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令嬢を追いかける

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 逆光で相手が誰だかわからなかった。しかし、この殺気は危険と判断し、剣を強く握りしめる。手の中にあった石が邪魔であったが気にしてる場合ではない。
 前屈みになり、相手の懐に入ろう走るがするとスルリとかわされる。すぐに左脚を軸にして方向を変え相手を視界に入れる。

 ー強い

 相手は細身であるが子どもの私よりも身体が大きい。力では勝てないと判断すると、剣を振り上げ飛びかかる。

 「ーーっ!!」

 私が真上から剣を振るい降ろすと相手が剣で私の剣を防いだ。剣同士がぶつかりあう音がする。私はその反動で後ろに下がった。バランスを崩すことなく着地すると体制を整える。そして、相手の顔を見上げる。

 え?

 太陽の光で正体が判定した。相手は男性のように金色の刈り上げ鋭い目つきをしている。人相はよくないが我が国の騎士団の制服を着ていた。

 「マリア五番隊隊長殿!!?」
 
 マリア隊長は私が声を上げるとすぐに跪いた。そして、謝罪して頭を下げる。オリビア嬢を追った私を彼女は探していたのだろう。それはわかる。城外で王族を一人するのは有り得ない。しかし……。

 「今の殺気は……」

 「ルイ第一王子殿下から、殿下の剣術の素晴らしいを伺いましたのでぜひとも体験したいと思いました。ですが……」

 確かに、王族である私に剣術の相手を申し込むなんて事はできない。そして、私から彼女にお願いする可能性も低い。そうなると、私に切りかかってもらうしかないわけだがそこまでして私と取り組みをしたい気持ちは分からない。

 だいたい今じゃないと思ったが、すぐに逆だという事に気づく。むしろ今しかないのだ。

 折角の機会であるから私の剣術について助言を貰いたかった。訪ねるとマリア隊長は悩んでいるようですぐに答えてくれなかった。

 恐らく相当酷いものであったため、誉めるところを必死に探しているのだろう。王族相手だからはっきり思った事を言えないのだと思った。しかし、それでは私が上達しない。
 
 「賛美はいりません。上達する為の助言のみで結構です」

 「では、まずお聞きしたのですが、ルカ第二王子殿下は今、何の為に剣を抜いたのですか」

 そんなのは決まっている。オリビア嬢と自分自身を守るためだ。今回は相手がマリア隊長だったが本当に暴漢であったら大変だ。そもそも、今のオリビア嬢は動けない。しかし、彼女を抱きかかえて大人から逃げられる自信がなかった。
 そう思いながらオリビア嬢の方を向く。オリビア嬢はマリア隊長の奥で気を失い倒れている。その位置関係を理解した瞬間青ざめた。相手が本当にマリア隊長で良かったと心底思った。

 「位置ですか」

 私の小さなつぶやきにマリア隊長は頷いた。私が今回剣を抜いた理由はオリビア嬢の守るためだった。つまり彼女から離れては行けないのだ。現在の位置ではマリア隊長は容易にオリビア嬢に危害を加えられる。この状況を作り出したのは私自身である。
 相手を倒す事だけを考えていたために彼女から離れてしまった。

 「ルカ第二王子殿下は賢明ですね。勝ちは相手を倒す事だけではありません。目的の成せないのであれば相手を倒しても負けです」

 護衛騎士に言われるとその言葉はとても重い。その後“剣術は素晴らしい”と言われたが嬉しくなかった。私の技術ではまだ守りたいものを守れない。本で学ぶことの限界を感じた。 
 マリア隊長を見て、私は素晴らしいお手本が目の前にいる事に気づいた。しかも彼女は私に興味があるようだ。それを使わない手はない。

 「マリア隊長は私の剣術に興味があるですよね」

 その言葉に私が言わんしている事を察したようで目を輝かせている。そして“いつでも呼び出して構いません”と力強く言った。相当、剣術が好きなのだろうが私のような子どもを相手にして意味があるようには思えなかった。しかし、それを言って折角、手に入れた剣術の師匠を失っては困るので心に秘める。

 明日からの楽しみが増え嬉しかったが、今はやるべき最優先事項がある。

 オリビア嬢の介抱だ。

 マリア隊長に伝えると、彼女は優しくオリビア嬢を抱き上げた。そして、足を見て苦い顔して“折れてる可能性ある”と教えてくれた。か弱い令嬢が二階から飛び降りたのだから当然なのかもしれないと思うと同時にルカの身体能力の高さを改めて感じた。

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