No Thank you~殿方なんていりません。悪役令嬢一択~

黒夜須(くろやす)

文字の大きさ
17 / 33

第17話 寒暖差

しおりを挟む
帰宅をすると、ミヅキはすぐに自室に入りユウキに教えてもらったことを復習した。ローテーブルにまだ読んでいない本があったがそれは無理だと諦めた。
解説してもらわないと全く頭に入って来なかった。

ユウキの言っていることは正しいと思ったから頑張ることにした。
自分の希望を通すなら知識は必要だ。幼少期から多くの知識を学べる環境にあったであろう王太子には今から勉強しても勝てないかもれない。しかし、ないよりあった方がいい。

ユウキの教え方は上手で、復習するとすぐに理解できた。面白いとさえ思った。

「あれ? 私できるじゃん」

自分で自分を褒めた。
理解できると面白くなり、どんどん進んだ。

気づくと、何時間も過ぎていて驚いた。
いい匂いがすることに気づいた。
何の匂いだかすぐにわかると、部屋を飛び出して台所に向かった。

「レイ様」

慌てて行くと、そこには料理中のレイージョがいた。彼女は貴族令嬢であるが料理を含む家事全般をする。
それが当たり前でないことは、クラスの貴族令嬢から聞いた。

「あら、お勉強は終わったの?」
「あ……。一冊しかできませんでした」

申し訳なさそうにすると、レイージョはミヅキが読んでいた本の内容を質問してきた。先ほどまでやっていた所であったためすぐにその質問に答えることができた。

「すばらしいわ」満面の笑みで褒められると嬉しくなった。

「さぁ、食事にするわよ」と言って、テーブルの上に料理を置いた。ミヅキもそれを手伝った。

レイージョの料理は最高に美味しい。いつも頬が落ちるかと思うほどだ。

「ミヅキ」と名前を呼ばれ細い目で見られた。ドキリとした。
彼女の視線の先にあったのはミヅキの手であった。食具の持ち方が間違っていることを指摘された。
慌ててなおすと彼女は笑顔になった。

食事マナーに厳しい。
少しでも失敗しようものなら、冷たい目で見られる。ゾクゾクと高揚したが、なおさないとレイージョが次第に悲しい顔になっていくので最近はすぐに改善した。

食事がすむと、レイージョは首を傾げながらどうやって本の内容を理解したのか聞いてきた。

「ユウキ様に教わりました」と言った瞬間、ブリードが吹いたかと思うほど寒くなった。目の前に座るレイージョは髪を乱してじっとミヅキを見ていた。

それはまるで雪女であった。夏休みだというのに、この部屋だけ真冬だ。

「え、あの……」

たまたま、あったことを必死で説明しようとしたが、彼女の圧に押され上手く言葉で出なかった。
彼女の怖さに、手が震えるのを感じた。

レイージョはミヅキの様子に気づき、深呼吸をすると落ち着き雪が融けていった。

「そうよね。一人でやれと言うのは酷だったわ。ごめんなさい、どうしても抜けられない用事があったの。次は私が教えるわ」

悲しげな表情に罪悪感を持った。

その時、王太子から言われた側室の話を思い出した。
「あの……」と遠慮がちにレイージョに側室に誘われたことを話した。黙っていて、彼女とトラブルになりたくなかった。
もし、自分の婚約者が友だちを妾にすると言ったらその友だちにいい感情を持たない。だからレイージョには自分が“側室になる気がない”ことを全力で伝えた。王太子の言いなりにならないためにも勉強を頑張って知識をつけるとも誓った。
彼女に嫌われたくなかった。

その瞬間、寒いと感じた部屋が一気に暑くなった。
レイージョから出ていた吹雪が、烈火の炎にかわっていた。

笑顔である彼女から強い怒りを感じた。

「いいわ。私が見られない時は勉強を教えてもらって構わないわ」
「……」

突然、意見を変えたので驚いた。
しかし、彼女が“いい”と言うならユウキに是非とも教えてもらいたかった。彼の教え方は分かりやすい。

ただ、彼女が怒った理由が知りたかった。
ユウキに勉強を教えてもらうことよりも、彼女の感情を刺激することが何か検討もつかなかった。

不安になった。

自分がレイージョの気に障ることをしたなら謝罪して許しを請いたかった。

「あの……」
「大丈夫よ」そう言うレイージョは優しい笑顔だった。もう怒りの炎もない。

「部屋行っていいわよ。私はここ片づけたら行くわ」
「いえ、一緒にやります」

すると、「そう」と嬉しそうな顔をした。レイージョはいつも自分が“全てやる”と言うので、“一緒にやる”と言う。すると穏やかな表情をする。
それがまた可愛らしい。
一緒に食器を片付けながら、チラリとレイージョを見た。

「レイ様は、なぜ自分で全部やるのですか?」
「面倒くさいから、かしら」

軽く流した皿を、大きなケースに入れながら答えた。皿をケースに入れる理由も知りたがったが、彼女の言葉の意味を聞きたかったため黙って見ていた。

それを察したようにレイージョは、ケースに入れた皿が洗える魔道具だと簡単に説明してくれた。

「わたくしを良く思わない人が多いのよね」

御三家貴族で王太子の婚約者という身分を羨ましがる人もいるのだろう。彼女の言葉に頷きながら食器を水で流した。
「メイドは1人に付き1人という規則なのよ」

多くの貴族が通う学園であるからその規則は納得できた。無制限にしたら学園が外部の人間であふれてしまう。

「そうなると、わたくしの部屋にそのメイドが一人になるのよ。相当信頼できる人間を探さなくてはならないわ」
「幼い頃からいる方はとは?」
「いないわよ。わたくしの傍にいると死んじゃうの」
「へ……?」

思いがけない言葉に変な声が出て、慌てて口を抑えた。手が濡れていたため、顔がぬれた。レイージョは、それを見て笑いながらタオルをくれた。

「何かしらの利益を求めてアクヤーク家に来るからね。悪事が見つかると父が殺してしまうの。わたくしの毒味係も何人も亡くなったわ。毒味係が死ぬと厨房だけじゃなく雇っている人間一掃されるから」

異世界の話だった。

「父の仕事の助手をしている人間は長くいるみたいだけど、わたくしとは関わりないもの」

彼女の言っている意味はよく理解できた。だからこそ、自分を部屋に招いた意味がわからなかった。

平民で、彼女の信頼に値するものなど何持っていない。
魔力が高いだけで得体のしれない人間だ。

聞きたかったけど、怖かった。それを聞くと今までの関係が崩れてしまうように感じた。
おそらく、何か彼女にとって利点があるのだろう。そうでなかれば自分を傍に置く意味がない。

使用済みになったら捨てられるのかもしれない。

優しく微笑むレイージョがそんなことをするとは思いたくなかったが、覚悟をしておく必要があった。
その時、レイージョを嫌いになりたくない。

平民である自分がここにいる事。
御三家貴族と対等に扱ってもらえる事。
恐れ多いことだ。

だから、絶対に彼女を裏切らないと誓った。
レイージョがどんな目的で優しくしてくれるのかは分からないが、この先どんなに彼女が変貌しても今この幸せをくれたことを忘れたりはしない。

気づくと、レイージョが悲しげな顔をしていた。

「そうそう、ユウキ・ショータさんもカナイ・クラーイさんもメイド雇ってないわよ。理由は知らないけどね」

ユウキが雇わないのは、イルミの件があるかと思ったがカナイは分からなかった。
どうでもいい話だ。

「興味ないわよね」

ニコリと笑うレイージョにドキリとした。その美しさにはいつもときめいているが、それとはまた違った。
彼女の見透かされたような瞳に吸い込まれそうであった。
時々、自分の心の内が全て彼女に伝わっている気がした。彼女に隠し事があるわけではないが、ずっとレイージョへの愛を叫んでいるため恥ずかしくなった。
それと当時に“気持ち悪い”と思われないか不安であった。

「勉強するわよ」と手を拭きながら、レイージョが言ったので今までの考えを頭から消した。顔を拭いていたタオルを置くと彼女と共に部屋を移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

処理中です...