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第十九話 誇り

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「お望み通り、本気でやらせてもらうよ!」


 まずはナイジェルが先制攻撃を図る。


「水よ、我が敵を撃ち抜く弾となれ!水の弾丸!〈アクアバレット〉」


 ナイジェルが発射した『水の弾丸〈アクアバレット〉』は真っ直ぐにメキラへ向かって発射された。


「ふん!使徒の本気はどんなものかと思えば……所詮はただの魔法を発動するだけか。どうやら期待はずれだったようだ」


 メキラは全身を鉄に変質させて、たやすくそれを防いでみせる。


 その身体には傷一つついていない。


「それじゃ、期待に応えてあげるよ。水の弾丸よ、我が敵を撃ち滅ぼせ!水の小銃!〈アクアバレット・ライフル〉」


 ナイジェルが詠唱を始めると同時に『水の弾丸〈アクアバレット〉』の形状が鋭く変化する。


 更にナイジェルの背後を覆い隠すように、大量の弾丸が生成された。


「さぁ、どう防ぐ?」


 ナイジェルは不適な笑みを浮かべてから、腕を振り下ろした。


 するとナイジェルの背後に浮遊している大量の弾丸が、メキラに向かって発射された。


「数が増えようと結果は変わらん!」


 メキラは再び、防御の構えを取った。


 ナイジェルが放った大量の鋭い弾丸は、次々とメキラの全身に直撃していく。


 だが、決定的なダメージを与える事はできなかった。


「ふん、豆鉄砲でしかないな」  


「なるほど、君のスキルはかなり厄介なものと考えてよさそうだね」


 ナイジェルは、ふぅむと顎に手を当てる。


「悠長に考えてる暇があるのか?」


 メキラは部屋に転がっている椅子を槍に変質させ、ナイジェルに向けて投げつける。


「おっと危ない!」


 ナイジェルは槍を回避するが、そこに二本目の槍が投げつけられる。


「ぐぁっ……!」


 二本目の槍を回避することができず、ナイジェルの左肩を貫いてしまう。


「槍が一本だと思ったか?どうやらお前のスキルも、常に人の心を読めるわけでは無さそうだ」


「くっ……確かに君の言うとおりだよ……だけどね……!」


 ナイジェルは痛みで顔を歪めながら、左肩に刺さった槍を抜く。
 

「僕のスキルはね、正確には心を直感的に感じる事ができるんだ……これがどういう事か分かるかい……?」


 ナイジェルは左肩から流れる血を抑えながら、メキラに問いかけた。


 だがメキラはナイジェルが何を言っているのか理解できず、首をかしげている。


「僕には君のスキルの正体と突破法が、直感的に読めているって事さ!」


 さすがナイジェルだ。


 いつ心を読んでいるのか分からないのが彼の強みだ。


 しかし流れた血の量が多かったのか、ナイジェルはかなりフラついている。


「出まかせはよせ、ナイジェル第二王子よ。いくら心を読んだとはいえ、俺のスキルの突破法をそう易々と考えつくものか」


 メキラは明らかに弱っているナイジェルを見て嘲笑う。


 そしてトドメを刺そうと、ナイジェルの元へ走り出した。


「トドメだ、ナイジェル第二王子よ。使徒の力というのも大した事はなかったな!」


 メキラの鉄の右腕が、ナイジェルの顔面に振りかざされたその時だった。


「このタイミングを待っていたんだよ!」


 ナイジェルの言葉と共に、突如としてメキラの周囲に強力な風が吹き荒れた。


「ぐっ……ぐぉぉなんだこれはぁぁ!」


「上級風魔法『嵐の包囲網〈アラウンドストーム〉』だよ。君が呑気に僕を嘲笑っている時に詠唱しておいたんだ」


 いつの間に……!


 ナイジェルは、完全にメキラの一手先をいっているな。


 案の定メキラは、強力な風に動きを封じられている。


「だがこれがなんだ!俺の動きを封じたところで、お前はこの鉄の身体に傷一つつけられなかったではないか!」


「鉄ならね、だけど違う物質だったらどうかな?」


「何を言って……ハッ!?なんだこれは!」


 メキラが驚くのも無理はない。


 なんとメキラの身体が、どんどん茶色く変色していっているのである。


「酸化だよ、簡単に言うと錆びってやつだね。鉄は酸素に触れると酸化鉄という物質に変わるんだ」


「ハァ……?俺にも分かるように言え!」


「はぁ……つまり錆びると鉄は脆くなるんだ。更に君は濡れた状態で、強力な風を浴び続けているんだ。これがどういう事か分かるかい?」


「分からないと言っている!クソッ……体の動きが鈍くなってきた……!」


「空気中にはもちろん、水にも酸素が含まれている。つまり、ずぶ濡れで大量の風を浴びている君の身体は錆びてボロボロに腐食しているって訳さ。」

 
 すごいぞナイジェル。


 腐食している状態なら必ず攻撃が通るはずだ。


 だが一つ疑問がある。


「なぁナイジェル、なんでメキラは身体の鉄化を解除しないんだ?」


「ラルフ君、彼はしないんじゃない。出来ないんだよ」


 どういう事だ?


 俺は首を傾げる。


「彼のスキルは強力だが制約もある。最初は、物質を何にでも変質できるんだと思っていたけどね。簡単なカラクリだったよ」


「一体どんなカラクリだったんだ?」


 俺にはさっぱりわからない。


「彼は触った事のある物質にしか、対象を変質出来ないんだ。更にその数にも制限があるんだろうね。」


 更にナイジェルは続ける。


「彼は門番の兵士に自分を変質させていただろ?その際に、兵士の身体、鉄の鎧、槍、自分の服という順番で触っているはずだよ。だからこの戦闘では、それ以外の物質に変質させる事ができなかったんだ」


「なるほど、事前にダイヤモンドでも触っておいて変質させれば硬度や性質共に最強だ。わざわざ鉄に変質させる理由がない。つまり制限があるのは確定だな」


「その上でだけど、彼は触った物質にしか変質できない。つまりその逆もあり得るよね。解除する際も、鉄の状態じゃないといけないんじゃないかな。鉄が酸化鉄に変化したことが原因で、解除が出来ないんだと僕は推測してるよ」


 ナイジェルは『千里眼〈サイトビジョン〉』で直感的にこれらの事を感じたのかもしれない。


 だが、普通の人間はこんな情報量を一瞬で整理は事は不可能だ……


 ナイジェルの才能は本物だ。


 彼と仲間になれて本当に良かった。


「クソォォォ!!俺の計算では!『変質者〈スリラー〉』のスキルを攻略される事など、あり得なかったというのにぃぃ!」


 メキラは自分の計算が及ばず、吠えて悔しがっている。


「君の敗因は二つだ。一つは君の頭が悪かった事」


 確かにこいつは馬鹿だったな。

 
「もう一つは、僕が天才だった事さ。相手が悪かったねっ」


 そう言うとナイジェルは詠唱を始めた。


「水よ、我が敵を殲滅せよ!『沛雨の弾幕!〈バラシュバラッド』


「あり得ない……!やめろ……!やめろぉぉぉ!」


 王級水魔法『沛雨の弾幕!〈バラシュバラッド』が発動すると、激しい雨のような水の弾幕が腐食したメキラの身体を崩していく。


「あぁ……ビカラよ……あとは頼んだぞ……」


 メキラはそう言い残し、激しい雨にのまれていった。


「どんなもんだい……!」


 ナイジェルもギリギリだったのか、膝をついてしゃがみ込んだ。


「ラルフ君、どうだった?」


 ナイジェルがこちらに笑顔を見せる。


 だがその様子から、かなり無理をしているのが伺える。


「ナイジェル、充分だ。お前は俺の仲間だ」


「ハハッ……ラルフ君が認めてくれた~」


 俺はナイジェルの肩に手を置いて賞賛する。


「ねぇラルフ君、あいつ最後に何か言ってたよね?ビカラよ~なんたら~って」


 ビカラ……


 名前からして十二司将の一人だろう。


 そういえばメキラは侵入者は二人と言っていたな……


 あれがメキラと、そのビカラという奴の事だとしたら……


「ニア達が危ないかもしれない……!」


 すぐにニア達の元へ向かわねば。


 だがナイジェルの傷も心配だ……


 どうすればいい……


「ラルフ君、僕の事はいい……三人を、姉さんを助けに行ってあげてくれ」


 ナイジェルは息を切らしながら俺に訴えかける。


「だが、お前の傷を放置する訳にもいかない!」


「これくらい自分でなんとかするよ。僕は第二王子だからね!さぁ、早く行ってくれ!」


 そう言うとナイジェルは、肩に置かれた俺の手を振り払った。


「わかった……三人は必ず助ける。すまないがナイジェル、助けが来るまで耐えていてくれ……!」

 
 ナイジェルは無言で頷いた。


 そして俺は、ニア達三人の元へ全力で走り出したのだった。
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