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あとのまつり

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 叔父はさらに何を言っているが私のまったく頭に入って来なかった。よく考えればハリー・ナイトを探していたことが知られるのは当たり前だ。王子が一人で騎士館に行き捜索したのだ。騎士団から報告が上がっているはずである。しかし、なぜ今問い詰められるのだろうか。ハリー・ナイトを探していたのはもう一年近く前の話である。
 私はペンダントを握る手に力を込めた。すると早くなった心臓の音がもとの速さに戻っていくのを感じた。気持ちは落ち着いたがハリー・ナイトの件をどう説明していいか迷った。まさか“王妃が不倫する”などと言えるわけがない。

「答えないと、私はルカを疑わなくてはならない」

 叔父は心配そうに見つめる。

「疑う?まさか、ハリー・ナイト殿と共犯であるということでしょうか」

 ありえない。なぜ私が王妃の不倫に関与しなくてはならないのか。そもそもまだその事件までは時間があるはずである。私が本来ルカがしない動きをしたことでズレが生じているのだろうか。しかし、王妃の不倫が発覚したのに国王のこの落ち着きようは気になる。

「私もルカを疑いたくはない。しかし、報告がある以上は確認しなくてはならない」

 それはそうですよね。しかし、ハリー・ナイトを探していた理由……。確実に不倫の件は話せないしそもそも彼らがなぜ不倫をしたのか分からない。ハリー・ナイトが貧困地域出身なのは公になっていた。そこから上手くごまかそうと思った。

「ハリー・ナイト殿は貧困地域出身だからです」

「そこからルカを疑ったのか」

 国王がいきなり大声をあげたが、言っている意味が相変わらず分からない。ハリー・ナイトが貧困地域出身だから王妃との不倫を疑うわけがない。貧困地域の民に失礼すぎる。

「しかし、貧困地域出身の騎士は他にいたはずだが、なんでハリー・ナイトだと思ったのだい」

 興奮する国王を止めるように叔父が聞いてきた。すこしばかり叔父も興奮しているように感じる。この状態が異様に感じた。自分の妻もしくは姉が不倫している事に興奮している。私からしたら理解できない領域である。漫画では二人とも落胆していたはずだ。どこで間違えてしまったのだろうか。
 私が黙っていると叔父が答えを催促するような視線を送ってくる。仕方なく言葉を続けることにした。

「彼は優秀だからです。多分、今後は隊長以上や王妃の護衛を任させるくらいに成長すると思います。貧困地域出身にしては珍しいですよね」

 私の言葉に二人の眉がピクリと動いた。叔父が「確かに珍しい」と呟く。
何か問題のある事を言っただろうか。嘘は言っていない。彼は優秀だから王妃の護衛騎士となり関係を持つようになるのだ。
入団から約一年たつが彼はどれくらい出世したのであろうか。騎士の組織図は機密事項であるため騎士団か上層部のみが知っている。

「つまりルカが、ハリー・ナイトが何しているか知っているのだな。もしかしてオリビア嬢を城に連れてきたのもその件と関わっているのかい」

 叔父は全てを知っているようであった。そして王妃の不倫はもう起きてしまったのだろう。もう何も隠す必要はないと思った。漫画の時間軸を信じて悠長に行動しすぎたのだ。

「はい。オリビア嬢の父であるクラーク卿が貧困地域に出入りしているという噂を聞きました。オリビア嬢を通して貧困地域の様子やハリー・ナイト殿の事を知れればいいと思ったのです」

 私が暗い顔をして説明した。もう何もやる気がおきなかった。あんなに協力してくれたルイには本当申し訳ないと思う。

「その為に城に連れてきたのか。あのオリビア嬢と婚約してでも止めたいと思ってくれたかい」

 叔父の表情が和らいだ気がした。彼は私がどれほどオリビア嬢を苦手としているか知っている。オリビア嬢と結婚するだけで国の崩壊や大切な人が幸せになれるなら安いものだと思う。しかし、もう後の祭りだ。オリビア嬢を城に連れてきた意味はない。国王を見れば心なしか涙ぐんでいるように見える。私だって泣きたい気持ちだ。

「近くにハリー・ナイトの裁判が行われる」

 国王が私の方を見て、改めるように発言した。もう裁判まで話が進んでいることを知り気持ちは谷底に落ちた。しかし、王妃の不倫後に国王が錯乱していないのが何よりの救いだと思った。彼を支えてくれたのは誰なのだろうか。ルカの視点のみでしか物事を知ることができないのは不便に思う。

「その裁判に異例ではあるがルカに参加の許可を与える」

 また、国王が意味の分からないことを言っている。
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