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第三十三話 旅立ち

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「ナイジェル……本当にいいのか?学園もしばらく休むことになるんだぞ……?」


「学園については王族の力で何とかするさ。それに、ラルフ君は僕の同志だからね。ラルフいるとこにナイジェルありさ」


 学園の入学式を終えた翌日、早速俺は帝国へ出発しようとしているところだ。


 ルーナには準備ができたら迎えに行くから、魔道具で連絡してくれと言ってある。


「そう言ってくれるのはありがたい、だけどその……ものすごい視線を感じるんだが……」


 俺は帝国の調査をするにあたって、ナイジェルの力が必要だと思い、一緒に来てくれないか頼んでみたのだ。


 するとナイジェルは快く快諾してくれたのだが、ナイジェルのファンクラブの皆様から激しい嫉妬の視線を浴びる事になってしまった。


「またあの平民よ、一体何様なのかしら!?」


「ナイジェル様とお近づきになりたいなら、まずは貴族に生まれ変わってから出直してきなさいよ!?」


 生まれ変わった結果がこれなんだがな。


 ファンクラブの皆様は、俺がナイジェルと仲良くなった事が気に入らずブツブツと文句を垂れている。


 ここまで激しく非難されると、前世でいじめられていた事を思い出すな……


 せめて俺に聞こえない様に言って欲しいものだ。


 すると、それを見兼ねたナイジェルが口を開く。


「君たち、ちょっといいかな?」


「「はい!ナイジェル様!」」


 ファンクラブの皆様は、うっとりとした表情でナイジェルを見つめている。


 いけいけナイジェル!


 ここは王族として、平民差別をする貴族たちに公開説教だ!


「美しい薔薇には棘があるって言葉があるよね?この言葉は悪い意味で使われがちなんだけど、僕は間違っていると思うんだ」


 ん……?


 一発かましてくれるのかと思いきや、突如ナイジェルの世界観語りが始まったぞ……?


「なぜなら僕が好きな赤い薔薇はね、棘すらも美しいんだ……!この意味がわかるかい?」


 わかるか!!


「「はい、ナイジェル様……!」」


 お前らはわかるんかい!!


「ナイジェル様が……わたくしの事を美しいと……」


「わたしなんかの事も薔薇に例えてくださるなんて……」 


 いや、やっぱりわかってなさそうだな……


「わかってくれて嬉しいよ、いつも応援してくれてありがとう」


 ナイジェルはそう言うと、笑顔で前髪をかきあげる。


 何故かその動きには、キラキラとしたエフェクトがかかっている様に見える。


「ナイジェル様……!わたくし達が間違っておりましたわ!これからもずっと……陰ながら応援しております……!」


 そう言ってファンクラブの皆様は、赤くなった顔を両手で隠しながらキャッキャッと走り去っていった。


「これで邪魔者はいなくなったね」


「おぉ……なんというか……ありがとう……」


 女性を傷つけずに、俺のことをフォローしてくれたんだよな……?


 癖は強すぎたが……


 俺がナイジェルワールドに戸惑っていると、魔道具からジジジと音が鳴りだした。


「ラルフさん!準備ができました!」


「わかった、すぐ行く」


 ルーナからの連絡だ。


 俺はナイジェルに一瞬待っててくれと頼んで、ルーナの元へ転移する。


「わぁ!本当にすぐ来た!」


「すぐ行くって言っただろ?さぁ、掴まってくれ」


 俺はルーナに手を差し出す。


 ルーナは少し照れながら、差し出された手を握り返した。


「じゃあ、転移するぞ」


「は……はい!」


 初めての転移に緊張するルーナ。


 少し怖いのか、手汗がすごい。


 だが俺は、そんな事お構いなしにナイジェルの元へ転移した。


「さっ、着いたぞ」


「うわぁ!本当に一瞬です!」


 緊張から解き放たれたルーナは、少しテンションがあがっている。


「早かったねラルフ君。おや?隣の女性は初めて見る顔だね」


 ナイジェルはルーナの事をじっと見つめる。


「わわわ!初めまして、ルーナと言います!今回はラルフさんに無理を言って、ご同行させて頂けることになりました!よろしくお願いします!」


 ルーナは目の前のイケメンに明らかに動揺しながらも、しっかりと挨拶をした。


「うん、ラルフ君から聞いてるよ。僕はナイジェル。一応この国の第二王子だけど特に気にしなくていいからね、よろしく」


「あばば……第二王子様……?」


 ルーナはカチンコチンになりながら、そんな事は聞いてないと俺の方に首を回す。


「あ~……ごめん、言い忘れてた」


「そんな……!スティーブンスさんに続き、ラルフさんまで私をぞんざいに扱うんですか!?」


 ルーナ……


 普段スティーブンスからどんな扱いを受けているんだ……


「ごめんルーナ!これからは気をつけるから!」 

 俺はスティーブンスと違って本当にそんなつもりはなかったので、シクシクと肩を震わせているルーナに謝罪する。


「うぅ……信じてますからね……?」


 あぁ哀れなルーナ……


 そんな目で俺を見ないでくれ……


「フフッ、なかなか面白い旅になりそうだね」


 俺とルーナのやりとりを見て、ナイジェルは笑顔を見せる。


「あぁ、そうだな」


「はい……わたしもそう思います!」


 この二人には、ニアとケントとは違った居心地の良さがある。


 なんとなく俺もそう感じていた。


「それじゃあ、出発だ!」


 こうしてナイジェルとルーナ、新たな仲間との旅が始まった。


 
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