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第三十七話 侵入2

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 オークの集落内部では、つい先程まで推定百体のオークが生活していた。


 『つい先程まで』は、だが。


 時間は数分前に遡る。


ーーオークの集落内部


「無事に潜入完了だ!ルーナちゃん、この後もこの調子で頼むよ!」


「もう嫌です!」


「ありが……え?」


 無事にオークの集落に潜入した俺たちだったが、問題が発生していた。


「さっきは二体だけだったので受け入れましたけど……こんなに沢山のオークの前に一人で出て行くのはどうやっても無理ですぅ!想像しただけで悪寒がしてきました……」


「ルーナちゃん……そこを何とか……!」


 やはり流石に推定百体のオークを前に、一人で出て行くのは気が引けるよな……


 ナイジェルも作戦によほど自信があったのか、必死に説得している。


 というか、恐らくルーナの実力を確認するために囮にしたんだろうな。


 だからナイジェルは、ギリギリまで助けに入らなかったんだろう。


 しかしその判断が悪く転じて、ルーナは聞く耳ひとつもっていない。


 しょうがないな。


「俺が行こう。二人は後ろで見ていてくれ」


 さっさと片付けて帝国へ向かうとするか。


「そんなぁ!ラルフ君が行ったら僕たちは必要ないじゃないか~!」


 ナイジェルは、ルーナの実力が計れず不満そうにしている。


「うぅ……ラルフさん……!あなたは天使ですぅ!」


 ルーナはオークの前に出るのが本当に嫌だったのだろう、俺の手を握って涙目で見つめてきた。


「わかったわかった!何でもいいから大人しくしててくれ!」


 ここで俺の美人恐怖症が発動する。


 もう少しで、また身体が硬直するところだった……


「わかりました!大人しくしています!」


「やれやれ……それじゃ、僕もそうさせてもらおうかな」


 ナイジェルとルーナは建物の陰に隠れる。


 さぁ、準備はできた。


 久々に暴れるとするか!


「時間加速!〈アクセルブースト〉」


 俺は体感時間を引き延ばし、集落内のオークの首を刎ねまくる。


「ナンダ!シンニュウシ……」


「オイ!ナニガオコッテ……」


 オーク達は自分の身に何が起こってるのかも分からず、次々とただの肉塊へと化していく。


 一番大きなオークが群れに何やら指示を出しているが、オーク達は指示を聞く暇もない。


 まさに阿鼻叫喚とはこの事だ。


「オークも大したことないな。さて、オークキングの討伐に向かうとす……あれ?」


 気づいたら、集落にいるオーク全ての討伐が完了していた。


 マジックハイというものだろうか。


 魔法を使いまくるとテンション上がってしまって、少し周りが見えなくなる事がある。


 そういえば集落の一番奥には、一際ガタイのいいオークが椅子に座っていたのだが……


 集落の奥へ目を向けると、一体のオークが力なく椅子に座っていた。


 もちろん、そのオークにも首はついていない。


 どうやら、いつの間にかやってしまっていたみたいだ。


「Aランクって言っても、こんなもんか。まぁスキルのおかげだけどな」


 俺は討伐証明のために、オークキングの耳を切り落とす。


「終わったぞ二人とも~」


 二人の元へ戻ると、何だか空気がおかしい。


「ラルフさん……異次元すぎます……!!」


「ハァ~……ラルフ君に勝てる生物が存在する気がしないよ……」


 どうやら俺の強さに呆れてしまったのか、それとも衝撃を受けていたのか、二人とも途方に暮れていたようだ。


「ハハハ、まぁ無事に終わったんだしいいじゃないか!さぁ、帝国へいこう」


「はい!わかりました!」


 心なしかルーナの俺を見る目が、疑心暗鬼なものからキラキラしたものへと変わった気がする。


 やはり強さを見せるのが、信頼してもらうには分かりやすいな。


「やれやれ……まぁルーナちゃんの事は、またの機会でいいかな」
 

「え?何の事です?」


 やはりナイジェルは、ルーナの実力を計ろうとしていたみたいだ。


 当の本人は、何の事やらという感じだが。


 ルーナについては、いずれ実力が分かる時が来るだろう。


 さて……無事に依頼も達成した事だし、帝国へ向かうとするか!
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