貴方がここに来ないから~婚約破棄予定の聖女見習いは静かに微笑む~

ハギレ

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部屋を出て行く私と入れ違いに、女性が飛び込んできた。

「もう、大丈夫よ」
「お姉様~」

何が大丈夫なのか分からないが、女性の自信に満ちた声と、ご令嬢の涙声がまだ閉まりきらない扉から聞こえて来た。

あの方は、確か他国の聖女。

母親がこの国の方で、よく大使と一緒に訪れていらっしゃった。
ご令嬢との縁者だったのね。

自信ありげにいつも色々私に言っていたのは、あの聖女から何か聞いていたのでしょうね。

そして、ご令嬢の鳴き声にかき消されながら宰相の声が聞こえ、扉が閉まった。

私が衛兵に連れられ通路の角を曲がりかけた辺りで、宰相と教皇様が部屋から出てこられ、執務室のある方へと歩いて行った。

衛兵の足は、私の歩幅等気にせず歩くので私はつられて急ぎ足になる。

王城を出た辺りでポイと投げ捨てられ「とっとと出て行け」と冷たく言って城へ戻って行った。

「乱暴たよな。大丈夫か?膝擦りむいてないか?よしよし大丈夫そうだな」

「ん~~~!?」

いくら幼い頃を知っているからといって、突然私の裾をめくり服をパンパンと払うのはどうなのよ!

「私もう成人なんだけど?」

「明日だろう?まだこどもこども。……でどうだった」

最初茶化した声は、真剣な声に変わった。

「今は殿下の中で一番奥にある封印が解けかけているところ。あんたの大好きなマザーが手伝ってくれた封印だから、周りの人は殿下を悼む時間がとれているわよ」

「……マザーは、本当に心根の優しい人だったから」

マザー……聖女でもないのに、孤児院の子供達を云わば人質にされ、それでも子供達を犠牲にして身も心も尽くした人。

孤児院出身の御者である男と二人、王城を離れながらマザーの事を偲んだ。
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