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第25話 アンバランス

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「頑張ったからな。俺は頑張った。超がんばった」とユウキは学園内の森にあるイルミの家で大騒ぎをしていた。

それが横暴であることは知っていたが、大きな声を出して暴れずにはいられなかった。それだけ、両親に頭を下げることはストレスであった。

それを気遣うように、イルミは料理を作りテーブルに並べていた。ユウキは次から次へと料理を口に運んだ。
貴族とは思えない乱暴な食べ方であったが、それを咎める人間はいない。

「もとはといえば、イルミが勝手に承諾したからだ」
「そうだね」

文句を言い続ける、ユウキにイルミは反論することなく返事をしている。
その優しさに負ぶわれていることは分かっていたが、文句が止まらない。次から次へと出てくる。

「迷惑料だって、別にアイツ本気で言ってない」
「そうだね」
「“お金がない”って言われたからなんとなく言ってみただけに違いない」
「そうかもね」

テーブルの上にあった料理は次々とユウキの口の中に吸い込まれていった。小さな身体だが、いくらでも食事が入っていった。
やけ食いではあったが、イルミの手料理を味わった。彼の料理はおいしい。毎日食べているが、好みでなかったことは一度もない。

イルミは穏やかに笑いながら、次々と料理を作っては運んでいた。

しばらくして、テーブルの上の物がほとんどなくなるとユウキは落ち着いた。イルミはそれを見て、席に着き自分も食べ始めた。

「でも、結果的には良かった。ミヅキの奴、アキヒト様の側妃を拒否してからな。国が一番のアキヒト様が何をやらかすか分からない」ユウキは出された紅茶のカップにゆっくりと口を付けた。
「王族命令で拘束じゃないの?」
「かもな」音がならないようにそっとカップを置いた。「でも、それをレイージョ・アクヤークが許したとは思えないんだよ。ミヅキのこと気に入っていたからな」

「うーん、レイージョ様がミヅキ・ノーヒロを拉致って国外逃亡とか?」イルミは食べ終わり食器を置くと指を立ててクスクスと笑った。「したらこの国破滅だね」
「笑いごとじゃない」
「笑いごとだよ」

イルミが真剣な顔をすると、ユウキは黙った。

「僕はこの国に固執するつもりはないよ。ユウキがいるからいるだけ」
「俺は自分の生まれた国を失いたくない」
「だから、協力しているんじゃん。僕の提案よかったでしょ」

そう言って、イルミは立ち上がるとテーブルの食器を大きな箱に入れた。ユウキがその箱に手をかざすと、箱が動き出し食器を洗い始めた。

「父に頭を下げるなんて、最後だ。めちゃくちゃ怖かったんだからな」
「その割には、“貴族やめる”って脅したらしいじゃん?」
「それは、お前がなんとかしてアイツらを説得しろって言ったからだ」

怒るユウキにイルミはニヤニヤとした笑いを浮かべた。

「何、笑ってんだよ」
「相思相愛」
「……力貰ったから、お前の世話するって決めたからな」
「別にいいのに。魔力なんてあったって使えないし」

面倒くさそうに言うイルミにユウキは大きなため息をついた。

「勉強すればいい」
「やだね。しなくてもこうして生きているじゃん」
「なんで、作物の事は学ぶのに魔力はダメなんだ?」
「作物は好きだから」

彼の行動は3歳くらいから変わっていない。やりたくないことは絶対にやらないし、好きなことは食事や睡眠を忘れて没頭する。
知識的は年齢以上であるため、一見普通に見える。

アンバランスだ。

自分がいないと、死んでしまうのではないかと心配している。

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