異世界でカフェを開くことになりました

8. 失踪したカフェの常連客

カフェはさらに多くの客で賑わうようになった。私は、日々忙しくも充実した時間を過ごしていた。常連客も増え、その中には特に私と親しくなった人々もいた。しかし、そんな中で一人の常連客が突然姿を消してしまった。

ある朝、いつものようにカフェを開店準備していた私に、リュウが話しかけてきた。

「菜々美、エドワードさんが最近来なくなったの、気付いてる？」

「ええ、そうなの。エドワードさん、ずっと毎日のように来てくれてたのに、突然来なくなったから心配してるの。」

「何かあったのかな……。」

リュウは心配そうに呟いた。

「もしかしたら、彼の家に行ってみるのもいいかもしれない。何か手がかりがあるかもしれないし。」

私は決心し、ガイデンにエドワードの家の場所を教えてもらった。エドワードの家は町の端にあり、少し離れた場所にあった。リュウと私は一緒にエドワードの家に向かった。

エドワードの家は、町の喧騒から離れた静かな場所に位置していた。周囲には古い木々が立ち並び、小さな庭には色とりどりの花々が咲いていた。家自体は年季の入った石造りの建物で、古風ながらも手入れが行き届いており、エドワードの几帳面な性格が伺えた。

ドアに近づくと、私は静かにノックした。

「エドワードさん、いますか？」

しかし、返事はなかった。私は少し心配になりながら、ドアをそっと押してみた。鍵はかかっておらず、ドアは静かに開いた。

「失礼します……。」

リュウと私は家の中に足を踏み入れた。内部は清潔で、整然としていた。リビングルームには古い木製の家具が並び、暖炉には最近使った痕跡があった。壁にはエドワードの旅の写真や、彼の集めた珍しいオブジェクトが飾られていた。

「ここ、彼の家にしては静かすぎる……。」

リュウが小声で言った。

「エドワードさん、本当にどこに行ったのかしら……。」

私は心配そうに周囲を見渡した。私の目は、部屋の奥にある書斎のドアに留まった。

「書斎を見てみましょう。何か手がかりがあるかもしれない。」

書斎に入ると、そこにはエドワードの研究資料や本が整然と並んでいた。机の上にはいくつかの地図やノートが広げられており、最近使われた様子があった。

私はエドワードの日記を手に取り、ページをめくり始めた。すると、最近の記述に目が留まった。

「この日記、エドワードさんが最近何か重要な発見をしたって書いてる。」

「何の発見？」

「わからないけど、彼はそれについて詳しく書いてない。ただ、『町の外れの森で』とだけ……。」

リュウは少し考え込んだ後、提案した。

「菜々美、もしかしたらエドワードさんはその発見を追い求めて森に行ったのかもしれない。」

「そうかもしれないわ。でも一人でそんなことをするなんて……。」

私は心配そうに言った。

「よし、私たちもその森に行ってみよう。エドワードさんが無事かどうか確認しないと。」

リュウの提案に、私は同意した。私たちはすぐに準備を整え、町の外れの森へと向かった。

森に到着すると、そこは薄暗く、静寂に包まれていた。木々の葉が重なり合って陽光を遮り、まるで昼間でも夜のような暗さだった。ひんやりとした空気が肌に触れ、鳥のさえずりも聞こえない不気味な静けさが辺りを包んでいた。

「ここからは気を付けて進もう。森の中には何がいるかわからないから。」

リュウが警戒しながら進む中、私は心臓の鼓動を感じながら周囲を注意深く見渡していた。足元には苔がびっしりと生え、足を踏みしめるたびに湿った音が響く。枝が揺れるたびに、不安を掻き立てる影が地面に映し出され、その度に私はビクビクと身を縮めた。

「何か、嫌な感じがするわ……」

私は小声でリュウに呟いた。リュウは頷きながらも、鋭い目つきで周囲を警戒し続けていた。

「確かに、何かがいる気配がする。でも、エドワードさんを見つけるために進むしかない。」

しばらく進むと、足元に奇妙な跡が見え始めた。まるで何か重いものが地面を引きずったような跡で、その周囲には小さな動物の足跡も混ざっていた。

「これ、エドワードさんの足跡かもしれないわ……」

「そうだね、これを辿ってみよう。」

跡を追いながら進むと、遠くから微かな光が見えた。薄暗い森の中で、その光は希望の灯火のように輝いて見えた。

「リュウ、あれ、光が見えるわ！」

「本当だ。もしかしたらエドワードさんがいるかもしれない。」

私たちは光の方向に向かって急いだ。近づくと、それは小さなランプの光であり、その近くにはエドワードが倒れていた。

「エドワードさん！」

私は駆け寄り、エドワードの無事を確認した。彼は意識が薄れながらも、私たちに気付いて微笑んだ。

「菜々美、リュウ……来てくれたのか……。」

「大丈夫ですか？何があったんですか？」

エドワードは弱々しく話し始めた。

「この森で、古代の遺跡を見つけたんだ……。でも、そこに魔物がいて……戦ったけど、負傷してしまって……。」

「そんな……すぐに治療しないと！」

リュウは急いでエドワードを支えながら、町へと戻る準備を始めた。

「ありがとう、リュウ、菜々美……。」

エドワードは感謝の言葉を紡ぎながら、力尽きるように目を閉じた。私たちは急いでエドワードを町に戻し、医師へ診せることにした。

医師の診察を受けたエドワードは、幸いにも命に別状はなく、数日の安静で回復することができると言われた。私はその知らせを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。

「本当に良かった……。」

リュウも安心した表情で頷いた。

その時、町全体が微かに揺れ始めた。私は驚いて周囲を見回した。

「何か地震のようなものを感じたわ。」

リュウも同じく感じ取り、表情を引き締めた。

私は不安を抱きつつも、エドワードの無事を確認し、次の対策を考えるためにリュウと共にカフェに戻った。