貴方がここに来ないから~婚約破棄予定の聖女見習いは静かに微笑む~

ハギレ

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「息子が……選んだだと?何を莫迦な事を言っている」

「そうよ、あの子は騙されたのよ」

陛下と王妃様が口々に言い募る。

「そうとしか考えられないのです」

私は静かにそう言った。

「言い訳?力不足の言い訳で誤魔化さないで!」

令嬢は相変わらず感情的に騒ぎ立てる。

「いいえ、私は殿下に手紙を書きました。このままではお命に関わると。これから聖女となり忙しくなるのは分かってましたから、その前にこれからの事を話し合いたい。卒業式のエスコートも兼ねて、朝から時間を作ってくださいと」

学園へ向かう馬車の中でなら、話す時間も取れる事でしょう。

卒業式に婚約者をエスコートするのは当たり前の事ですが、それでも念押しして手紙を書きました。

「陛下、教皇様、宰相様にも殿下の卒業式のエスコートの件はお伝えしておりました。そうですよね、宰相様」

そこで部屋を見渡し、三人に確認するように言った。

「あぁ、ドレスを手配した」

「その際、殿下にもエスコートは必ず私とする旨、念押ししてくださいとお願いしておりましたよね?」

「あぁ、殿下に念押しした……」

宰相様は答えてくれましたが、あとお二人はなんとも言い様のないお顔でした。

多分、読んていないのでしょう。

「朝にも何度目かの確認をして殿下から「うるさいな、わかっている」といつもと違い、返事を貰いました。それなのに何故……」

宰相様は口うるさく殿下に接したのかもしれません。

「わたくしが悪いとでもいうの?そんなの言い掛かりよ!」

エスコートされた令嬢は叫びましたが、婚約者のいる殿方にエスコートされる事が、さすがに異常な事だとは思わなかったのでしょうか?

「別に言い掛かりではありません。事実でしょう、貴女をエスコートした事は。だから思うのです。殿下はそうして、平民である私との事は拒否する。例え自分のお命に何ら影響が出たとしても」

そう、例え死んだとしても……お嫌だったのでしょう。

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