぶります」

「わたしもでしゅ」

 カミラまでもが罪をかぶると言っている。彼女の場合、意味が分かっていないかもしれない。ただ母に賛成しているだけだろう。だが、そこが可愛い。

 涙を浮かべる二人を見ていると心が痛む。
 ルイは苦い顔している。

「罰するつもりはない。精神的に不安であったならばしかたがない。食事を進めよう」

 国王の言葉で場の空気が変わった。しかし、私の身体は限界を迎えたようだ。胸が痛みだし、座っていることがつらい。

「おにいちゃま、だいじょうぶ でしゅか」

 カミラが私の手の上から自分の手を重ねた。カミラの手の暖かさが伝わってくる。それがとても心地良く感じた。大きな黒い瞳を潤わせながら不安そうに私を見つめる。“大丈夫”と伝えるとカミラは可愛らしい顔を見せてくれた。

 本当に天使だ。

 先ほど緊張感がうそのようにゆっくりとした落ち着いた時間が流れる。

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