ブラック企業マナー講師、異世界追放されたら魔族に爆ウケしました

ならん

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第2章 押し付けマナーの果てに ~正しさと孤独の分岐点~

18. お辞儀30度で魔法暴発!?

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 夜の城の地下、石壁の奥で空気が震えていた。松明の炎が青白く揺れ、魔法陣の紋様が床に浮かび上がる。ミラが中心に立ち、詠唱を始める。その声は静かで、少し息が混じっている。

「……風と火の境界に在りし力よ、我が名に応え——」

 俺は見ていられなかった。背筋が曲がっている。お辞儀の角度も中途半端だ。儀式とは厳粛な場であり、所作ひとつで空気が変わるのだ。

「ミラさん、少しだけよろしいですか」

「……何よ、今詠唱中なんだけど」

「お辞儀の角度が曖昧です。理想は三十度です。浅すぎると誠意が伝わりません」

「角度!? 今!? 今って言った!?」

 リディアが慌てて止めに入る。「おい正樹、やめろ! 集中してんだって!」

 だが俺は引かない。「姿勢の乱れは心の乱れ。魔力の流れにも影響が出るんです」

 その瞬間、ミラの手のひらの上で光がぐにゃりと歪んだ。

「ちょ、ちょっと!? 詠唱がズレ——」

 次の瞬間、魔法陣の線が赤く点滅した。リディアが「まずい!」と叫ぶ。空気が膨張し、耳が痛い。俺は思わず目を閉じた。

「ミラ、伏せろ!」
 リディアが飛び込み、ミラを抱えて転がる。直後、爆音。視界が真っ白になり、熱風が頬を焼いた。

 ——ドォンッ!

 数秒後、あたりは焦げ臭い匂いで満ちていた。天井の石が崩れ、部屋の壁には穴。俺は煤まみれで咳き込みながら立ち上がる。

「……ふぅ、まあ、ちょっとした調整ミスですね」

「どこがだあああああっ!!!」
 ミラの絶叫が響く。髪がぼさぼさで、服の裾が焦げている。リディアが「生きてるか!?」と声をかけると、「生きてるけど怒ってる!!!」と返った。

「だから言っただろ!」リディアが俺を睨む。「お前、黙って見てろって!」

「でも……角度が気になって」
「気にするな! 死ぬだろ普通!」

 ミラは立ち上がり、杖をこちらに突きつけた。「あんた! 二度と! 儀式に! 来るなっ!!」

「え、でも僕、魔法の安定化に貢献を——」
「してない! むしろ不安定化させたの!」

 怒鳴られ、思わず背筋を伸ばした。「……すみません。以後、慎みます」

 リディアはため息をついて天井を見上げた。ぽたぽたと落ちる水滴が、静寂に紛れて響く。

「……ミラ、けがは?」
「大丈夫。でも髪が焦げた。責任取らせるからね」

「どう責任取れば……」
「私の部屋、掃除しておいて」
「承知しました」

 俺は敬礼した。角度四十五度。ミラが無言で杖を振り上げる。「その角度がムカつく!!」

 リディアが慌てて割って入り、「待て待て! 爆発は一回で十分!」と叫んだ。だがミラの怒りは収まらず、杖の先から小さな火花が飛ぶ。俺は反射的に一歩下がった。

「な、何もしてませんよ! 今はただ誠意を——」
「誠意で燃えるわよ!」

 ぱちん、と火花が弾けて、俺の袖が焦げた。リディアが腹を抱えて笑う。「ざまぁ、少しは学べ!」

 俺は煤を払いつつ、深呼吸。「……確かに、角度より空気の方が大事ですね」
「今さらかよ!」リディアが突っ込む。

 そこへ、半壊した天井からひらりと一枚の紙が舞い落ちた。焦げ跡の残る古文書の断片だ。リディアが拾い上げ、「おい、これ……儀式の残りだな。お前が口出してなきゃ、成功してたかもな」
「うっ」
「でも」ミラが肩で息をしながら続ける。「あんたのせいで壊れたおかげで、隠れてた“古い魔法文字”が見えたわ」
「え?」
「結果的には助かったのよ。……ムカつくけど」

 ミラはその紙を大事そうに抱え、髪の焦げ跡を気にしながら立ち上がる。「リディア、解析手伝って。これ、昔の風系魔術の痕跡っぽい」
「ほう、掘り出し物だな」
「正樹、あんたは掃除。あと私の髪に謝れ」
「髪にも謝るのか……」

 俺は慎重に頭を下げた。「ミラさんの髪に、申し訳ありません。今度、艶出しオイルを——」
「要らない! 触るな!」

 リディアが笑いながら背中を叩く。「まあ、これで償えたんじゃねえか。爆発のついでに、成果も出たしな」

「……結果オーライですか?」
「お前が言うな」ミラとリディアが同時に突っ込む。

 しばらくして城の外に出ると夜風が冷たかった。頬の煤がひんやりと冷える。空には雲の切れ間から星がのぞいていた。

「まったく……お辞儀一つで命がけとは」
「自業自得だ」リディアが言って肩をすくめる。「でもまあ、爆発オチなら、ミラの儀式としては成功かもな」

「成功……ですか?」
「読者的にはな」

 そう言って笑う彼女につられて、俺も苦笑した。風が髪を揺らし、焦げた匂いをさらっていく。俺は手を合わせて空に小さく一礼した。三十度より、少し深く。心の整理には、そのくらいがちょうどよかった。
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