上 下
46 / 93
第五章 ラミアへの呪い

第二話 オートパック水着完成!

しおりを挟む
 オレと遠野さんが水泳の練習を始める。
遠野さんの尾ビレは、威力はすごいがまだうまく扱えていなかった。
人魚(マーメイド)モードで練習なんて、一人では怖くてできなかったのだろう。

脚はプールの底に付かないし、立って呼吸を整える事も出来ない。
子供のイルカが自分で泳げるようになるまで、母親イルカが補助するように、遠野さんにも誰かの助けが必要だったのだろう。

しかし、幻獣化を誰にも教える事ができなかったため、今までずっと泳げなかったのだ。人間モードの遠野さんは泳ぐのが下手で、二十五メートルを二分くらいで何とか泳ぎ切るレベルだ。

泳げるというか、浮いているというのに近いレベルだった。
本人としては、この人魚(マーメイド)モードを訓練し、二十五メートルを一分ほどで泳げるようになりたいと言う。

二時間ほどでコツを掴んだようで、何とか泳げる形にはなった。
しかし、人魚(マーメイド)といっても人間の肺だ。
エラ呼吸ができないため、息継ぎを学ぶ必要がある。

尾ビレは、バタ足以上の威力で水を押し出す推進力を得たが、まだ呼吸のタイミングや手の動きができていない。
これでは、泳いでいる内に呼吸困難で、倒れてしまう危険があった。
人魚が市民プールで溺れる。新聞記事にも載りそうなタイトルだ。

人魚(マーメイド)というと泳ぎがうまい感じがするが、現実はそれほどうまく泳げる体型ではない。
クロール、立ち泳ぎ、息継ぎなどをマスターして、初めて溺れる心配がないと見ていられるレベルだった。

三時間ほど練習して、ようやく遠野さん一人でも回游できるレベルになり、オレと水霊(みずち)は休憩する。

オレが辺りを見廻していると、白いワンピースを着た髪の長い女子が、泳いでいるのか、浮いているのか、分からない動きをしていた。
オレは心配になり、近くへ寄ってみる。

懸命に泳いでいるようだが、あまり前進していなかった。
彼女が息継ぎするため立ち上がると、オレと目が合う。
「あ……」と言う言葉と共に、オレと彼女がお互いの存在を理解した。
美味く泳げていない少女は、オレのクラスメートだった。

「メアリー、お前も市民プールに来ていたのか?」

「ああ、来週には、ホオジロザメと一緒に泳ぐからな。
ある程度は泳げるようになっておかないと……」

オレが上から見た限り、メアリーの泳ぎは子供のアザラシその物。
海の怪物にとって、格好の獲物だった。
むしろ練習しない方がまだ助かるんじゃないだろうか? 
ああいう海獣は、人間を恐れて近寄って来ないと聞く。

しかし、ダイバーやサファーが襲われるのは、彼らの動きが獲物に近く見間違えるためだ。
まあ、純粋に餌として襲う事もあるのだろうが、怒っていない限り危険は無いと言う。
でも、メアリーの動きは、サメの本能を刺激するような動きだった。
どう見ても好物のアザラシにしか見えない。
本当に、泳ぎの練習をしたくらいで大丈夫なレベルなのだろうか? 

オレと遠野さんはイルカと一緒に泳ぐ。
その後で、メアリーと鏡野がサメと泳ぐ。
最悪死なない様な設備が整っている事だろう。
そう願うしかない。
オレは気を取り直してメアリーに訊く。

「今日は、お前一人なのか? 誰か一緒に来たりしていないのか?」

「いや、僕の研究所の研究員が一緒だぞ! 
天才発明家だが、粗忽者で、掃除もうまくできない奴だ。
僕と気は合うが、自分の弟子に手柄を全部持って行かれている素晴らしい奴だよ。

寝ずに研究に励んで、気が付けば弟子が特許を取得しているという悲しい研究員だ。
最近では、その弟子達も謎の事故や病気が多発して、死亡しまくっている。
僕の祖父(ジジイ)が孤児を引き取って育てているのだが、その中でも超優秀なエリートだよ。

名前はラミアで、祖父(ジジイ)はそう名付けた事を後悔しているらしい。
まさか、幻獣のラミアと同調(シンクロ)するとは、夢にも思わなかったらしいが……。
そのラミアの弟子が、スマートフォンのカバーを取り付けるだけで防水加工し、水中でもカメラ機能と操作ができるという発明品を作ったから、今度の土曜日に発表するそうだ。

実際に自分でプールに潜り、スマートフォンが防水加工されていて、操作機能ができる事もアピールするらしい。
ラミアはその時の補助役に抜擢されたから、ここで泳ぎの練習をしているんだ。
まあ、たぶん必要ないんだろうけど……」

「ほう、世の中には、悲しい研究員もいるんだな……」

「成功する奴がいれば、失敗する奴もいっぱいいる。
大切なのは、諦めずに努力し続ける事だ。
ラミアは、失敗続きで、大きい成功を逃しているのも関わらず、努力し続けているからな。
僕も見習わないといけないと思い、尊敬も込めて、ライバルにしている! 
ホント、アイデアはバンバン思い付くのに、弟子にバンバン特許を奪われているんだ。
見ていて飽きないぜ!」

メアリーは、無表情な顔で笑ってそう言う。
弟子が謎の死を遂げているというのは気になるが、深入りしてはいけない事と思い、オレは沈黙する。
そろそろ遠野さんが心配だ。
いくら泳げるようになっているとはいえ、まだまだ不慣れな身体。
人魚(マーメイド)が泳いでいると、騒ぎになっても困るからな。

そう思って遠野さんの方に寄って行くと、メアリーも付いて来る。
遠目から遠野さんの姿が気になったのだろうか? 
眼が獲物を狙うハンターの様になっていた。
オレがまずいと気付いた時にはもう遅い!
 水霊(みずち)と一緒に泳いでいる遠野さんに、メアリーは近付いていく。

(バカな……。
さっきまでと違って、オレよりも速く泳ぐだと……。
本来の身体能力以上の力を、エロパワーにより発揮したというのか……)

オレはそう考えるが、真実は分からない。
分かっているのは、身体的にオレより劣るメアリーが先に辿り着いたという事実だけだ。メアリーは、遠野さんの幻獣化を的確に理解し、こう尋ねて来る。

「えるふ、お前今ノーパンか? 髪の毛を解いて良いかな? 良いよね! 女同士だし!」

メアリーは、遠野さんの三つ編みを解き、ツインテールにする。
人魚(マーメイド)モードからオーガモードに変わり、遠野さんの下半身が露わになる。色っぽい二つの脚が、オレの距離からでも確認された。

「ほほう、オーガモードですか……。そういえば、髪の毛が緑色ですな。
下の方はどうなっているのでしょうか? 水中ゴーグルをかけて、確認作業に移ります!」

メアリーが水中に潜り、遠野さんの下半身を確認しようとするのを、水霊(みずち)が止める。
かなりの危険度を感知したらしい。

「ちょっと、遠野さんが嫌がっているでしょ。
女の子だとしても、やって良い事と悪い事があるのよ!」

「バカ者! 僕は医者だ! 
世界中では、こういう症状で苦しんでいる若者が多くいるんだ。
それを何とかしてでも解決してやりたい。その第一歩が確認作業なのだ! 
素人が口を出して良い問題ではない!」

メアリーの圧力に押され、水霊(みずち)は警戒を緩めた。
プロという肩書は、経験のない者を黙らせるだけの威力がある。
水霊(みずち)がひるんだ隙に、メアリーは遠野さんの下半身を確認する。

「うむ。まだ下の毛はうぶ毛程度しか生えていないね。
緑色になっているかは確認でき無かったよ。
まあ、形の良い縦筋だったし、異常は無いようだね!」

水中から顔を出したメアリーはそう言う。そして、仲間を呼び集める。

「おーい、ラミア! こっちへ来い! 面白い物が見られるぞ!」

メアリーの声を聞き、プールサイドにいた女性が動き出す。女性の泳ぎも速かった。
オレよりも後に動き出したはずなのに、オレよりも早く遠野さんの元に辿り着いていたのだ。
そして、遠野さんに近付き、下半身を確認する。
水中ゴーグルもしており、メアリーと同じ反応をする。

「ほほう、良いね、良いね。なかなか綺麗な縦筋だよ。
これを市民プールで見られるなんて、滅多にないな……。
記念に写真でも撮ってみますか?」

興奮する二人の女医に、水霊(みずち)は問いかける。

「あの、そこは異常ないんでしょ? 人魚の下半身を見た方が良いんじゃないですか?」

「うんニャ、そっちは興味が沸かないね。
魚のヒレ見たって、嬉しくはないよ。
どうせなら、ブラも外して、オッパイの触診をした方が良いね。
そっちの方が興奮するよ!」

「もう、医学の研究じゃないですよね。そのコメントは……」

水霊(みずち)は呆れて二人を見ていた。
二人が遠野さんに触る前に、オレは何とか追い付く。
遠野さんと、危険な二人組の間に割り込み、自分の彼女を守る。
ちょっと遅れたけど、彼女達の行動がエスカレートする前に付いて良かった。

「あちゃー、彼氏が到着しちゃったか……。悪戯はここまでだね。続きはまた今度だね」

「まあ、今度はゆっくりと研究すればいいさ。
それよりも、公共の施設でノーパンというのは不味くないか? 
今日は良いけど、学校だと危険だぞ!」

メアリーがもっともな事を言う。
オレだって何とかしたいが、どうする事も出来ないんだ。注意されても困る。
オレが返答に困っていると、ラミアとかいう女性がこう提案して来た。

「なら、私が遠野ちゃんにふさわしい水着を開発しましょうかね。
要は、人魚(マーメイド)モードの時には開いて、人間モードの時には閉まる水着を作れば良いわけですよ。
磁石(マグネット)の力を使えば、人魚にも優しい水着が作れます!」

こうして、ラミアさんは一晩をかけて、遠野さんのためにオートパック水着(自動で下半身を包み込んでくれる水着。必要に応じて開閉できる)を作ってくれた。
翌日の朝には、プロトタイプを渡され、一週間かけて実用的に仕上げられる。
しかし、特許を申請するも、須要性は無く、遠野さん専用の水着となったらしい。
ようやく巡って来た数少ないチャンスだったのに……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:97

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,038pt お気に入り:6,130

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,771pt お気に入り:1,321

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,062pt お気に入り:4,073

女性探偵の事件ファイル

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

亜流脚本家の探偵譚~犬神家の一族への憧憬~【改訂版】

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:1

ダブルネーム

ミステリー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:4

【完結】婚約破棄の代償は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:894pt お気に入り:384

【完結】天使がくれた259日の時間

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:10

処理中です...