光速文芸部Ⅲ~トライアル&ラブレター~

きうり

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第四章

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   四
手紙は、美幸さんの机から智子さんの机へ移った。
喪が明けて間もなく登校してきた岸君は、高柳君に礼を言ってきたという。やがて彼と智子さんはつき合い始めた。
「だが僕は基本的にその後のことは関心がなかった。だからトラブルが起きていたことも全く知らなかった」
 彼は言う。
ここからは、当時の会話を再現しながら書こう。

   ☆

 ある日の休憩時間、岸君が困り顔で言ってきた。
「高柳。あの日の手紙のことで、倉持って奴から質問されたよ」
「質問というと」
「手紙を移動させたのは誰だ──って」
 高柳君は驚いた。
「それは奇妙だ。その倉持という人は、なぜそれを知っているんだろう」
 当時の彼は、倉持君とは全く面識がなかった。
「どうもややこしい話になってるらしい」
 岸君は説明した。
 あの日の放課後、五組の教室には何人かの女子が居残っていた。
日が沈んでも彼女らは帰ろうとせず、一人の男子を取り囲んでおしゃべりをしていた。
 この男子とは、倉持君である。
 また、彼を囲む女子の中には、名和美幸さんもいた。
 倉持君のクラスは五組ではない。だが、彼は放課後に廊下で偶然彼女たちと出くわし、この教室に引き込まれたのだ。彼は甘いマスクと長身、そして社交的な性格ゆえに女子からの人気は高い。ミーハーな女の子たちは、彼と話ができるチャンスを逃さなかったというわけだ。
場は盛り上がっていたという。
そろそろ帰ろうかという空気になったのは、空模様が急に怪しくなってきた頃だ。
その時、一人の女子がふっと話の輪から外れた。それが美幸さんである。何気なく、机の中に忘れ物はないかと確認したのだが、彼女はそこで例の手紙を見つけた。
「あ……悟っちからだ」
 驚きの声をあげる彼女。淡い色の封筒に、差出人名だけが書いてあった。
皆の視線が集まる。女子たちは、彼女の三角関係のことは聞いていた。中身を見なくとも、それがラブレターであることは想像がつく。場は沸き立った。
「えっまじ、それってラブレターじゃん」
「すげー! あたし初めて見た」
「見せて見せて。何書いてあんの」
 こんな調子である。倉持君もまた、今時ラブレターなんてあるんだなと他人事のように眺めていた。
だが、美幸さんは開封しなかった。素晴らしいアイデアが浮かんだのだ。明日の朝、智子さんの目の前で開封するのである。登校してきた彼女の目前で、さも今見つけたような顔で見せびらかすのだ。
そんなことを考えるくらいだから、二人の関係は相当冷え込んでいたのだろう。さすがに、その場にいた女子の何人かはちょっと引いた。
また、倉持君も内心では呆れていた。以前、彼は遊び半分で美幸さんをナンパして一緒に帰ったことがある。彼女はパッと目を引く美人なので「つい声をかけてしまった」そうなのだが、さすがにこの時は幻滅し呆れたそうだ。
そんな空気には気付かず、美幸さんはクリアファイルを取り出し、その中のプリント類の間へ手紙を挟んだ。そしてさらに、そのファイルを机の奥へ押し込んだ。
さて、教室を出る際、倉持君はこう申し出た。
「教室の鍵は俺がかけるよ。天気も悪いし、君たちは早く帰りな」
 お優しいことである。女子たちはその厚意に甘えて帰っていった。
 ……そして彼も、施錠を済ませて帰った。

   ☆

「それはトラブルにもなるわね」
私は感想を述べた。
翌朝、その手紙は美幸さんの机からかき消え、智子さんの手に渡っていたのである。勿論高柳君の仕業だ。
智子さんは見せびらかしたりしなかったため、美幸さんも最初は気付かなかった。
手紙の紛失について、彼女は悠長に構えすぎていた。勿論最初は訝しく思った。だが岸君に選ばれたのは自分だという自信もあったのだろう。いずれ彼に確認すればいいと思っていたらしく、気付いた時には、既に岸君と智子さんはつき合っていた。
 こうして彼女の犯人探しが始まった。「あたしに届いていた手紙を、智子に渡したのは誰!?」と。
「岸君は、なぜ宛先を書かなかったの」
「忘れていたらしい」
 私の問いに、高柳君が答える。
「拝啓、本文、敬具、そして差出人名を書くので精一杯だったそうだ。だから僕も宛名を書き換えたりする必要はなかった。机から机に移動させるだけでよかった」
 いわば、机に入れるだけで誰宛にでもなりうる汎用ラブレターだったわけだ。
「そして、五組の教室を最後に施錠した俺が疑われた」
当然そうなるだろう。施錠すれば密室である。最後に施錠した彼が疑われるのは道理だ。
「しかも俺には動機があるとまで言われた。前に一度、美幸ちゃんと二人で帰ったことを蒸し返されて、本当は彼女が好きだから妨害工作したんだろうと勘ぐられたんだ」
 自業自得である。それでも彼としては不本意だったのだろう。だからわざわざ岸君に聞き込み調査を行なったりしたわけだ。
 そこで、ひとつ疑問が湧いた。
「ちょっと待って。施錠されていたのなら、高柳君は教室に入れないわ。変よ」
 全ての教室の鍵は、普段は教室内にあり、放課後に最後に出て行く生徒が施錠するルールだ。鍵はその後、職員室の鍵置き場に戻すことになっている。
「高柳君。貴方、わざわざ職員室に鍵を取りに行ったの」
「行ってないよ。鍵がかかっていればそうするつもりだったが」
「やっぱり。──倉持君、貴方は本当に五組の教室に鍵をかけたの?」
 かけたよ、と彼は頷いた。
「鍵も職員室に返した。そういえば最初、美幸ちゃんからも同じことを聞かれたっけ」
「そうでしょうね」
「だがその時は、そんなトラブルになっていたなんて俺も知らなかった。だから鍵はかけたよってごく普通に答えたら、即座に犯人扱いされたんだ。──それに、俺が疑われた理由はもう一つあった。施錠する直前に、学校が雷で停電したんだ」
「停電?」
「ああ。日は完全に暮れて外は大雨、しかも停電ときて校内は真っ暗だ。あらかじめ隠し場所を知っていない限り、美幸ちゃんの机から手紙を探し出すのは不可能だった」
彼女は手紙をクリアファイルの書類の中に挟み込み、机の奥へ入れた。それを暗闇で見つけ出すのは至難の業だろう。だが彼はその現場を見ていたのだ。
「俺が女子たちを見送った段階では、停電はしていなかった。だから俺が犯人だとすれば、まだ校舎内が明るいうちに“犯行”可能だったことになる。俺は綺麗に犯人の条件に当てはまったんだ」
「もっとも、それは美幸さんの立場から見た場合の話だ」
 正真正銘の“真犯人”である高柳君が言った。
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