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文明スキップ (やや失敗)
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文明の発達には、それなりの機序がある。
というか、あるはずなのだ、本来は。
だが私の場合、手当たり次第に出来ることから始めているため、後先なんて完全無視だ。
マイ・畑もなかなか充実してきているが、これだって本来は、煮炊きや保存の技術発達が前提のはず。
防水性があり、火にかけることができる器、すなわち……土器の存在が必須なのである。
だが、今のところ土器はない。
手頃な砂岩を削って作った石皿で何とか代用できているが、浅いし重いし、何かと不便だ。
密に編んだ袋に樹脂を染ませて作った壺で、水瓶なんかの代用はできているのだが、如何せん火にはかけられない。
やはり鍋として使うには、土器が必要だ。
一応、努力はしている。
前世における義務教育では色々と面倒な事を習わされたものだが、そうした知識の断片を繋ぎ合わせると、結構実用性を帯びてくる。
図工で作って、廃棄もできずに長年の邪魔と化した陶板作りとか。
粘土のヒモをぐるぐる巻いて作ったものの継ぎ目がひび割れて2センチしか水が入らない湯飲み制作とか。
あの人生において陶器を造るなんて機会は86年間でそれっきりだったが、今となっては貴重な体験だったと言える。
目下は、粘土っぽい土を見かけては試作を繰り返してみている。
こねて、形成し、乾かしてはかまどで焼いてみるのだ。
最初は、ホロホロ崩れてしまうただの焼けた粘土の塊ができた。
その後、土鍋のザラつきを思い出して砂を混ぜたり、料理よろしく生地をなじませるために寝かしたりと工夫を重ね、何となく陶器っぽいモノに近付きつつはある。
歴史でも、石器や土器の発達なんて、正直、その道のマニアが知ってりゃいいんじゃないの? とか思っていたものなのだが……。
実際ゼロからそうした概念を生み出すのには数百年単位の年月をかけて偶然の発見と試行錯誤を繰り返す必要があるところを、ほんのちょっとの経験や、下手したら図画をチラッと見た事があるだけで、大幅にスキップできてしまうのだ。
私が生まれた時点のこの世界は、おおむね石器時代になるかならないか程度の発展具合であった。
火も扱えてはいなかったし。
手頃な石を掴んで武器にしたり、道具にしたりで、加工するという概念までは生まれていなかったのだ。
だとすると、ここから土器を発明するには、数万、数十万年を要するのが本来である。
土器が発明されて始まった縄文時代からでさえ、安定した農耕集落ができる弥生時代までには1万年を要したはずだ。
その辺をすっ飛ばして畑を作っている私は、色々とあるべき歴史を乱してしまっているのだろうが、かといって快適な生活追求を諦める気は全くない。
土器に限らず、生活調度の改善は余念なく取り組んでいる。
色々な素材で繊維を作っては、糸を撚って、編んでみたり。
様々な樹脂でコーティングを試したり。
編み物はとにかく最高の強みだ。
作りたい形はほぼ作れる。
目の荒さも自由自在だし、伸縮性のある細い帯紐なんかもできて、めちゃくちゃ便利だ。
大きな円形の網も編んで、周囲に重りをくくりつけ、簡単な投網もゲットした。
編み物、たいして好きではなかったけれど、老後のボケ防止にやっといて本当に良かった……。
細目の糸ができたので、ものすごく単純な布も作った。
織機のように複雑怪奇な機構を作る知識も技術ももっていなかったので、二本の棒の間にぐるぐる巻き渡した縦糸を、上下交互に横糸ですくい取って行くだけだ。
面倒くさいが、横糸の押さえ具合で布の柔強も調整できるので、意外にいい感じの布ができるようになってきている。
この生活は、今や結構快適だ。
ちょっとサバイバルなキャンプみたいなレベルにはなっているだろう。
だが、5か月程が経つと、さすがに孤独が堪えてきてしまった。
実は独立してからずっと、紐に結び目をつけて日数を記録しているのだが、目下30個分の紐が5本溜まっているわけだ。
持ち運びできるし、壁にペケ印をつけるよりも数えやすいので、これで日数の把握が随分としやすくなった。
ところで、数字で見ると、月日というものは妙に長く感じたりする。
そうか……、半年近くも孤独だったんだ……。
もしかしたら、これはちょっと、ダメかもしれない。
孤独な発育環境は、知能の停滞や情緒の欠落を招くと言うではないか。
いや、前世の記憶を引きずっているのでその辺は大丈夫かもしれないが、老若問わず、孤独は痴呆を招きやすい。
せっかく最初の人生で86までボケずに生きたのに、こんな原始世界で頭まで原始に還るのは嫌だ。
それに、一人ではできないこともたくさんある。
大きな獲物を狩ったり、建物を造ったり。
一人で生きて行くつもりでいたが、ちょっと考え直す必要がありそうだ。
というか、あるはずなのだ、本来は。
だが私の場合、手当たり次第に出来ることから始めているため、後先なんて完全無視だ。
マイ・畑もなかなか充実してきているが、これだって本来は、煮炊きや保存の技術発達が前提のはず。
防水性があり、火にかけることができる器、すなわち……土器の存在が必須なのである。
だが、今のところ土器はない。
手頃な砂岩を削って作った石皿で何とか代用できているが、浅いし重いし、何かと不便だ。
密に編んだ袋に樹脂を染ませて作った壺で、水瓶なんかの代用はできているのだが、如何せん火にはかけられない。
やはり鍋として使うには、土器が必要だ。
一応、努力はしている。
前世における義務教育では色々と面倒な事を習わされたものだが、そうした知識の断片を繋ぎ合わせると、結構実用性を帯びてくる。
図工で作って、廃棄もできずに長年の邪魔と化した陶板作りとか。
粘土のヒモをぐるぐる巻いて作ったものの継ぎ目がひび割れて2センチしか水が入らない湯飲み制作とか。
あの人生において陶器を造るなんて機会は86年間でそれっきりだったが、今となっては貴重な体験だったと言える。
目下は、粘土っぽい土を見かけては試作を繰り返してみている。
こねて、形成し、乾かしてはかまどで焼いてみるのだ。
最初は、ホロホロ崩れてしまうただの焼けた粘土の塊ができた。
その後、土鍋のザラつきを思い出して砂を混ぜたり、料理よろしく生地をなじませるために寝かしたりと工夫を重ね、何となく陶器っぽいモノに近付きつつはある。
歴史でも、石器や土器の発達なんて、正直、その道のマニアが知ってりゃいいんじゃないの? とか思っていたものなのだが……。
実際ゼロからそうした概念を生み出すのには数百年単位の年月をかけて偶然の発見と試行錯誤を繰り返す必要があるところを、ほんのちょっとの経験や、下手したら図画をチラッと見た事があるだけで、大幅にスキップできてしまうのだ。
私が生まれた時点のこの世界は、おおむね石器時代になるかならないか程度の発展具合であった。
火も扱えてはいなかったし。
手頃な石を掴んで武器にしたり、道具にしたりで、加工するという概念までは生まれていなかったのだ。
だとすると、ここから土器を発明するには、数万、数十万年を要するのが本来である。
土器が発明されて始まった縄文時代からでさえ、安定した農耕集落ができる弥生時代までには1万年を要したはずだ。
その辺をすっ飛ばして畑を作っている私は、色々とあるべき歴史を乱してしまっているのだろうが、かといって快適な生活追求を諦める気は全くない。
土器に限らず、生活調度の改善は余念なく取り組んでいる。
色々な素材で繊維を作っては、糸を撚って、編んでみたり。
様々な樹脂でコーティングを試したり。
編み物はとにかく最高の強みだ。
作りたい形はほぼ作れる。
目の荒さも自由自在だし、伸縮性のある細い帯紐なんかもできて、めちゃくちゃ便利だ。
大きな円形の網も編んで、周囲に重りをくくりつけ、簡単な投網もゲットした。
編み物、たいして好きではなかったけれど、老後のボケ防止にやっといて本当に良かった……。
細目の糸ができたので、ものすごく単純な布も作った。
織機のように複雑怪奇な機構を作る知識も技術ももっていなかったので、二本の棒の間にぐるぐる巻き渡した縦糸を、上下交互に横糸ですくい取って行くだけだ。
面倒くさいが、横糸の押さえ具合で布の柔強も調整できるので、意外にいい感じの布ができるようになってきている。
この生活は、今や結構快適だ。
ちょっとサバイバルなキャンプみたいなレベルにはなっているだろう。
だが、5か月程が経つと、さすがに孤独が堪えてきてしまった。
実は独立してからずっと、紐に結び目をつけて日数を記録しているのだが、目下30個分の紐が5本溜まっているわけだ。
持ち運びできるし、壁にペケ印をつけるよりも数えやすいので、これで日数の把握が随分としやすくなった。
ところで、数字で見ると、月日というものは妙に長く感じたりする。
そうか……、半年近くも孤独だったんだ……。
もしかしたら、これはちょっと、ダメかもしれない。
孤独な発育環境は、知能の停滞や情緒の欠落を招くと言うではないか。
いや、前世の記憶を引きずっているのでその辺は大丈夫かもしれないが、老若問わず、孤独は痴呆を招きやすい。
せっかく最初の人生で86までボケずに生きたのに、こんな原始世界で頭まで原始に還るのは嫌だ。
それに、一人ではできないこともたくさんある。
大きな獲物を狩ったり、建物を造ったり。
一人で生きて行くつもりでいたが、ちょっと考え直す必要がありそうだ。
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