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アーサーの覚悟

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 転送魔法陣で城に戻ると全力でフィリップ部屋に向かった。すぐに彼に会って話をしたかった。母たちが裁判を行っている今、彼の側にいけるのは僕しかいない。
 
 フィリップの部屋を叩くが返事がないためそのまま開けた。部屋に中にあかりが一切入らないようにカーテンが閉まっていた。しかし、すぐにベッドの上に小さく足をたたみ座るフィリップを見つけた。彼は気持ちの整理がつかないときはよくベットの上で小さくなっていた。今回も予想通りである。
 僕は心落ち着かせる間もなくフィリップに近づく。
 
 「フィリップ」

 ベッドに上がり側まで来ると、声をかけた。フィリップは頭から布団をかぶり姿が一切見えない。暗闇のため顔が出ていたとして表情を確認することは難しい。 

 「フィリップ、話は聞いたよ」

 フィリップの反応は一切わからないが必死に声を掛けた。怪我をしていないと言う事だが、大丈夫ではない心傷は大きいに違いない。
 僕がこんなにも胸が張り裂けそうになったいるのだフィリップはそれ以上に違いない。

 「アーサー、王様とか王族ってなんだろう。王族じゃなければアンドルーと仲良いよい兄弟だったのかな」

 布団の中から微かに聞き取れる程度の声が聞こえる。僕はフィリップの言葉を一つも逃さないように、布団に耳をつけた。フィリップとは同じ王族に生まれたがフィリップは王位継承者である。他国に養子になっても問題のない王妹の息子とは背負うものが違う。だから、彼の気持ちはわからなく、なんて答えていいのか迷った。

 「僕は、言われた通りに勉強したしアンドルーにも優しく接してきたつもりだった。何も拒否したことなどなかったのに、王位継承権がそんなにほしいなら、僕なんて……」

 「何言ってるんだ」

 思わず大きな声が出てしまった。それにフィリップは驚いたようでビクリと体が動いたのが布団越しでもわかった。
 すこし布団から離れてから大きな声を出した事を謝罪し、おもむろに頭をかく。

 フィリップはいつも微笑んでいて僕の話を常に聞いていた。僕だけではない。アンドルーや伯母、母の話もだ。しかし僕は彼自身の話を僕は聞いたことがない。僕はいつも偉そうに、フィリップのダメなところを直すように言っていたのを思い出した。その時もフィリップは笑って聞いていた。

 「フィリップ」

 「僕は第一王子で王位継承者なんだよ。生まれた瞬間から」

 フィリップの今にも消えそうな声に頷く。はじめて聞くフィリップの気持ちを大切にしたいと思っていた。だから、耳をすませて必死に彼の声は全て聞き取ろうとした。

 「ある茶会で、主催した貴族の令嬢が持っていた本に興味があり欲しくなったんだ。主催貴族に話したら令嬢が僕のところその本を持ってきてくれたんだ。嬉しかった。だけど…」

 そこで、フィリップの声は更に小さくなる。王族をやっていれば色々な思惑に幼い頃から触れることになる。純粋に自分を愛してくれる人間がいないのではと疑うこともある。

 「屋敷の端で令嬢が泣いていたんだ。とても大切にしていた本だったらしい。慌てて返そうとしたけど親に怒られるからって受け取って貰えなかった」

 貴族の母が王族によく思われようとして我が子に我慢をさせるのはよくある話だる。王族の婚約者になろうと子どもを洗脳する親もいる。僕は割り切ってしまったけど、フィリップは苦しんでいたんだ。

 「自分の言った事が簡単に実現してそれで誰かが傷つくのは悲しいよね」

 僕の言葉にフィリップは布団から顔を出した。

 「でも、世界中の皆が幸せになる方法なんてないだよ。物事が動いても動かなくても誰かが幸せで誰かが悲しい思いをしている」

 黙って話を聞いてくれているが眉を下げ今にも泣きそうな表情をしている。

 「だから、優先順位が必要なんだよ」

 「優先順位」

 小さな子どものように、言った言葉をそのまま繰り返してくる。

 「僕はね、他人の為に自分を犠牲にする奴が大嫌いなんだよ」
 
 自分の事を言われたのかと思ったらしく目が細くなる。フィリップに覚悟してもらわなくちゃいけないから僕も覚悟を決めよう。王族として、国を運営する立場の人間てして他人を犠牲にする覚悟をしなくてはならない。時には自国を守るためには騎士に他の命を奪う命令をしなくてはならない。

 「フィリップ、よく聞いて」

 フィリップの両肩に両手で触れる。そして深呼吸をする。
 
 言わなくてはならない。
 
 「第一王子を狙ったアンドルーを母や伯母は庇う事ができないと思う」
 
 フィリップもそれがわかっていたようで、口を堅く結ぶ。そして、青い大きな目から涙がこぼれ落ちた。

 「わかって…る。多分…アンドルーは…アンドルー…」

 フィリップは嗚咽していまう言葉がうまくでないようである。しかし、それでも必死に僕に伝えようとしている。

 「身分剥奪で奴隷落ちだ」

 身体を振るわせて涙があふれてくる。僕は思わず布団ごとフィリップを抱きしめた。

 言わせてごめん。

 成人した王子だから、女王が下すべき決断を想定できない訳がない。幼少期から一緒に過ごしてきた弟の奴隷落ち。その、事実に第一王子として泣くこと取り乱すことも許されない。

 フィリップは我慢し過ぎた。
 自分の目からもあついものがおちるのを感じた。

 「今は泣こう。きっと今しか泣けない」

 朝日で目が覚めると自分の腕の上にフィリップの頭があった。子どもように、泣き寝入りをしてしまったようだ。フィリップのは真っ赤に腫れている。まさかと慌てて、フィリップを転がしベッドから降りる。そして鏡を見ると自分の目も腫れている。


 恥ずかしい。
 
 フィリップの箪笥を勝手に開け、タオルを濡らし目にあてる。ついでにフィリップの目にも当ててやる。
 
 僕としては感情を見られるのは恥ずかしいから、どんな事があろうとにこにこ笑いすました顔をしていたい。

 フィリップが起きないうちに部屋に戻ろう立ち上がる。隣国から戻ってきたままの格好であるため、フィリップが落ち着けば不審に思うに違いない。


 改めて、会いに来ようと思いフィリップの部屋を出た。
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