やっぱり義姉には敵わない!/天才少年パティシエのオレ、母が再婚するんで渡航して義妹に会ったら義姉だし内戦が起きてるんだが?

春倉らん

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第2章 義妹は同級生?

第7話 情報集め

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 コピーのタイトルは、『ワール国 在留邦人名簿』。住所と電話番号が表になっていた。
 三〇弱の企業や機関、団体の職員たち。単身赴任者も一世帯と数えて、全部で七〇世帯弱。ほんとうに一八〇人弱しかいない。その中には、一色兆胡・京旗の世帯は記入されていなかった。
「当面、キミには、大使館から直接連絡が行くよ」
 それはきっと重要な連絡になる。引き締まった職員の表情で、京旗はそう察した。
 ワール国の国土面積は、日本の九割くらい。おおざっぱに言うと正方形の形をしている。正方形の南の一辺は海に接し、北の一辺は内陸の国に接している。
 いまいる首都ダメジャンは南の海岸にあるので、この国の中程より北で小競り合いがあったということは、日本の九州の南、沖縄の那覇あたりにいて、東京あたりで事件があったというかんじか?
 

「たいへんな時期に来ちゃったな~? まあ、普通にしてていいと言われたが……一色は、普通でも、一人であんまり出歩かないほうがいいと思う」
 たぶん、空港で騙されかけたりカバンを盗まれたりした件で、頼りない奴だと思われてるんだろう。それは確かに仕方がないことだ。そうではある。そうではあるのだが! と思ってしまう京旗。
 ヘンな女は、京旗のカンにさわり続けた。
 兆胡が確保したマンションに行く前に、あゆは、ざっと、京旗の滞在する街を案内してくれたのだが、案内しながら、こう言った。
「ここがスュペルマルシェ。市場で買うより何もかも高いが、一色は、現地人の市場にひとりで近付くと危なさそうだから、ここで安全に買い物をしろな~?」
――バカにしてんすか?
 食料品を売っている店――パリや日本のスーパーマーケットと寸分変わらないスーパーマーケット(スュペルマルシェ)は、コンクリートの建物で、蛍光灯の下の棚には、パックされた生鮮食料品や缶詰やビスケットの箱など、何でも並んでいる。フランスの会社の経営らしい。
 ここは外国人向けなのだ。現地人がふつうに利用する市場には、お前は一人で行けまい、行かないほうがいい、ときっぱり断言されたことに、腹がたったが、京旗はくくくと拳を握って耐えた。
 地の利は彼女にあって、ダメジャンでは京旗は、どのくらい気をつければいいのか、どのくらいはラフでいいのか、加減がまだ見当もつかない。
 だが、ここは貧しい地域の常で治安がよろしくない。誘拐や強盗を警戒しておくほうがよく、日本人学校の子供は、親に付き添われてでないと外出しない――とも、あゆは言った。


 兆胡はワール国で住む家として、中心街プラトーン地区の高層マンションの一室を確保していた。
 今日も翌日も日本人学校は休みだよ、ヒマかもしんないけど、なんか困ったことがあったら大使館か、同じマンションの中にも日本人がいっぱい住んでるから、聞けばいいぞ~、と告げて、あゆは、京旗が玄関を開けたところで、くるりと背をむけ、帰っていった。
 やっと一人になれた、と思ったらどっと疲れた気分になった。
 四LDK、バストイレが三つあり、ほかに洗濯室とメイドの住み込む部屋がついている、ダメジャンの日本人家庭としては一般的だという間取り。外国人及び高所得者向けのマンション。日本だったら赤坂か広尾か、ふつう借りられない立地と広さだろう。
 がらんとした空間で、リビングの窓からは、四畳半くらいのテラスごしに、ダメジャンの中心街の摩天楼と、すすけた三、四階だての雑居ビルがごちゃごちゃしている通りが見える。
 京旗は、まず、渡された名簿を手に、ソファに寝そべると、ためつすがめつ眺めた。
 義父と義妹は誰か、推理してみる。
――ダメだ……。どの家族がそうか、ぜんぜんわからん。
 世帯主の名と世帯の人数は書いてあるが、家族の年齢や名前は書いていない。世帯の人数が二人となっていても、父娘ではなく、夫婦のほうが多いだろうし。
 逆に言うと、父子家庭だと分かれば、そこが兆胡の再婚相手だとほぼ一発で確定なんだけど。


 朝日が昇った。
 スコールと苛烈な熱帯の太陽にさらされ、すっかりいたんだ飛行場。前日、京旗が降り立った、ワール国の首都に隣接した国際空港だ。チャーター機で、今、一人の男が降り立った。
 磨き上げられた革靴。仕立てのいいスーツ。若々しく、洒落たネクタイ。少し肥満体型だが、どこからどう見ても、ヤングエグゼクティブだ。この国に、どんなビジネスチャンスを見込んでやってきたのか。まさか、左遷されてきた男には見えない。
「ここが、ボクの新しい仕事場――いや、戦場か」
 薄いサングラスの下で、ギラリと目を光らせる。
 ほどなく、フランス産の高級車が、ダメジャンの中心区、プラトーンへと滑り出した。
 ラグーンを超えていく長い長い橋、窓からチラと彼が見下ろしたラグーンが、白っぽい靄を漂わせていた。


 橋の欄干から、釣糸を垂れている釣り人。その後ろを、ぴかぴかのルノーは走り抜けたが、少し離れた水面にいた彼女は、注意を払わなかった。
 彼女とは――。朝靄の中、日本人の少女が一人、ボートを浮かべている。
 靄の中、近付いてくる別の一艘。
 エンジンの音が、ドッドッドッと聞こえてくる。
 片手をあげて、挨拶をするあゆ。釣りは一時中断で、リールを巻き上げる。
 アフリカ人の老人と若者が、エンジンを止め、舷が接するほどに近付けて、舳先を仲良く並べた。黒い笑顔に、歯が白い。
「そいでな、金めのものを抜いたあと、カバンは海に捨てたんだってよ」
「う、わー……それは、困ったな」
 京旗がもしここに居ても聞き取れまい、ばりばりのムサ・フランセ――ワール国のアフリカ訛りのフランス語。この国では「太郎さん」と同じくらいありふれている「ムサさん」という名をつけて、ムサ・フランセ、いわば「太郎さんのフランス語」と呼ばれているフランス語――での会話。
 話を聞き終わると、あゆは、バランスを保ちつつ、船底に深くかがみこんだ。
 へらり、と笑顔を見せて差し出したのは、釣れたてのラグーンのテラピアの入った網だった。二五センチ級のものを、十数匹。まだ、ピチピチッと跳ねる。
 アフリカ人たちは、わいわいと喜び、大いに白い歯を見せて、その報酬を受け取った。笑い声が、ラグーンの表に跳ね返る。
 えてして彼らは、陽気でお喋り好きだ。
 二艘のボートは、しばらく一緒にラグーンの表に漂っていた。


 朝靄の晴れる頃。ダメジャンの中心街プラトーンの二三階だてのマンション。
「あのー、坊ちゃん」
「なんスかぁ?」
「あのー、わては何をすればいいんでしょうか」
「テキトーにすればぁ?」
 まともに返事が返ってこない。こちらを見もしない。
 アフリカ人の青年は、だー、と目の幅の涙を流した。
 その住戸には、カステラが焼けるような香ばしい匂いが、台所と言わず、リビングといわず、全室にたちこめていた。
 卵と小麦粉と砂糖の混合物をオーブンで焼成するときの、甘い幸せの匂いだ。
 京旗は、コックコートこそ着ていないが、作業着に最適の古着で、せかせかと立ち働いていた。

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