光速文芸部Ⅲ~トライアル&ラブレター~

きうり

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第六章

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   六
「貴方、回りくどすぎ」
 何が“時系列で言えば……”だ。順序が滅茶苦茶じゃないか。
「済まない。だがあの時も、美幸さんの問題意識の配列に沿って説明したらこうなったんだ」
 彼は大真面目に釈明した。私は話を一番最初に戻す。
「それで。貴方の言う“悪いこと”の内容は分かったわ。それがこれから会う女の子と何の関係があるの」
「その女の子というのは、名和美幸さんなんだ」
「あらそうなの」
「僕は彼女に、罪滅ぼしのためにできることは何でもすると言った。そうしたら、今日呼び出されたんだ」
「それは、何の用かしら」
 どきりとする。すると倉持君が、
「罪滅ぼしに私と付き合って、じゃないのかね」
「彼女がそこまで浅はかということがあるだろうか──」
 高柳君は、即座に反語で疑義を示した。
 彼は間もなく部室を出て美幸さんに会いに行った。できるだけすぐ戻ると言っていた。倉持君はいつもの自分の椅子に腰かけて、こう言った。
「美幸ちゃんとしては、チャンスのつもりだと思うぜ。岸は葉山智子ちゃんに持っていかれた。そのかわり高柳との縁ができた。よし、あたしは智子なんかよりもずっと格好いい彼氏を作ってやる、ってな」
 それを聞いてふと思った。なぜ彼女は倉持君犯人説にこだわったのだろう。彼女にとっては、もしかすると、それ自体も一つの縁のつもりだったのではないか。彼の無実が立証されなければ、彼氏になるよういずれ強要されていたかも知れない──というのは邪推しすぎだろうか。
「岸君というのは、取り合いになるほどいい男なのね」
「さてね。まあ俺ほどじゃあるまい」
 わざとらしく茶色の前髪をかき上げる彼。同意を求めるように私をちらりと見たのが分かったが、知らぬ振りをしてワープロを叩き続けた。
「岸の株は、その一件で急落したみたいだけどな。ラブレターを他人に預けて机の中に放り出していくって何それ、って」
「高柳君が全部自分で判断してやったなんて、誰も信じていないでしょうしね」
彼は“相談”を受けて自発的に行動したかのように話したが、実際には岸君から“依頼”を受けて動いたのだろう。そのくらい想像はつく。
「んだな。むしろあいつの株を上げる結果になった」
「貴方と高柳君が推理合戦を毎日繰り広げるようになったのも、それがきっかけだったの?」
 つい先日まで、二人は校内で出くわすごとに謎解き勝負をやっていた。どちらかというと、倉持君が一方的に対抗意識を燃やして挑戦し、いつも負けていたと思う。
「おお。そうだな、俺は自分の潔白を自分で証明できなかった。謎解きについては変なコンプレックスが残ったのかも」
 ずいぶん素直に認めている。
「──それに俺、思ったよ。あいつが俺と美幸ちゃんの前で全部白状して説明したとき、こいつは本当は理屈を捏ね回してごまかして、責任逃れをすることもできたんだろうな──って」
 高柳君の理論癖は突出している。彼はそれを悪用せず、あくまでも倉持君の無実の証明のために利用したのだ。
「だから俺は、」
 そこで彼は急に口をつぐんだ。饒舌な彼も、少し喋りすぎたと感じたのだろう。
 ──嫉妬したのね。
 私には分かる気がした。
その一件において、高柳君は完全な道化だった。だが、間抜けなお人好しも貫徹すればそれなりに“決まる”ものだ。現に──と言うべきかどうか分からないが──二人の美少年といっぺんに縁ができた美幸さんも、今日はこうして高柳君を選んでいる。おそらく倉持君は、高柳君の清廉さと誠実さに嫉妬したのだ。
 その高柳君は間もなく戻ってきた。部室のドアを開けてゆるゆると入ってきたところで、倉持君が声をかける。
「おお。どうだった」
「うん」
「うんじゃねえよ。優実ちゃんが気にしてるぜ」
「気にしてないわ」
即座に否定した。実は少し気にしていた。
「やはり倉持君、君が予想した通りのことを言われたよ」
 彼は自分の席についた。
「じゃあどうするんだ」
「それとこれとは話が違う。こう答えておいたよ。──結論としては、お断りする。僕は君に関心がない。いくら罪滅ぼしのためと言っても、気持ちのないつき合いはお互いに辛いだろう、と」
 ちょっとストレートに過ぎやしないか。私は唖然とし、倉持君は笑ってさらに問い詰める。
「あの子のことだ、しつこく聞かれたんじゃないか。他に好きな人がいるのかって」
「それは、」
 言葉が途切れて間が空いた。私や倉持君にしか分からない程度の、ごく微細な間だった。
「──聞かれなかったよ」
「ふん。本当かね」
面白がるように突っ込まれても、彼は黙っていた。
「それよりも優実さん、今日もまたワープロの使い方を教えてほしい」
 最近ブラインドタッチを勉強している彼は、唐突に話題を変えた。なぜか私から微妙に視線を逸らしている。
「いいわよ」
自分の文書をフロッピーに保存した。
「やっといつもの文藝部の風景だな」
 倉持君は、読みかけの文庫本を取り出して読書の体勢に入った。
 高柳君はまだこちらに目線を向けず、本を鞄に片付けている。なんとなく私も彼と目を合わせにくい。
勿論私は、名和美幸さんのように浅はかじゃない。
それでも少しだけ思う。彼は正直だ。いつもはっきりしている。でもやはり、聞き出すのに時間がかかるような事柄もきっとあるのだろう。
まあいい、私たちの時間はまだたくさんある。少しくらい多めに費やしても構わない。この、毎日の文藝部の風景の中で、今日もそんな時間の消費は続く。
いつも通りの部活動が始まる。そのことに少し安堵しながら、私はU1-PROを彼のほうへ向けた。
〈了〉
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